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「いいな! 最高だ! これぞ人類の真価!」


 今、目の前でまさに行われているこれが新しい人間の姿だと竜王寺は讃える。


 それほどに本格的に戦い始めた二人はすさまじいものだった。


 大和 学は驚異的な身体能力で攻め立てた。


 オロチの影響か、すさまじい回復能力も身につけている。


 刀での斬撃は言う及ばず、時には魔法と呼ばれる技術さえ駆使し多彩な攻撃も織り交ぜていた。


 地形を自在に操作し、魑魅魍魎すら従えてひたすら攻め続ける大和 学の姿はまさしく今までの人知を超えている。


 休むことなく続く斬撃は、途切れることを知らない。


 だが注目すべきは能力の多彩さでも戦闘能力でもない。その止まらない進化だろう。


 彼女の姉である大和 礼は弟のあまりの成長ぶりに唖然としていた。


「なんだあれは……いくら何でも急成長しすぎだ」


「ふむ。しかし成長を見込んでオロチを彼に渡したのではないのかね?」


 このタイミングで譲渡するなら、ある程度のパワーアップは見込んでいたはずである。


 大和家に伝わるオロチは生命力の塊だと聞いていた。


 一度宿せば簡単には死なないほどに強靭な肉体が手に入るのだとしたら、急いだ理由も理解できる。


 しかし大和 礼は首を横に振った。


「……多少のパワーアップは考えていました。この学園に招いた生徒達と訓練を重ねていたのなら、彼女たちの力を受け止める受け皿ができるのではと思ったまでです」


「ならば今の状態は君の思惑通りなのではないかね? 改造人間の人間を超えた怪力。魔女の超自然的な力。シャーマンの霊を従える力。大地を操る自然の力。あとは頭脳まではわからないが、学君は使いこなしているように見える」


 大和 学は、見事に女生徒たちの力を使いこなしていた。


 それはおそらくこの大和 礼が大和 学に与えようと考えていた能力なのだろうが、しかし十全に力を発揮すれば人間の体では無理が出そうな能力も多い。


 受け皿という言葉が示すように、大和 礼は何かあったとしてもオロチの力で死なない体を作ろうとしたのだと竜王寺は考えていた。


 事実、大和 礼は人間には到底耐えられないであろう訓練を己に課して、人外と渡り合う術を編み出したと聞いていたからだ。


 そしてそれは彼女の思惑通りになったのだろうと思ったが、彼女の顔色は優れなかった。


「いえ、それでも急すぎる……」


「それは競っているからだろう? 彼と」


「だからと言って、こんな戦闘能力は想定外ですよ。……それとも、こうなると予想していたと?」


「いいや! ここまでの事になるとは私も思っていなかった! だがあれこそが、この混沌とした時代で培われた人類の力だとは思わないか?」


 感じたままを竜王寺は口に出す。


 そこにどんな疑問を挟む余地があるのか、竜王寺は目の前の女性の答えが気になった。


 だが彼女の答えを聞く前に、今までどこに姿を隠していたのか、現れた薊 マイが彼女の答えを遮ってしまった。


「あの爆発的な変化の理由は彼の能力だけが理由ではありませんね」


「ほう。そうかね薊君」


 竜王寺は、目を細め彼女に問う。


 この学園を実際に設計し、実に画期的な設備の数々を生み出した功労者。


 まさしくこの進化の時代において万能の天才と呼ぶべき少女、薊 マイ。


 竜王寺は彼女に視線を移す。


 彼女に尋ねればおおよその質問の答えは返ってくるだろう。


 期待通りに薊 マイは答えた。


「ええ。彼の能力はここに通う女子生徒のものがベースであることは間違いありません。ですが、男子生徒達と模擬戦をした学はここまでの戦闘力は発揮できませんでした」


「ほう、それで結果は?」


「他の男子生徒には惨敗でした」


「惨敗? 大和君がかね?」


 今の様子を見ていると、大和 学の能力で他の男子生徒に惨敗したというのは驚きだった。


 確かに男子生徒達の能力は常軌を逸したものではあったが、今戦っている山田 公平ほど意味不明ではなかったからだ。


「はい。あの時点では大した動きはできていませんでしたね。推測するに、彼の学習する能力は絆を結ぶ以外に、学習する期間が必要なのだと思います。そうですよね? 礼先生」


 そして、大和 礼に問う。


 それは確認の作業なのだと、竜王寺には理解できた。


「ああ。だから学はここまでのことはまだ出来ないはずなんだ。オロチにしても体になじむのが早すぎる」


 薊 マイは、本当に……本当に楽しそうな笑みを浮かべていて、竜王寺は純粋に驚いていた。


 彼女のそんな顔は、いまだかつて彼女の表情にないものだったからだ。


「なら答えは簡単ですよ。さらに成長を加速させる何らかの要因があるということです。例えば女子生徒の他に強く学と絆を結んだ誰かがいて、その能力が作用している……とか」


「馬鹿な。そんな都合のいい話が……」


 大和 礼はそこまで聞いて、はっと息をのむ。


 彼女の視線は、常軌を逸した怒涛の攻めを、笑いながらさばききっている信じられない生物に向けられた。


 答えに行きついたと薊 マイは判断し、パンと一度手をたたいた。


「そうですよ。山田 公平は学を友達だと思っています。珍しいですよ。あの女子には驚異的にモテるのと引き換えに男子には蛇蝎のごとく嫌われる男が」


 そんな失礼な指摘に大和 礼も心底複雑な表情で頷く。


「……そこまでは言わないが確かに珍しい。だが一体何だと言うんだ、あの山田 公平の能力というのは? まさか本当に無敵だとでもいうのか?」


 山田 公平の能力は、能力というよりもほとんど称号のようなものだ。


 いまだかつて敗北を知らない未知の能力が無敵と呼ばれているに過ぎない。


 だが薊マイは不敵に微笑んでいた。


「どうでしょうね? でも単純に何の能力だと言えるものではないと思います」


 ここに来て曖昧に言葉を濁す薊 マイに、竜王寺は内心喜んでいた。


 彼の理想とする進化は人知を超えなければならない。


 ならばこの頭脳という人類の正当な進化をした薊 マイの手が届かない領域にこそ、その答えがあるはずだと思っていたからだ。


「そうだな。そうでなくてはいけない。それでこそこの学園の存在意義があるというものだ。わからないのならこれから存分に調べればいい。それが人類の可能性につながる」


 だが、歓喜に震える竜王寺に尋ねたのは大和 礼だった。


「……本気でそう思っていますか?」


 この輝かしい話を聞いてさえ、大和 礼の表情は変わらない。


 どこかその根底におびえさえある彼女に、竜王寺は改めて先ほど気になった答えを尋ねた。


「もちろん本気だとも。君はそうは思わないか?」


「……ええ。私は―――あれは人間には見えない。貴方にはそう見えるのですか?」


 演習場にひときわ派手な轟音が轟いた。


 何事かと目をやるとそこには高く完全に飛んでいる山田 公平の姿があった。


 彼はおもむろに手のひらを真下の大和 学に向けると、その瞬間すさまじい衝撃波が放たれた。


 たまらず大和 学の体は木の葉のように翻弄されて、上空へと跳ね飛ぶ。


 大和 学はそれでもなおその時点では意識を保っていた。


 空中で静止し体勢を立てなおして、山田 公平を視線で探す。



「空中で動きを変えられるのは知ってるよ――」


「……っ!」


 声をかけた山田 公平は まるで瞬間移動でもしたかのように 大和 学の背中を取っていた。


 瞬間、雨のように放たれた閃光が曲がりくねりながら大和 学に全方位から襲い掛かる。


 爆発に次ぐ爆発で視界が閃光で染まった。


 演習場そのものを揺らすほどの爆発の後、吹き飛んだ大和 学がボロボロの状態で落ちてくる。


 無残に転がる大和 学を見下ろし山田 公平は言った。


「まだまだこんなものじゃ……あれ? ひょっとして……やり、すぎた?」


 山田公平のそんなセリフに、この場にいるほとんど全員が凍り付いた。




「ははっ……素晴らしい。素晴らしいよ。山田君。やはり君の能力は必要だ。だが、学が彼の因子を取り込んだとすれば、今しかないか」


 ただ一人、薊 マイを除いて。


 彼女は一人抑えきれずに笑い声を漏らし、その場を後にする。


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