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 薊マイは頭のいい子供だった。


 その才能をほめたたえる大人達は、たくさんのことを教えてくれたがどれも簡単すぎてつまらない。


 ただ、薊マイは空の星を見るのが好きだった。


 真っ暗な中で瞬いている星々には、それぞれ誰も見たことがない世界がある。


 石だけがある場所やガスだけの場所。何も存在しないのに、確かにそこにある空間。


 しかしあるのだとわかっていても誰もたどり着けない、そんな世界。


 それは美しくとても不可解で、未知の可能性に満ち溢れている。


 何でも教えてくれる大人達に


「あの場所へ行きたい」


 という。


 すると大人達は決まってこういうのだ。


「君ならいけるかもしれない」


 でも薊 マイは不可解だった。


 なんで誰も


「私はあそこに行く」


 そう言わないのだろうと。


 頭の中にはいくつもあの場所へ行く方法は思いついた。


 連れて行ってくれてもいいのに、誰もやらないし、いけない。


 そのうちやっても仕方がないのだと誰もが言うことに気が付いた。


 自分以外はそれを望んでいないのだと。


 いけるのならば行きたいではダメなんだ。


 なら、私は一人で行こうと決意した。


 才能が花開くと、より完璧を目指そうと努力した。


 いつしか思考はただひたすらに加速し、一人だけの閉じた世界を作り出す。


 幼い頃の夢までたやすく実現してしまえるほどに、薊 マイの頭脳は未来を見た。


 だから夢は忘れない。


 彼女にとって夢は現実と地続きだからだ。


 でもそれを誰にも悟らせてはいけない。


 あくまで優雅に周りに歩調を合わせながら、必要なものを見定めよう。


 それが一番。自分の夢に到達するために最速の手段だ。


 焦りは禁物だ、だってこんなおかしな世界になってさえ誰も、私の夢にはついてこられない。


 だけどようやくすべてを手に入れて、これからようやく解放されようかという時になって、薊 マイは人生で最も焦りを感じていた。


 山田 公平が自分を追ってきていた。


 あまり高い確率ではないはずだが、彼女は確かにそんな事態すら想定していたはずだった。


 しかし彼自身の能力さえ手に入れた自分が負けるはずがないとそう確信があったのだ。


 それなのに……薊 マイはスピードにおいて山田 公平に劣っていた。


『……どういうわけだ! 私の能力は君と同じはずだろう! なのになんで!』


「薊さん!」


 もしそんなことがあるのだとしたら、最後に組み込んだ山田 公平の能力に関係があるのだろうか?


 薊 マイの脳裏にそんな疑念が浮かんだ。


 あのあり得ない今の力が心を形にしたものだというのなら、私の心が彼に負けているということなんだろうか?


 だがもしそうならなおさら負けを認めるのは、許せない。


 自分の中の秘め続けた情熱が、一時のテンションとその場の勢いに負けることなど許せるはずがない。


 だけどそれでも……山田 公平はあまりにも強かった。


 何を考えているのか想像もできなかったが、その感情が少なくともまっすぐなものではあるのだろう。


 強く、まぶしく輝いて、彼はここまでやってくる。薊 マイは何時しか唇を強く噛み、そして叫んでいた。


『君は何でそこまで―――なんなんだ君は!』


「わからない! でも、君に行ってほしくない!」


 とうとう追いつかれ、二人はぶつかり合う。


 空の上で対峙した山田 公平は燃え盛る炎のように赤かった光が、今はピンク色に強く光輝いて、全力で突撃してきた。


「僕は―――君の隣にいたいんだ!」


『!!!』


 山田 公平の手は薊 マイを守るあらゆる装甲を貫通する。


 死ぬほど悔しくてたまらない。自分の心がこんな奴に負けていることなんてありえない。


 泣いてしまうほど悔しいはずなのにただ一つ、彼の勝利で歓声を上げる彼の友人達の声を聴いて、チクリと胸が痛んだ。


 その痛みで思い出す。他ならぬ幼い自分の願いを。


 薊 マイは最初から一人で行きたいと願っていたわけじゃない、誰かにあの場所に行きたいと頼んだのだと。


 砕け散る夢の欠片の中で、いっぱいいっぱいの表情で手を伸ばす山田 公平を彼女は一瞬だけちゃんと見た。


 





*****



 瓦礫の上で僕は立ち尽くす。


 やってしまったという罪悪感はあった。


 だけどそれ以上にふわふわとした高揚感が僕の体を満たしていた。


 僕の腕の中には薊さんがいて、何とかこうして話すところまでは持ってきた。


 だから僕は言う。


「君が行くなら僕も行く。絶対君に追いつくから……もう少しだけここにいて欲しいんだ」


「……」


 薊さんは瞼を開く。


 にっこり笑ったその瞬間、僕の頬っぺたはバチンとフルスイングではたかれていた。


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