表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で歩むけものみち ~魔獣保護機構設立物語~  作者: Rom-t
けものみち4本目 目覚めの道
41/99

第三十二歩 【王宮と隠し扉】

 フェルに咥えられた俺とコタロウは徐々に騒がしくなる城内を身を隠しながら移動していた。


「動いている兵を見る限りだとグラブしか動いていないみたいだな」


 周辺を探しているのはグラブの制服を着た兵士ばかりだ。

 以前の町での一件もあるし、隊同士にも軋轢があるのだろうか?


「しかし、グラブの奴ら。的確に我らのいる辺りを捜索しているな。探索魔法の類か?」


 グラブの兵たちは俺たちが移動した先々に集まってくる。

 見つかっていないことから明確な場所は把握されていない様だが追跡されているのは間違いないと思う。

 そして問題はもう一つ――


「バーンさん、大丈夫ですかね?」

「分身体といっていたからな。出会ったばかりの我らの為に傷付くような玉でもなかろう」

「なら良いんですけど……シュウスケさん達とも連絡が取れなくなっちゃいましたね」


 バーンがいなければこの広い城内でシュウスケ達と合流するのはほぼ不可能に近い。

 それどころか、俺たちがグラブに見つかってしまったせいでシュウスケ達まで危険になるはずだ。


「うぅ……怖いです」

「怖い? 何が?」


 俺はコタロウが何気なくつぶやいた言葉に反応した。

 その途端にフェルとコタロウが怪訝な表情を浮かべ俺を見る。


「ルイさん?」

「ルイ、貴様……」


 俺は二人の表情の意味が分からなかった。


「え? 一体、どうしたんだよ?」


 俺は戸惑い聞き返したが、二人はなかなか口を開かない。


「この近くにいるはずですわ! くまなく探すのです!」


 甲高い女性の声と共にフェルの毛が一気に逆立つ。

 その声の主はファイザとかいう女騎士のものに違いない。


「あの女……やはりあいつが指揮を執っている様だな。俺たちの位置を割り出しているのも奴だろう」


 俺はコタロウと同じサイズになったフェルをコタロウと一緒に抱え、物陰に隠れながら移動する。

 しかし、それに合わせるようにグラブの捜索範囲も移動してくるため状況が好転しない。


「不味いな。奴らは明らかに我らの位置を把握している。見つかるのは時間の問題だぞ!」


 俺たちがそんな話をしている時だった。

 一人の兵が俺たちが隠れている物陰へ近づいてきているのが見えた。

 さらに別方向からはファイザの一団が迫る。


「こうなれば仕方あるまい!」


 フェルは腕の中から飛び出すと人と同じくらいの大きさになり、近づいていた兵士を跳ね除ける。

 俺が背中に乗るとフェルは風のように駆けだした。


「見つけましたわ! 逃がしませんよ!」


 俺たちの姿を見つけたファイザは剣を抜き放ち、部隊に指示を出しながら追ってくる。

 スピードは上だが、地の利が無い俺たちは先回りする兵士たちに行く手を阻まれ、どんどん距離を詰められていく。


「クソ! こうなれば……」


 業を煮やしたフェルは方向を変えると、近くにあった入り口から屋内へと突入した。


「ルイ、交代だ! なるべく狭い通路へ逃げろ! 奴単体ならば我が何とかできるはずだ!」


 フェルはサイズを縮小すると腕の中に飛び込む。

 俺はフェルの指示を受けながらどんどん通路を進んでいく。

 後ろからは兵たちの足音が聞こえるが姿はまだ見えてこない。


「このまま行けば逃げられそうですね……あ、ちょっと待って下さい!」


 腕の中のコタロウが急に叫び、俺は歩みを止める。


「どうした?」

「廊下の先からも足音が聞こえます!」

「挟み撃ちって事か!」


 長い廊下の前後から兵が迫り、脇道や部屋のドアなどは見当たらない。


「何をぼさっとしている! この扉に入るしかなかろう!」


 フェルが叫ぶ。


「何言っているんだ扉なんてどこに?」


 俺たちが右往左往している間に足音はどんどん近づいてくる。


「えぇい! 良いから入れぇ!」


 痺れを切らしたフェルが俺の身体に突進するように壁に押し当てる。

 すると俺の身体は壁をすり抜けて後ろ向きに倒れこんだ。

 そして俺の目に見えるのは逆さまになった実験器具の様な物の数々。

 さっきまでの殺風景な石造りの廊下とはえらい違いだ。


「オイ、奴らはどこへ行ったんだ?」

「確かに先回りしたはずだが……」


 扉の向こうでは俺たちを追ってきた兵たちが俺たちの行方を捜している様だ。


「追手もこの部屋は見えないみたいだな。一体、この部屋は何なんだ?」

「ここはワシの研究室じゃよ」


 急に耳に響いた声に俺たちは一斉に飛び起きた。

 俺たちが見た方向には螺旋階段があり、そこを一人の老人が下りてくる。

 白いひげを蓄え、ローブを纏っているが袖と裾は捲られており、ぼさぼさの髪を含めると威厳とかそういった類のものは感じられない。


「この部屋はワシに会ったことがある者しか入り口が見えないようになっておる……はずなのじゃがのぉ。ワシはお前さんの顔にはちぃとっも見覚えが無いのぉ。それにお前さん、さっきは誰と話しておったんじゃ?」


 その老人が俺の顔をまじまじと見つめた後に足元にいるコタロウとフェルに視線を落とす。

 コタロウを一瞥し、フェルに目をやった瞬間、老人は目を丸くする。


「ありゃあ! これは驚いた! ちっこくなってたんですぐには気付かなんだが、お前は勇者の小僧と一緒にいた毛玉君じゃないかね?」


 老人が発した言葉に俺たちは耳を疑い、フェルは目を背けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ