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 死を覚悟し、目を瞑ったシーラさんと大和君は完全に無防備だった。


 薊さんはそんな彼らに歩み寄り、とどめを刺そうとしているのが分かった。


 僕の体はようやく動く。


 いくら混乱していようとも、こればかりは見逃せない。


「薊さん……そんなことしちゃだめだ」


 とっさに飛び出した僕をみて、薊さんは止まる。


 なんとなくわかったのはわずかばかりの警戒心だった。


『山田君か……そこをどいてくれないか? わかっているだろう? この体には君の能力も搭載されている。君では私に勝てないよ』


「……嘘だ。そのロボットは万全じゃない。今なら僕でも倒せるよ」


『……』


 僕は薊さんを見上げる。


 その体は威圧感のあるロボットだけど、奥に確かに僕は彼女の視線を感じていた。


 なぜか気持ちがぐちゃぐちゃで整理できない。


 だけど何か言わずにはいられなかった。


「ゆ、夢って……! 薊さん言ってただろ! 人類の進歩に貢献することが夢だって!」


 自分でもなんで夢の話なんかここで持ち出したのかはわからない。薊さんはしかし、それを鼻で笑い飛ばした。


『ああ。まぁ言うには言ったけれどそれは建前ってやつだよ」


「建前?」


『そうさ。持って生まれた力に満足する哀れな君達に教えてあげよう。夢を叶えるのは未来の誰かじゃなく私自身だ。そのために私は自分の力のすべてを使って必要な能力を手に入れたにすぎない。人類の未来? 馬鹿馬鹿しいね。私は私がやりたいことのために全力を尽くしたんだ。そんな理由でモチベーションが保てるわけがないだろう?』


「それは……」


『私は君達の力を束ねてあの宇宙の先に行く。ただの空想をこの肌で感じて現実にしてみせる。そこに君たちが立ち入るスキなど断じてない』


「薊さんは……なんでこんな派手なタイミングでこんなことをしたんだ?」


 ひょっとすると薊さんには、まだ迷いがあるのではないかと、僕は尋ねた。


 だって旅立ちたいだけなら、人のいない時に準備を整えて、こっそり旅立てばいい。


 なのにこの目立つタイミングをわざわざ選んだことがどうしても引っかかる。


 薊さんはしかしそれを聞いてくすくすと笑っていた。


『別に大した理由じゃない。気が付いているかい? この学園は私達の能力を見守る場所であると同時に監視するための場所だって。今まではうまくやっていたけど、旅立つ瞬間だけはそうはいかないだろう? もし私がここから逃げ出そうとすれば、いろんなところからそれを妨害するために何か手を打ってくるはずだ。それを君の相手をしながら防ぐのは骨が折れる、そこに成長した学まで加わったら本当に手に負えなくなる。ようは君の能力が危険なんだ』


「僕の?」


『そう。君だけが私を止められる可能性がある。でも君はこうやって話をした後すぐに私を止められるかな?』


「……」


『よく君自身が考えてほしい。君には私を止める理由がない。学達も君が大切だというのなら、もうこれ以上何もしない。私は夢を叶えたいだけなんだ。だからこのままいかせてほしい』


 それが本当の彼女の夢なのだろう。


 いつか、どこかの誰かのためではなく、薊さんが彼女のためだけに描いた唯一、たった一つの目的だ。


「でも、僕は……まだ君に教えてほしいことがたくさんあるんだ」


 そんな言葉が思わずこぼれた僕に薊さんは言った。


『……ははっ。お断りだね。この力を持っていてここに居続けた君なんかと語ることなんてもうない』


「……」


『私は手に入れた。君はここにいるといい、今までと同じように。――時間だ』


 時間だと告げた瞬間、薊さんの力が一気に膨れ上がるのを僕は感じた。


 体になじませるのが終わったのだと気が付くと、薊さんはゆっくりと浮かび上がり、周囲のロボット達も彼女に付き従う。


 「この施設には、脱出防止のシールドが張られている。突破した時が私が本当の意味で生まれ変わる瞬間だ」


 何も言えない僕から、薊さんは視線をそらした。


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