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あっ。まずい。ちょっとほっとしてしまった。
色々と失礼すぎるから声には出せないけれど、僕は安堵と同時に感謝していた。
さっきまで完全に止まっていた僕の頭が動き出す。ところがさっきまで非常にかっこいい顔を作っていた友人達は、今は見る影もなく、皆一様にしょんぼり顔だった。
「大和の姉ちゃんがあいつを探しに来たんだよ、そしたら全部ほっぽってまる投げだよ」
「……こっちもそうだ。大和を探していると聞いたとたんに消えうせた」
「こっちもおんなじ。掃除を任されて片付けて来たよ……」
「最後まで頼まれごとを引き受けて来たんだ。……そうだよね。女の子達みんなこっちに来てたもんね」
そして出てきたのがこのタイミングになったと。真面目である。
用事を終わらせて来てみれば事態はモリモリ進んでいて、ここしか出ていくところがなかったわけか。
出ていくタイミングを見計らっている三人の姿を思い浮かべると申し訳ないが、口元が緩んだ。
僕が彼らの顔を見回すと、みんなは口々に薊さんに苦言を呈した。
「しかし持ち逃げの上に踏み倒そうってのはとんでもない女だな」
「あぁ中々だ。ああいう女はどうかと思うな」
「まぁあんまりいい性格とは言えないね」
自分の能力を使われているのを彼らも見ていたのだろう。あまり気分がよくないのはわかる。
だけどその評価は少し待ってほしい。
僕は慌てて言った。
「そ、そんなことないよ! すごいと思うし!」
「「「んん?」」」
するとなぜか疑惑の視線を向けられる。
僕は何でそんな目で見られているのかわからなくって、とにかく思いつくままに彼女を擁護する言葉を並べたてる。
「みんなの能力をコピーしてたのは、まあ一言あってもよかったと思うけど、調べたりするのが薊さんの仕事だったと思うし、薊さんは僕の意味の分からない能力にきちんと意味をくれたんだ! それに、えっと……彼女は僕の能力を、自分の夢のために使ったんだ……それならまぁ全然許せるなって」
「「「ほほう」」」
さらに三人の顔が近づく。
「?」
三人の表情を読み解くに、おそらく彼らはとても楽しそうであった。
時坂君は僕の頭をガシガシなでて、比較的優しく言葉をかけてくる。
「まぁ落ち着け山田よ、深呼吸だ」
「すー……はぁー……」
時坂君に言われた通り僕は深呼吸した。
焦っていた気分が少しはマシになる。僕が落ち着いたのを見計らって今度はホルスト君が尋ねた。
「あの軍団はシャレにならない。牙をむくなら普通に人類存亡の危機だと思う。それはわかるか?」
「う、うん」
「実際大暴れしてたよね? それでも、薊さんを許しちゃうんだ?」
べぇだ君の言葉に、僕はこればかりは確信をもって頷く。
「え、えっと! 許しちゃうっていうか! 止めたい……かなって思うんだけど」
「止めたい? あの女を引き留めたいと思うのか?」
「……うん。そうみたい」
ホルスト君は疑問府をくっつけていたが、確かに僕も妙な言葉だと思った。
止めたい。行ってほしくない。まだ話がしたい。
こんなの全く理屈が通っていない。あそこまで拒絶されているのに引き留めるなんてどうかしている。
友人三人は僕の言葉を聞いて三人でひそひそ話始める。
「……おいおい。これはまさかまさかのべぇだが正解だと?」
「……こいつも相当難儀なやつだな?」
「……うーんでも、これはどうするべきなの?」
話し合うこと数秒、三人はバッと同時に僕を見る。
そして代表して時坂君が困惑している僕の肩を掴んだ。
「それって、お前薊のやつに惚れてるってことか?」
「………………へ?」
僕はつい、人生で一番間抜けな声を出してしまった。




