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「恋愛感情……が、あるってことだよな?」
「い、いや……いやいやいや! それはどうなんだろ! 何言ってるんだい時坂君!」
時坂君の追い打ちに、僕は全力で首を振った。
そりゃあ、たまに図書室で鼻歌ってるのがかわいいなとか、いつも相談に乗ってくれてありがたいなとか、大人とやり取りしてる姿がすごくかっこいいなとか思っていたけれども!
そんな恋とか恐れ多い話ではないはずである。
顔が熱くなって全力で否定すると、三人は小声で何か相談していた。
「うーむ……思いのほか当たりっぽいぞこいつは」
「人の好みは色々だからなぁ」
「何言ってるんだい! マイちゃん美少女だろ! 彼はクーデレ好きなんだよ! 僕は山田君を応援する!」
「……お前はいつも平常運転だなぁ」
立て直す間もなく、さらにホルスト君が僕に言う。
「接点はあったんだな? 図書室で会っているのを見たことがあった」
そしてこの指摘には驚愕して眉毛が飛び跳ねた。
ま、まさか見られていたとは。
そしてそれを聞いて顔が熱くなるのを止められない自分にも驚いた。
べぇだ君が興奮して言う。
「そういえば! 何度かマイちゃんと話してニヤニヤしてる山田君みたよ! やっぱりそういうことだったんだね!」
「そういうことって……」
そういうことってどういうこと?
と言葉にできない。
だが同時に僕の学園生活の記憶が怒涛の勢いで頭の中を駆け巡った。
ちょっと小耳にはさんだ、漫画の話が。
世間一般的にいう常識的な話が。
愛とか恋とかについて楽し気に語る友人達の話が、瞬時に頭の中で整理されて一つの道筋になる。
僕は空を今度こそしっかりと見上げた。
彼女もまたこちらを見ている。
彼女はまだそこにいた。
僕は薊さんにしっかりとピントを合わせてドキンと心臓が音を立てた。
今ならロボットの中にいる彼女の姿が、鮮やかに見える気がする。
そうかこれはそういうことか!
僕はざわざわと落ち着かない未知の感情にようやく……ようやく名前を付けることに成功していた。
まだプルプルと震えているであろう僕に、恐々と時坂君が話かけてくる。
「……どうした? 大丈夫か?」
そう案じてくれた友人に、僕は裏切りをしなければならない。
だが僕の心は止められなかった。
「……ごめんみんな。今日僕は……モテナイーズを脱退する」
「お、おう」
「そんな団体は存在しない」
「でも、それってどういうこと?」
三人にそう言われて、僕は震える四肢に力を入れて、拳を強く握りしめた。
「僕は……どうやら彼女に恋をしてたみたいだ。だから彼女を引き止めに行く!……このままお別れなんて……絶対嫌だから!」
迷っている暇はないとそう確信した時、僕のするべきことは決まった。
そのとたん体の奥底からいまだかつてない熱がわいてくる。
なんだかズゴゴゴゴと地鳴りが聞こえてきた気がするし、そこら中から鳥が一斉に飛び立ったりしていたがそんなことはどうでもよかった。
「や、やばくないか? 思いのほか変なスイッチが入ったみたいなんだが……大丈夫か?」
「さぁな。人の恋路を邪魔するなんて野暮なことだ」
「いや!……恋なんて思い込みと勘違いから始まるものさ!」
友達の声すらどこか遠い。僕の視線はただ一人だけに向けられていた。




