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異世界で歩むけものみち ~魔獣保護機構設立物語~  作者: Rom-t
けものみち4本目 目覚めの道
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第二十九歩 【王宮と潜入 ~城門~】

さぁ・・・始めよう‼

 俺とコタロウ、フェルは暗く狭苦しい空間でじっと息を潜めていた。


「おい、本当に大丈夫なのか? こんな方法ですんなりと王宮へ入り込めるとは思えないのだが……それに息苦しくてかなわん」


「これが一番現実的な方法だってイゼアさんが言ってましたし、仕方がないですよ」


「コタロウ、お前は元から小さいから良いがな。我はスキルで身体を縮めている分圧迫感があるのだ!」


 フェルが不満を漏らすのも無理はない。

 俺たちは今、王宮に物資を運ぶための荷馬車に乗っている。

 しかし、乗っているとは言っても荷台の床の下にある空間に伏せるような形で身を潜めているのであって、身動きはほぼ取れない状態だ。

 イゼアの話だとここは貴族たちが裏取引の品を場内に持ち込む為に利用するらしい。

 一部の番兵しか知らないし、知っていても中身を確認しない事が暗黙の了解になっているそうだ。

 まさしく潜入にはもってこいという訳だな。

 今回は二台の荷馬車が入るため、俺たち以外のメンツはもう一台の方に乗っている。

 あ、忘れちゃならない奴がもう一匹……


「お、そろそろ城門に差し掛かるぜ! 君たちも見たらどうだい・・って見えないかぁ!」


 声を潜めながらもハイテンションな手のひらサイズの炎の塊。


「うるさいぞ、鳥! 我は今、気が立っておるのだ! そもそも、なぜお前が同行している?」


「あーもー! その質問、聞き飽きたって! 後ろの魚もやいのやいの言ってくるし……君たちには遊び心が足りないんじゃないかい?」


 掌の上ではしゃいでいるのはバーンの分身体。

 分身体は後続車に乗っているシュウスケとメガロの方にも同行していて、本体は上空から荷馬車と周囲の動向を観察しているそうだ。


「俺っちは泊まり木を探して流浪する孤高の不死鳥なのさ。霊薬の知識も十分得たし、イゼアの隣にいるのも飽きたところでねぇ。君たちが面白そうな事をしでかしそうだから付いて行ってみようかなってさ!」


 バーンはつらつらと言葉を並べて説明していくが、フェルの反応は冷ややかだ。


「つまり我らの事もいつ見限るか分からんって事じゃないか? 信用しろという方が無理だな」


「まぁ、そういうことになるかな。でもさ、俺っち最高に優秀だから役に立つよぉ! 今だけ特別サービスってやつよ! いやぁ、君たち運がいいねぇ!」


 そんな冷ややかな視線も気にせず、バーンは飄々とした態度を崩さない。


「バーンさんが一緒に来てくれるなら心強いです! よろしくお願いします!」


 コタロウが尻尾を振りながらバーンにお辞儀をする。

 コタロウは純粋で良い子だなぁと改めて感心しながら俺が頷くとバーンの分身体はその小さな胸を思い切り張った。


「まぁ、任せておきなさいって! この完全無欠のフェニックスさんがいれば大抵の事は何とかなるぜ……っと、そろそろ城門が近いな。ここからはおしゃべり無しって事で行こう!」


 ほぼほぼバーンが喋っていたじゃないか……という事は置いておいて、いよいよ城門に突入するらしい。

 因みにバーンの本体とこの分身体は繋がっていて分身体があればそこへ本体を移すことは容易らしい。

 本人が自慢するだけあって本当に多才なものだと思う。

 そうこうしている間に馬車の外が騒がしくなってきた。

 何人もの声が聞こえてきて、あわただしく動いている様子が音だけでわかる。

 上空からバーンが見張ってくれているわけだからバーンが動かない限り俺たちはじっと息を潜めているしかできない。

 しばらく荷馬車はその場に留まっていたが、何度か人が出入りする音がした後、再び進みだした。


「どうやら城門は無事に突破できたみたいだぜ!」


 バーンがニヤリと笑いながら報告してきた。

 俺たちはホッと胸を撫で下ろしたが……


「あ、あれ? あれまぁ!」


 バーンが目を丸くして、間が抜けた声を挙げた。


「ど、どうしたんですか⁉ まさか、バレたんですか?」


「い、いやぁ、バレちゃいないんだがさぁ。城門を抜けた後、修理小僧&魚付きの荷馬車がこの荷馬車とは逆方向に行っちまったんよ……」


「何だって‼」


 シュウスケ達が乗った荷馬車がはぐれたって⁉

 それって少しヤバいんじゃないか?


「まぁ、俺っちの分身体が付いているから追跡は簡単なんだがね。合流するのには骨が折れそうだぞこりゃ……」


 いつも飄々としているバーンが焦っているところを見ると状況は思わしくない様だ。


「荷馬車から出たらバーンはシュウスケ達に同行してくれないか? 数合わせ的にもその方が良いと思うし」


「ん? それは構わないけどさ、おたくらは大丈夫なの? 戦力になるのは白い狼君くらいじゃんよ?」


「俺よりもシュウスケの方が心配だからさ。頼むよ!」


「フン、このお人好しが……まぁ、こっちには我がいるのだ。問題なかろう」


 フェルの言葉を受けて、バーンも納得したように頷く。


「分身体は残しておくしな。それを通して連絡し合えば何とかなるだろうよ! ……それよりも狼君?」


 バーンは何かに気付いた様に声色を変える。

 それに反応する様にフェルの顔が引き締まる。


「あぁ、貴様も気が付いたか……いくつもの異様な気配を王宮の中に感じる。用心するに越したことはない様だな」


 バーンとフェルは明らかに何かを感じ取ったようだが、俺はともかくコタロウもそれを感じることはできない。

 これは魔力の匂いとかそういうものではなさそうだ。

 


 城門を抜けた俺たちは遂に王宮の中へと潜入を果たした。

 しかし、その先に何が待ち受けているか……この時点においては誰も予想ができていなかったのである。


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