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竜王寺はその戦いを目にして歓喜に震えていた。
目の前で行われていたそれは間違いなく戦いと呼べるものになっている。
何時しか暴れるだけだった未熟な術者の暴走は戦いの呈をなしていた。
あふれ出るばかりだったオロチの力が見事に制御されているのもその一因だろう、だがそれだけでは説明できない動きを大和 学は実現していた。
人体強化を受けたように驚異的な身体能力を発揮した彼が走ればたやすく大地が砕けた。
砕けた大地は彼を守るように動き。
時には物理の法則を捻じ曲げたような動きで宙を舞う。
あるいは本来であれば霊を打ち払う能力者である彼に、霊達が進んで力を貸している姿はどれをとってもあり得ないものだ。
観客席で竜王寺は興味深くその攻防に目を見張る。
「ほほう。素晴らしい。学君の才能はあれですか? 礼先生?」
尋ねた竜王寺に大和 礼は隠し立てすることはなかった。
彼女の姿はすでに見慣れた幼い少女ではなく、成人した女性になっていて、ここに来て何か隠し立てするつもりもないようである。
「そうですよ――学の力は学習する能力です。あいつはどのような異能力であっても、己に取り込む。最初は我が父からでした。元々適性のあった我が家の流派の力はもちろん、身に付けられるはずもない力も、深く縁を結べさえすればその素養を身に付ける。だから父は学に様々な出会いの機会を与え続けました」
「ふむ、それはすさまじい。しかし条件があると?」
「そうです。絆は好意でなければだめなのです。家族の情や友情といった感情がきっかけになる。おそらくは本能的に受け入れられる絆でなければ能力を取り込めないのだと言われています」
「ふむ」
大和 礼はしかし悔し気に大和 学の姿を見ていた。
彼は様々な力を使いこなし、確かにあの山田 公平に太刀を浴びせている。
しかし言ってしまえばそれだけではあった。
大和 礼が彼に受け継がせた力があってさえ、いまだ山田公平には傷一つつけることができていない。
大和 礼は竜王寺を真剣を見つめ、今度は彼女が疑問を口にする。
「それにしても山田は……あれは異常だ。貴方はどういうつもりで彼を招いたのか?」
だがその答えはシンプルだった。
「決まっているでしょう? 礼先生。 私はね? あなた方の唱えた建前の方に引かれた口なのですよ。それを実践しようとしているまでです」
竜王寺だけではない。この学園の設立に携わった人間であるなら多かれ少なかれ、その希望を胸に行動していたはずだった。
「……人類の可能性」
大和 礼は戸惑いながらもはっきりとその言葉を口にする。
竜王寺は勢い良く肯き、両手を広げた。
「その通り! だから強力だと名高い能力者で、まだまだ伸びる可能性のある者を派閥に関わらず集めたのですよ! はっきり言って今の時代、人類がいつ食物連鎖の頂点から脱落してもおかしくはないのです! 我々に余裕はないのだ! せっかくのチャンスに一つの家の当主を作り出すだけの計画などもったいなさすぎる!」
それは科学技術の進化でさえ追いつけなくなってしまった進化スピードに取り残されないための一つの手段だ。
大和 礼は自分達の思惑が知られていたことに軽い驚きがあったようである。
「気が付いていたのですか?」
「当然でしょう? あれだけ身内で固められ、そこに弟さん一人放り込むなんて真似をされてはね。第一不健全だ。学園という体裁を整えるならせめて男女のバランスくらい均一にしても罰は当たらない」
「そうでしょうね……。強引に過ぎました」
まぁ彼女自身も無理があると思っていたようだが。彼女一人がこの状況を作り出しあということもあるまい。
すべてが統一された意志のもと、何かが行われることなどありはしない。
「何が起こるのかわからない試みですから、小規模から始めるというのは賛成ですよ私も。しかし、やはりね……戦いとはこうでなくては爆発的な変化など望めますまい?」
そう言って竜王寺は、激しく戦う二人を眺める。
「……」
それぞれの思惑があり、それが絡み合い、予想外の事態さえ絡みついた時、初めて予想を超える何かが起こるのだと竜王寺は信じていた。




