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僕はいまだかつてない高揚感に包まれていた。
打てば響くとはこういうことを言うのだろう。大和 学という友達は僕の力に応えてくれる。
しかし興奮しすぎてつい爆発などさせてみたら、大和君が吹っ飛んでいた。
ふと我に返って蒼白である。
「……あぁ。僕ってやつは」
僕は頭を抱える。
死んではいないと思うが、ここは早いところ薊さんに連絡した方がよさそうだ。
「大和君! ご、ごめん! 調子に乗りすぎた!」
「……ああ。やっぱ強いな公平は」
大慌てで大和君に駆け寄って、様子を確認するとものすごい勢いで傷が再生していた。
意識もあり、すがすがしそうに微笑む大和君は今日の戦いで何か得るものがあったらしい。
ただ僕は慌てているのと同じくらい、残念だと思っている自分の変化に驚く。
僕にも得るものは確かにあったのだ。
もう少しだけ、戦いを続けていたかった。
ひょっとするとあともう少し続けることができていたなら、僕は限界まで力を出し切れたのかもしれない。
もしそうなっていたら、また何か変わるのだろうかと僕は頭のどこかで考えている。
ボッ……チュイーン
「?」
心地よい疲れを噛みしめていたその時だった。聞きなれない音に周囲を見回すと、音はスピーカから漏れていた。
『いい勝負だった。素晴らしい』
「この声は……薊さん?」
『実にいい検証になった。君の能力は優秀だがひどく不安定に見えていたからどうしようかと思っていたけど、心は決まったよ。君の能力は必要だ』
「え? 僕の能力……なんだかわかったの?」
正体不明だと言われた、僕の能力の正体が分かったと、そんなニュアンスに心臓の音がはねた。
こちらの声もきちんと聞こえているのか僕の問いへの答えは肯定だった。
『ああ。何のことはない、君の体は君の心に応えているだけだ。鳥が空に生存圏をもとめて翼を手に入れた様に、君が心から欲すれば体が追いつくのさ。生物が世代を重ねて行うことを、君は数秒で可能にしている。まさに――理想的な能力だ。君のおかげで私の研究は完成する』
だが薊さんが下した診断結果に僕はいまいち納得できなかった。
「心に応えているだけ? ……いや、それはおかしいよ。 それなら僕はもう少し賢くなっていそうなものなのに」
今の僕が完全に理想的なのかと問われれば、そんなことはない。
むしろ不満の方が多いと僕は思っているのだから。
しかし薊さんは言った。
『……そんなの簡単なことだよ。君が心から欲していないってことさ。君に賢さなんて必要ないだろう? 敵だらけで、生存することすら難しいこの世界で君は生き物の防衛本能で生存を優先した。それどころか君は周囲の人間すら守り切ることを望み、戦闘能力は増大し続けた。賢く立ち回ることを拒み、単純に目の前の敵を駆逐するのに最適な思考回路を選んだんだろう』
「えぇー……」
そう言われればそんな気もするし、いやいやそんなことない気もする。
もし無意識に今の姿がベストだと思っているのなら、なかなか僕も損な性分な気がした。
真実は僕にはわからない。
だが薊さんには確信があるようだった。
『さて私の考察があっているのか間違っているのか、そんなことは見てもらえばわかることだ。今ここで私の研究成果を見てもらうとしよう……』
薊さんの声がそう告げると放送の切れる音が演習場に響く。
そして地下に仕込まれたギミックが展開しはじめた。
僕は大和君を抱えあげて飛びのくと、演習場の地下から何かがせりあがってくるのが見えた。
人型をしていて、無数に並んでる五メートルほどの鋼の巨人の群れだ。
中でも一回り大きな人型の手のひらに、体にぴったりと張り付くような白いスーツを着た薊さんの姿を見つけて、僕はキャっと歓声を上げた。
「薊さん!」
僕は彼女の名前を叫ぶ。
目があった薊さんはうっすらと口元に笑みを浮かべていた。
「ごきげんよう諸君。そしてさよならだ。ここまで到達できたのは、すべて君達あってこそだよ」
「どういうことかな薊君? そんなものの話は聞いていないが」
声をかけた竜王寺校長を薊さんは一瞥する。
「ええ、極秘の計画ですよ。竜王寺校長。私に任せすぎましたね」
その言葉を聞いた竜王寺校長は腕を組み深く頷く。
「ある程度は仕方がないことだ。君が協力を願い出た時点で、君以上の適任はいない。君を人類の至宝だという人間もいるほどだ。正しく正当な進化の到達点だとね」
「そうでしょうね。まぁいつの世でもテクノロジーを使いこなせる者がアドバンテージを持つものですよ」
「……それで? こっそりと隠れて君は何をしていたのかな?」
校長の厳しい声色に、薊さんは楽しげに答えた。
「貴方と同じことです。こんな面白い企画を大和 学の育成計画なんてもので終わらせてしまうのはもったいない。ですから私なりに自分の夢を叶えようとしたまでですよ。この計画を利用してね」
「ほう! 君にしてはなかなか若者らしいことを言うのだな!」
竜王寺校長は絶賛し、薊さんもまたうれしそうに笑みを作る。
「当然ですとも若者ですから、夢くらい語ります。そして語るだけじゃない。私は自分の夢を実行に移すだけの行動力があるもので」
「ならば聞かせてもらっていいかな? 君の夢とやらを?」
竜王寺校長は薊さんに促す。
校長は明らかに期待を込めていて、薊さんは自慢するようにその問いに答えた。
「もちろん。私の夢は単純です。思い描く場所に安全に好きなように行きたいだけだ。そこで私は見込みのありそうな能力をそっくりそのままいただくことにしたのです。星々の海を自在に駆け巡り、無尽蔵のエネルギーと時空間すら操れる、そして想定外の事態にすらたやすく対処できる力。実に素晴らしい……」
「しかしそれは不可能ではないのかな? あんな能力の再現など」
「今まではそうです。しかし新たな技術を発見し、不可能なことを可能にできるのが科学者の最大の強みだとは思いませんか?」
薊さんは上機嫌に自分の乗っているロボットの装甲に触れた。
「なるほど。君の乗っているそれが夢の器ということか」
「そういうことです。このロボット達は複数の能力を同時に体に取り込める学の細胞をベースに制作したアンドロイドのようなものです。搭乗して一体になることで普通の人間にもその能力が備わる優れものですよ」
薊さんの言葉に、僕はドキリと自分の心臓の音が聞こえた気がした。
そして、ずらりと並んでいるロボットを凝視する。
いつか見た、アンドロイドを思い起こさせるデザインのロボットは、よく見ればあの時よりももっと生物的で別ものなのもよくわかる。
そしてもう一つ、様々なものがまじりあったような不気味な感じがなんとなく僕にはわかった。
薊さんは自分が手に乗っていた一機に搭乗して、機体は本格的に動き出した。
彼女の体に無数のコードが突き刺さり、どくどくと脈打ったのが見えた。
ハッチ閉まり、まるで人間のように自然に立ち上がったロボットは怪しく発光する瞳で僕らを見渡し、薊さんの声で宣言する。
『さて、最終段階です。私の体がなじむまで少々時間がかかるでしょう。黙って見送ってくれればそれもいいのですが、そうでないなら私の頼もしい護衛達に性能を披露してもらわねばなりません』
「ほう……」
『性能テストの必要性も感じていましたので、どうぞお好きなように』
そう言った薊さんは竜王寺校長に向かって手招きをして見せた。
「そうか……ならば試させてもらおうか!」
竜王寺校長が叫び、大砲のような音を立てて飛ぶ。
『迎撃だ』
殴り掛かってくる彼を止めたのはおつきの一機だった。
瞬間移動のように竜王寺校長の前に割り込んだロボットは、その拳を受け止める。
鈍い音がして、衝撃音が鼓膜をたたいた。
「……これは!」
しかし拳を突き出したままの格好で止められた校長は、不自然に空中に固定されていた。
空間がゆがみ、力場が見える。
あれは時坂君の能力だ。
僕は驚いて表情を強張らせた。
『貴方は力押ししかないのでしょう? ならこの私の軍団にすらかすり傷も負わすことができませんよ?』
「!!」
その後は一瞬で決着がついた。
竜王寺校長は飛び出したのより速く吹き飛ばされ、観客席に突き刺さった。




