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異世界で歩むけものみち ~魔獣保護機構設立物語~  作者: Rom-t
けものみち 2本目 集いの道
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第十五歩 【発端と目的地】

 一連の騒動が落ち着きを見せた頃には日が落ち、辺りがすっかり暗くなっていた。


「〝属性魔法:フレア〟‼」


 俺はコタロウ達が集めてきた薪に火を点けようと魔法を行使するが……


「お前……本当に練習してたのか?」


 フェルが呆れるのもしょうがない。

 なぜなら俺の手から放たれた火球はマッチの火程度の大きさで、一発では枯れ木にさえ火を点けるに至らない火力だったからである。


「風魔法もそうだったけど、本当に属性魔法下手なのね。

 強化魔法は悪くない性能なのに」


 今日からツッコミ要因が増えたようで、手厳しい言葉が続く。


「〝フレア〟‼」


 俺以外の手から放たれた火球は確実に薪に火を穿つ。

 いくら龍人族とは言え、腕力に続き魔法でも女の子に大敗を喫してしまった俺の役立たず感は計り知れない。

 俺は静かにうなだれた。


「あ、まだ今日の今日じゃ仕方ないわよ!

 魔力量は悪くないんだし、これから効率さえ上げればあなただってきっと……」


「あ、うん。ありがとう。

 大丈夫だから……本題に入ろうか」


 俺はこれ以上哀れな姿を晒したくなかったのもあり、180°話を戻すことにした。


「改めて自己紹介をさせてもらうよ。

 俺は沢渡 類、この世界でいうところの異界人さ。

 それでこっちの黒いのが一緒にこの世界に来たコタロウ、白いのがこの世界で会ったフェルだ」


「私はリントヴェルム・ドレイシア。

 さっきも言ったと思うけど龍族を守護する龍人族の一人よ。

 改めて今回の件を謝罪するわ。

 本当にごめんなさい」


「あぁ、その事だったら全然気にしてないよ。

 えぇっと……ドレイシアさん?」


「悪いのはこっちなんだし、そんなかしこまらないで。

 呼び方ももっと簡単にで良いわ!」


「じゃあ、リンと呼ばせてもらうよ。

 それで、一体、ミディに何があったんだ?」


 俺がミディの名を出すと皆が首を傾げた。


「「「ミディ?」」」


 あ、そうか……ミディの名前はまだ発表してなかったっけ。


「あぁ、ごめんよ。

 色々あって言えてなかったけどこの子の名前を考えたんだ。

 ミディっていうんだけど……勝手に良かったのかな?」


 俺の腕の中ですりすりと身を寄せてくるところを見ると本人は気に入ってくれたようだが、龍の一族的にはOKなのだろうか?


「龍は基本的に一族の名前を継ぐか自分で名乗る名前を決めるものよ。

 その子が気に入っているなら問題はないわ。

 良かったわね、ミディ」


「キュイ‼」


 リンはミディの頭を優しく撫でると俺たちに向き直る。


「この子……ミディに何が起きたのかだったわね。

 本来はあまり話すのは好ましくないんだけど、あなた達にはもう迷惑をかけてしまっているから話すことにするわ」


「自分から迷惑に突っ込んでいく此奴が悪いだけだがな……」


 フェルの小言がチクリと刺さったが、今は気にしないでおこう。


「事の発端は数週間前に遡るわ。

 龍の里で新しい卵が産まれたの」


「それがミディ――いや、ミディになる卵だったと?」


「えぇ、その通りよ。

 もともと龍人族の役割には龍族の守護の他に成体になるまでの教導も含まれているの。

 ミディの教導役は私になる予定だった……でも」


「ミディの卵が盗まれたんですね?」


 コタロウの問いにリンは静かに頷く。


「ありえるのか? 龍の里の防備は並みの国よりも強固と聞いている。

 また、里の周囲は特有の霧に守られ、出入りすることすら困難なはずだ」


「フェルさんは物知りね。

 そう、こんな事件は龍の里の長い歴史の中でも初めてよ。

 前代未聞過ぎて対応が遅れてしまったのも事実。

 私はそんな状況に業を煮やして飛び出してきてしまったけれどね」


 フェルが驚いているからこれはかなり稀有な事態なのだろう。

 しかし、龍の里か……行ってみたいとは思うが、なんか怖そうな場所だな。


「ミディの話を聞く限り、あなたが身を挺して守ってくれたそうね。

 本当に感謝してもしきれないわ。

 異界人とは言え人間にもあなたのような人がいたのね」


 改めてお礼を言われると照れるなぁ。

 そもそも俺は何もできていないってのに……フェルが助けに来てくれなきゃ俺もミディもやられてただろうしな。


「此奴はただのお人好しなバカというだけだ。

 気にするな!」


「ルイさんは優しいんですよ! 僕たちもルイさんに助けられたんですから!」


「それは違いないが、バカであることに変わりないわ!」


 黒と白の毛玉が言い争いを始めた横で俺とリンは話を進める。


「それで、これからリンとミディはどうするつもりなんだ? 龍の里に戻るのか?」


 恐らくミディはリンが保護するだろう。

 それが一番安心だろうしな。


「えぇ、ミディを送り届けないといけないしね。

 その後で犯人たちを探すつもりよ。

 あなた達は何処へ向かっているの?」


「我らは王都へ向かう途中なのだ」


 言い合いをしていたフェルがこっちの話に入ってくる。


「王都? 人間の?」


「王に囚われてしまっている異界人さん達を助けるんですよ!」


 コタロウは胸を張っているが、フェルはため息をつき、リンは首を傾げる。


「異界人を? 知り合いでもいるの?」


「違う違う。

 此奴は見ず知らずの他人を命を懸けて救おうというのだ。

 これをバカと呼ばずして何と呼べばいいのだろうかな!」


「見ず知らずの人なのに? あなたってやっぱりどこか変わっている人間ね」


「おぬしもそう思うだろう。

 全く大した力もないのに困ったやつだ」


 言い返せない自分が情けなく思えてならない。


「あ、そろそろ薪がなくなりそうだな! コタロウ、一緒に拾いに行こうか」


 俺は自分に向けられる奇妙なものを見るような視線に耐えられず暫し席を離れることにした。


 徐々に小さくなっていく焚火を我とリンは見ていた。

 項垂れながら薪を拾いに行くルイの背中を思い出すと少しお灸を据え過ぎたかと思うが……


「フェルさんは本当にルイに助けられたの?」


「フェルで構わんぞ。

 あぁ、呪いを解き回復するための薬草を集めてもらったのだ。

 まぁ、呪いは未だに解けていない様だがな」


 我は呪いが絡みつく足を忌々しく見つめながら答えた。


「呪い?」


「あぁ、我も最近になって少しごたごたがあってな。

 時期的には卵泥棒の少し前になるな」


 我はこの二つの騒動の関係性が気になっていた。

 時期だけ見ればただの偶然で済むが……何故ミディはあの町、いや森にいたのだろうか?

 ミディは見回りの兵に捕獲されたと聞いた。

 つまり、わざわざ盗み出したドラゴンの卵を森に置き去ったという事になる。

 一体、何の目的が……

 我はこの一連の騒動に一抹の不気味さを感じていた。


「ルイって本当に不思議な人間ね。

 見ず知らずの他人や魔獣を身を挺して救おうとするなんて」


「単なるバカだと言ったであろう。

 ルイの身の上話を聞かされたが、前の世界でも同じようなことをしていたようだ。

 全く理解できぬな!」


 我の愚痴にリンは少し我の顔を見つめる軽く笑う。


「なぜ笑う?」


「ごめんなさい。

 でもね、そんなルイに付き合っているあなたも十分お人好しだと思うけど?」


 お人好し? 我がか?


「ふん、何を世迷言を! 我は奴の善人面がどこまで続くか興味があるだけだ。

 人間の本質は身勝手なものだからな!」


 我はリンの問いを少し不快に感じつつ、また焚火を見つめ思案に暮れるのだった。

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