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異世界で歩むけものみち ~魔獣保護機構設立物語~  作者: Rom-t
けものみち 2本目 集いの道
26/99

けものの脇道  ~居残り組の苦難~

ちょっと脇道

 時は少し遡り、ルイ達が湖に出発してから少し後。

 療養所の一室でシュウスケが目を覚ました。


「う~ん、良く寝たっすねぇ。

 こんなにぐっすり寝たのはこの世界に来る前じゃないっすかねぇ?」


 シュウスケが首を揉みながら辺りを見回すと、俺の足下でフェルとミディが眠っているのが見える。


「俺の事心配してくれてたんすか……可愛い奴らっすねぇ」


「ガウア~(うるさいぞ!)」


 シュウスケの声を聞くなり、フェルは閉じていた眼を尖らせる。


「ガウ、ガウガウ‼ ガァウ‼

(ルイの奴があまりにも厄介なことに首を突っ込むから尻拭いをしてやってるのだ‼

 もう少し寝ていても罰は当たるまい‼)」


 フェルはいつもの調子で話しているが、シュウスケには届かない。


「フェルさん、何言ってるかわかんないっすよ! 普通に話してくださいって!」


「ガウガウ‼(シュウスケ、お前さっきからふざけているのか!?)」


 二人はそこでとある事に気づく。


「あ、なるほど。

 今はルイさんがいないんだ。

 ルイさんの〝言語理解〟が無けりゃ話せるわけないっすね」


「ガ~ウ(最近は普通に会話をしていたから失念していたな)」


 とりあえずルイを待つことにしたフェルたちだったが、フェルには一つ疑問が残っていた。


(シュウスケがこの旅に加わった時、こいつとは直接会話できなかったはずだが……類のスキルが成長したのか?

 それとも別に要因が……ん?)


 フェルは考えを巡らせようとしたが、それを阻むように複数の人間の気配を感じる。

 その気配を察したのか眠っていたミディも目を覚ました。


「ガウ‼ ガウガ~‼(オイ、殺気を感じるぞ‼ 急いで身を隠すか逃げ出すかしろ‼)」


 フェルはシュウスケの裾をぐいぐいと引っ張るが、シュウスケはフェルの意図を理解できずにいる。


「な、何をするんすかフェルさん。

 服が伸びちゃうっすよ‼」


 フェルはシュウスケが服を気にしている様子を見ていら立ちが募る。


「ガウ‼ ガウ‼

(のんきなことをやっているんじゃない‼ それにお前は服くらい修復できるだろうが‼)」


 そうこうしている間にも人の気配は療養所の周りを囲むように展開していく。

 明らかにこちらへ敵意がある行動だ。


(クソっ‼ 言葉が通じないのがこんなにも面倒臭いものとは思いもよらなかった)

 

 フェルは意思疎通ができるミディと共にシュウスケを引きずりながら棚の影に隠れる。

 その途端にドアがゆっくりと開けられ、複数の人影が入ってくる。

 足音もなく侵入してくるところを見るとどこかで訓練を受けた一団の様だ。


(我でなければ気配に気付けなかったかもしれんな。

 ミディもその後に気付いたようだったな。なかなかに優秀な奴の様だ)


 フェルは棚の上に隠れながら様子を窺うミディを見て改めて感心する。


(それに引き換えシュウスケの奴は……一人で置いておいたら確実に殺されていただろう)



 シュウスケはやっと状況が飲み込めた様で刺客を見ながら震えだした。


「な、何者なんすか? ターゲットはもしかしなくても俺達っすよね!?」


「ガ~ウ! ガウガ!(えぇい、震えるな! みっともない‼)」


 刺客たちは部屋の中を進み、シュウスケの寝床へとたどり着く。


(このままでは捕まるのは時間の問題だな……なんとかせねば)


 フェルは考えを巡らせるが、呪いで魔力が削られてしまっている状態では戦闘は不可能に近い。


「キュイ!」


 そこに戻ってきたのはミディ。

 目立たないところから刺客たちを観察していたミディは何かを口に加えてきていた。


「な、何だこれ?」


 シュウスケが手に取り、フェルに見せると飛び切り上等な霊薬だったことが判明した。


「ガ~ウ‼ ガウガウ~!(でかしたぞミディ‼ これでなんとかなるかもしれん!)」

 

 フェルはシュウスケに握られている瓶のふたを開け、霊薬を飲み干す。

 その瞬間、フェルの身体に魔力が充填され、充実していく。


「ガウウガ~!(カース・リジェクト!)」


 フェルは解呪魔法であるカース・リジェクトを唱え、一時的に足の呪いを封じ込める。


「ワオ~ン‼(さぁ行くぞ‼)」


 フェルは〝体躯変化〟を発動させると一気に身体を巨大化させる。


「む! ターゲットは奴らだ。

 生け捕りにしろとのお達しだからな、殺すなよ。

 湖の方はそろそろ片が付く頃だろうからな」


(どうやら、この世界の人間の言葉はある程度理解できる。

 しかし……何? 湖だと?)


 フェルは湖に行ったルイ達を思い至る。


(なるほど、この一連の事件の流れが見えてきた気がするぞ。

 となれば、こいつらを片付けて終わりというわけにはいかぬな!)


 刺客たちは巨大化していくフェルに気付き、戦闘態勢をとる。


「グワッオォォォォォォ‼」


 フェルはその背にシュウスケとミディを乗せ、大きく咆哮する。

 その咆哮に一瞬、刺客が怯んだ隙をフェルは見逃さない。


「ガウッ‼ (行くぞ‼)」


 フェルは勢いよく飛びあがると天井を突き破り、飛翔する。


「クッ! また尻拭い役に回ってしまったではないか‼ これも全部あいつが悪いのだ‼」


 フェルはぶつぶつと文句を言いながら湖へと急ぐのであった。

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