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 私がそこに売られたのはとおの年だった。


 『ただでさえ、 不作だってぇのに…… もうウチじゃあ無理だ』


 五歳の時に両親が大水で死んで―― 遠縁の家に引き取られた。 裕福ではない農家の家で幼い子供達の面倒を見たり家事をこなして過ごした。 屋根があるだけでも有難い、 始末に―― つつましく―― 大人しく―― 我儘なんてとんでもない。 ここに来た当初、 両親を想って泣いた時には『煩い』と気絶するまで殴られた。

 そして、 不作の年に私は人買いに売られたのだ。


 『へへぇ。 こんなに貰っていいんで? 』

 『おやまぁ! この子は初めてウチの役に立ったよ。 感謝しな。 今まで売らずにいてやったんだ』


 「おかみさん」「だんなさん」 そう呼べと言って…… 朝から夜遅くまで私をこき使った人達はそう言った。 ガリガリに痩せてた見栄えの悪い私が、 良い収入になったとそう笑って。

 だから、 私は思ったのだ。 我慢してても良い事なんてありはしなかった。 どうせ遊郭に売られるんだから次の場所ではもっと自分らしくいようって。


 『行くぞ』


 人買いは狐の面を被っていた。 顔が割れると色々面倒だと、 人買いは様々な面を被る。 天狗であったり、 鬼であったり、 ひょっとこ、 おかめ―― そう言った面を付けて歩くのだ。 人で無いものに売ったのだと―― 売った人間の罪悪感を薄めさせるためだとも言うけれど正直どうでもいい話だった。

 私を買い付けたこの男は「黒狐くろこ」 と名乗っていた。 白い狐の面を被っているのに変なの―― と思った記憶がある。

 私が幸いだったのは、 この男が帝都から来た人買いだった事だ。 何で、 あの時あの辺鄙な村に来たのかと後で聞いたら黒狐は笑って『俺ぁ、 遠出して適当にブラブラしながら良いを探すのが好きなのさぁ』 と笑って言った。 ガリガリで見栄えの悪い私を良く買う気になったよね、 と軽口を叩けば


 『まぁ、 今だから言うけどよ? 正直見た時、 買う気はなかったんだ。 俺ぁ気に入ったのしか買わねぇし。 お前さん死んだ魚みてぇな目をしてたからなぁ。 けど売られるってなった瞬間、 お前さんの眼の中に火が見えた。 キラッと光ってよ。 あぁこいつは化けるかもしらんと思った訳さ』

 

 事実、 他の人買いとは違い、 黒狐が買い付けて来る娘は器量よしが多かった。 私みたいに『みすぼらしかった』 のは後にも先にも初めてだと。 

 初めて見た帝都は怖ろしいほどに奇麗な所だった。 夜でも昼みたいに明るくて、 見た事のない建て方の背の高い家や塔。 ほとんどが西洋風の建て物で自分がやまとの国にいるのが嘘のように思えた。

 そして桃源郷と言う歓楽街の方にある、 ひと際大きな建物に私は連れていかれた。 買い付けられた娘―― あるいは少年達が一番最初に行く場所だという。 試金館と呼ばれる館だ。

 試金館についてまずされたのは身体検査だ。 全裸になって何人もの大人に見られるのは正直言って良い思い出じゃあない。 『あんたにしちゃ、 貧相なの連れて来たねぇ』 恰幅の良い差配人が言った事を覚えている。


 『ここで、 お前さんが何処の店に行くか決まるんだよ』


 ―― あぁ、 ついに何処の遊郭に行くかが決まるのか。


 諦めはあった。 けど、 美味しいものが食べられて様々な手習いを教えて貰える。 着物だって洋装だって奇麗なものが貰えるとそう言われたから。 先の事は考えないようにしようとそう思った。 貧相で不器量な私だから、 せめてしっかり教わる事は覚えよう―― そう考えて。

 水揚げする事になるその時まで、 せめて精一杯楽しもう―― と。

 けど、 意外にも私のその思いが実現する事はなかった。 次に部屋に入ってきた老婆が私を見た瞬間声を上げたからだ。


 『へへぇ。 黒狐、 珍しく貧相なのを連れて来たって聞いたけどサ。 あんたぁ大した目利きだねぇ』

 『おん? 何だぃ―― おばばの方の管轄か。 へぇ、 俺のカンも大したもんだなぁ』


 セカセカと歩いてきた紫の袴を着た老婆は、 よく見れば目は濁り焦点が合ってなかった。 そう盲目だったのだ。 老婆はヒャヒャっと笑うと私の顔を強引に掴み、 右に左にと何かを確認するかのように動かす。 

 目が見えないはずのこの人の、 迷いのない足運びや、 私の顔を確認する様子はまるで目が見えているようにしか思えない。


 『あぁ、 間違い無いね。 石と相性がいいよ。 この娘は。 傾城の美女じゃ無いってんなら丁度いい。 この子は細工師に決まりだね』

 『良かったな。 お前さん。 ここの細工師になるには百人に一人ってぇ才が無けりゃなれねぇ』


 黒狐がそう言って笑った。


 『じゃあ、 この娘の行先は晶技館しょうぎかんだね』


 差配人がそう言って紙に何かを書きつけると、 黒狐に渡した。


 『いやぁ、 儲けた。 嬢ちゃん、 ありがとよ』


 ニヤリと笑う黒狐に、 私はどう返したら良いのか分からなかった。 細工師とは何か、 売られた私はこれからどうなるのか分からなくて不安になったのを覚えている。


 『そんな顔するない。 お前さんは少なくとも春をひさぐ―― つまり身体を売る必要が無くなったんだ。 もちっと喜びな。 細工師は石を扱う職人だよ。 修行はキツイだろうが、 逃げれる訳でもねぇ。 いずれ外に出れる事もあるかもしらん。 まぁ、 頑張ってみな』


 そう言われ、 コクリと頷いた。 この才を持った人間が少ないので、 試金館でこの老婆に見いだされれば通常よりも高値がつくのだと言う事は後でっ知った。 黒狐は今でも『お前さんは、 めっけものだったなぁ』 と会うたびに言う――。

 

 書き途中の物を発見してしまい投稿しました(汗)

先に連載をしている方を優先して書くので更新はゆっくりになってしまうと思いますが、 宜しくお願いします。


2018.5.21

読みやすくなるといいな―― と言う事で、 会話の部分とその他の部分を分けました。

亀の歩みの更新ですが、 これからも宜しくお願いします。


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