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異世界で歩むけものみち ~魔獣保護機構設立物語~  作者: Rom-t
けものみち4本目 目覚めの道
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第三十一歩 【王宮と潜入 ~素材庫~】

「よし、行ったみたいだ」


 外の様子を窺っていたフェルが俺たちに合図を送る。

 その合図を受けた俺とコタロウは馬車の床板をはがし、外へと出た。


「ここはどこだろう? シュウスケ達は一体どこに?」


「シュウスケ君と魚は食物庫のような場所に着いたようだ。とりあえずはお互いに情報を集めながら、俺っちの分身体を通して共有するのが吉だろうなぁ」


 バーンの言葉にうなずいた俺たちは馬車の下から辺りを窺う。

 見回すと部屋の中には獣の毛皮や爪の様な物が多く置かれていた。

 素材庫のような場所なのだろう。


「何とも気分が悪い場所に着いてしまったものだな。さっさと抜け出てしまおう」


 フェルが忌々し気に素材が積まれている棚を見つめる。


「うぅ、怖いです……」


 足元で震えるコタロウを抱きかかえ、フェルの先導に従い進んでいくとかがんでやっと通れるほどの小さな扉が見えてきた。

 その扉には鍵がかかっているようで、押しても引いてもびくともしない。


「どうしようか?」


「任せておきなさいって! 俺っちにかかりゃぁこんなもん!」


 バーンは扉の前に立つと翼の先を鍵穴に突っ込んだ。


「俺っちは生きている炎だぜ。このくらいの鍵だったら形さえ合わせてやれば……」


 ガチャンと音がして扉が開く。

 バーンのドヤ顔にフェルが冷ややかな目線を向けている以外は非常に順調だな。


「おやおやぁ? この美しき王宮内には全くそぐわない方々とお会いしてしまいましたわぁ」


 扉をくぐり、外に這い出た瞬間に響いた声に俺たちの背筋が凍る。

 甲高くおっとりとした響きに、金属が擦り合うような音が不協和音の様に耳に響く。


「魔獣を使役する異界人。まさか王宮にまで忍び込んでくるなんてぇ……勇敢を通り越して単なるおバカさんですわねぇ」


 俺が顔を上げるとそこにいたのは一人の騎士。

 バラの紋章が刻まれた赤い洋装に身を包んだ波打つ金色の長髪の女性。

 高貴さで身を固めたような外装と指輪をした手で剣を撫でる仕草がどこかミスマッチなその騎士は深い笑みを浮かべながらこちらを見ている。


「な、何者だ貴様! 我やバーンが一切気配を感じないとは……」


 フェルは人間が乗れるほどまで身体を大きくすると、全身の毛を逆立たせ威嚇するが騎士は全く動じない。


「ガウガウうるさい魔獣ですわね。それにこの匂い……だから獣というものは好かないのです」


 怪訝な顔を浮かべながら口元を覆った騎士は俺たちを一瞥すると、剣に手をかける。


「あなたは一体?」


 俺はフェルの通訳をするように騎士に問いかける。

 この問いを受けた騎士は髪をかき上げ、ため息を吐く。


「礼節を重んじる(わたくし)はあなた達の様な卑しい者たちにも名乗ってあげましょう。(わたくし)こそ〝グラブ〟捜索統括を務める高貴なる騎士 ファイザ・コルレルとは(わたくし)の事ですわ」


 グラブの名を聞き一層高まる緊張の中、ファイザと名乗った女騎士が剣を抜く。


「あなた達には生意気にも生きて捕らえろとの命が下っておりますので……殺さない程度に痛めつけさせていただきますわ!」


 ファイザは目を見開くと、口元に笑みを浮かべたまま剣を振りかざす。

 フェルはその一撃を軽く避け、反撃に転じようとするがファイザの動きを見て一気に飛び退く。

 その瞬間、フェルの前足があった辺りをファイザの突きが貫いた。


「流石は王が警戒する魔獣。この連撃を見切るとは褒めてあげますわ……ならば!」


 ファイザはフェルの眼前から離脱すると次の瞬間には俺の眼前に迫っていた。


「攻めるときは弱点から攻めるのは定石ですわ!」


 フェルを狙った突きが俺に迫る。

 もちろん俺に避けることなど叶わず、時間がスローモーションの様に流れる。


「チクショウ! さっさと逃げろ!」


 俺の身体を押しのけて剣先に飛び出したのはバーン。

 俺は地面に倒れ、刺突はバーンの身体を貫く。

 貫かれたバーンの身体は一瞬膨張すると破裂し、白い煙が辺りに広がった。

 

「クソがっ! 逃がさねぇぞ!」


 今までと違い、怒気が混ざった荒々しい声が聞こえたかと思うと、俺は服の襟を誰かに引っ張られその場を離れる。

 


 ※

 煙幕が晴れ、ファイザが辺りを見回す。

 辺りにルイ達の姿が無いことを確認したファイザは手袋に描かれている魔方陣を起動した。


「ギリアム様、報告があります」


『ファイザか。俺のお楽しみの時間を邪魔しても許される要件なんだろうなぁ?』


 魔方陣の向こうからはギリアムの他に複数人の女性の声が聞こえてくる。

 ファイザは魔方陣に届かぬように舌打ちをすると報告を再開した。


「王命にあった異界人が王宮に侵入してます。たった今、奴らと接触しました」


『んで? とっ捕まえたのか?』


「いえ、一匹は仕留めましたが、異界人とかの魔獣はこの場から退きました」


『あっそうかい。ならとっ捕まえたらまた連絡くれよ。お前の鼻の良さなら簡単だろ?』


「……分かりました」


 興味無さげに応対するギリアムに苛立ちつつ、了承した。

 魔方陣を切ろうとした時、ギリアムの声が響く。


『ファイザ~また口調戻ってるぜ。まぁ、俺はそっちの方が好きだがな』


 魔方陣を切ったファイザはフッと笑うと深い笑みを作り、その場を去っていった。

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