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異世界で歩むけものみち ~魔獣保護機構設立物語~  作者: Rom-t
けものみち 1本目 出会いの道
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第十一歩 【再会と救出】

ガシャン!


 椅子が割れる音とともに、俺は壁に叩きつけられた。

 痛みで呻く俺に騎士が唾を吐く。


「異界人のくせにイキってんじゃねぇぞ! このクソガキがっ!」


 子龍を乱暴に扱う騎士に我慢の限界を迎えた俺は伝家の宝刀であるタックルを椅子ごと繰り出した。

 その騎士は壁に思い切り身体を打ち付けて気絶したが、その仲間からそれ以上に痛いしっぺ返しをもらっている。


「おいおい、殺さない程度にしてくれよ。始末書を書くのは俺なんだからな!」


 俺の取り調べをしていた治安部隊は我関せずって感じだな。

 俺はボコボコにされながらも部屋の片隅で蹲り震えている子龍を気にしていた。

 我ながら「自分の心配をしなさい!」って言いたいくらいだけど、気になってしまうものは仕方がない。


「なぁ、こいつのスキルって何なんだ?」


「王権騎士団からは何も上がってきていないな」


「どうせ役に立たねぇスキルなんだろ? ここはしっかりと上下関係を叩き込んでおいた方が良さそうだな!」


 騎士はそう言うと腰に下げていた剣を抜く。


「おい、そりゃ不味いって!」


「王権騎士団の副団長様が付けた傷を揉み消すための高級回復薬(ハイポーション)貰ってんだろ? だったらどんなに痛めつけようが問題ねぇだろうがよ!」


 剣を持って近づいてくる騎士。

 逃げようにも俺の身体は思うように動かない。

 俺の前に立ち、剣を振りかざした騎士に小さな影が飛び掛かった。


『ヤメロッ!』


 それは部屋の隅で震えていた子龍!

 俺を助けようとしてるのか?


「よ、よせ……逃げろ」


 俺は息も絶え絶えに叫ぼうとするが声が出ず、子龍には届かない。


「うざってぇなぁ! どいつもこいつもよぉ!」


 騎士は憤慨すると腕に噛みついていた子龍を引き剥がし床に叩きつけた。

 子龍の身体は床で弾み、俺の前に転がる。


『ウゥ……』


 どうやら気絶しているだけのようだが、かなり弱っているのが見て取れる。


「うっ、クソっ!」


 俺は床の上を這い、子龍に覆いかぶさる。

 今の俺にはこれが精一杯だった。

 結局、俺は《また》何もできないじゃないか……


「自分の身よりそのチビが大事だってか? つくづく理解できねぇなぁ!」


 非情に剣が振り下ろされたその時だった。


ドグラシャァァァァ!


 大きな音とまばゆい光を感じた。

 そして目に飛び込んできたのは白銀の毛並み。


「フェ、フェル!」


 それは巨狼の姿のフェルだった。


 ※

 我もまだまだ甘い。

 コタロウを助けただけでも我の信条に反すると感じているというのに、今はたかが人間一人のために治安部隊の収容所に突っ込もうとしているとは……


「フェルさん! このまま突っ込んで本当に大丈夫なんですかぁ⁉」


 コタロウが普通の狼の大きさになって走っている我の背にしがみつきながら叫んでいる。


「時間がない! 先の騎士たちがこの町に戻ってきてしまえば事はそう簡単に運ばなくなるぞ!」


 それに治安部隊のやり方が以前と変わっていないとするならば……


「急ぐぞ!」


 我は身体の大きさを元の大きさに拡大すると〝フロート〟を発動させた。

 我は一気に加速すると、そのまま収容所の壁に突っ込んだ。


ドグラシャァ‼


 大きな音を立てて崩れ去る壁。

 飛び散る瓦礫と一緒に吹っ飛んでいく騎士たち。

 後は一刻も早くルイを見つけてこの場を離れねば……


「ルイさん!」


 コタロウが大きく叫び、瓦礫が転がっている床へ降りる。

 その先に転がっていたのはルイ⁉


「ルイ! 生きてるか?」


「フェルさん。 ルイさんが酷いケガです」


 クソっ! やはりこうなっていたか!


「待ってろ! 今、回復魔法を……」


 我が回復魔法を行使しようとしたが、向こうの方から多くの足音が聞こえてきた。


「この匂いは……僕たちを捉えた騎士たちです!」


 という事は――王権騎士団。

 これほど早く戻ってくるとは……


「くっ、ルイを連れて引くぞ!」


「はいっ!」


 我はコタロウとルイを背に乗せると全速力で飛び上がる。


「待て、逃がさんぞ‼」


 後ろからの叫び声と共に無数の魔法が放たれたが、無様に当たってやる我ではない!

 我は身を翻しながら町の上空を離れ、一気に飛び去った。


 ※

 嵐が去ったように無残に破壊された部屋の中で一人の騎士が空を睨んでいた。


『ハイト、聞こえるか?』


 その騎士の頭の中に声が響き、騎士の身体が硬直する。


「き、騎士団長……はい、聞こえております」


 その声の主はハイトが所属する王権騎士団の騎士団長。

 ハイトが尊敬し、格上であると認める唯一の人物であった。


『報告は受けている。今回は』


「騎士団長! こ、今回の失敗はあ、あの……とある異界人が」


『異界人?』


「はい! 魔獣を使役する能力を持った異界人であります。その異界人を捕縛したのですが……今回の標的である〝かの魔獣〟を操り、我々は不覚にも遅れを」


『魔獣を操るか。そのような不測の事態も予想し、副長であるお前を向かわせたのだが……まさか、また己の力を過信し、異界人を痛めつけたのではあるまいな?』


 騎士団長の静かな声がハイトの胸に刺さる。


『グラブや警備隊にまで被害が出たそうだが、連携は怠っていなかったか?』


「お、お言葉ながら我々の任務でありました〝上級魔獣の調査・対処〟にはグラブや警備隊では荷が重いかと思われましたので……」


 その言葉の途中でハイトは口を止めた。

 言葉には出さずとも、思念の波が騎士団長の更なる落胆を伝えていたからだ。

 しばしの沈黙が続き、騎士団長の声が優しく告げる。


『ハイトよ。お前には幾度となく人の価値の在り様を伝えてきたはずだったが。今回の失態は私の責やもしれぬな』


「な、何をおっしゃいますか! 私は……」


『全軍を率い、王都まで帰還せよ。魔獣もそうだが、その異界人が危険な存在であるのはお前も理解しているだろう?』


 ハイトは功を焦り、異界人も魔獣もと欲張ってしまった。

 自分はそれができるだけの力があると自負して疑わなかったのだ。

 その結果がこの大失態。

 騎士団長の言葉はハイトの自惚れを示唆したものであったが、それは失態の悔しさと生意気な異界人に対する憎悪で掻き消され、ハイトの耳に届くことはなかった。

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