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 大和 学は剣士である。


 大和の家は大昔から魑魅魍魎の類を相手取る退魔師で、人々を様々な悪鬼や邪神から救ってきたらしい。


 歴史の陰で目に見えない外敵と戦い続けてきた一族ともなれば、もちろん義務を果たすために一定の資質を求められることになる。


 大和 学はそんな家の長男として生まれた。


 将来を期待されていた彼だったが、大和の家に伝わる秘伝を託されたのは、彼の姉であった。


 秘伝の伝授は当主である人間にしか譲渡されることはない。


 その瞬間から、彼は落ちこぼれの烙印を押されることになる。


 それでも大和 学は退魔師であることに誇りを持っていた。


 たとえ才能があろうとなかろうと、誰に認められることがなくとも自分が剣をとり、誰かを一人でも守ることができたならどんなにいいだろうと、そんな理想に憧れていた。


 だが落ちこぼれには憧れはあまりにも遠く、大和 学はそれでも手を伸ばす。


 まっすぐ伸ばした手には、蛇が絡みつき彼の体を光へと引き上げた。




「……!」


 大きな力が渦を巻く。


 力の中心は、大和君で。


 倒れた体からあふれ出す妖気はどんどん膨れ上がり、嵐のようだった。


 僕にはあれが何なのか見当もつかない。


 だけどおそらくはその分野に精通しているであろうシーラさんはその正体を掴んでいる。


 それが証拠に、出てきた蛇を目にした瞬間、彼女は震え続けていた。


「あ、ああ、あれは……危険な。本当に危険な力です……」


「危険な力?」


 僕が彼女に問いただすと、シーラさんは青い顔で答えた。


「そ、そうですわ。アレは悪霊なんてものではありません……神々や邪神に匹敵する。……逃げないと、あんなもの人が抗えるものじゃない……!」


 との話である。


 だが僕にしてみればそんなことはどうでもよかった。


 問題は今まさにそれを体の中に入れられた大和君が明らかに正気ではないことだった。


「ああああああああああああ!!!!」


 白目で絶叫するあの姿が正気であるわけがない。


 上半身の袴は破れ、彼の体には、先ほど礼先生の体の上を這っていた、蛇の刺青がうごめいている。


 これがどういう状況なのか、僕には判断出来ずに気が付けば額に汗がびっしりと浮かんでいた。


「せっかちなことだな! 始めるのなら一言あってもよさそうなものだが!」


 ドンと激しい音を立てて、僕達の横をすり抜けていった筋肉の塊は、力の嵐を巧みにすり抜け、礼先生を助け出した。


 そして素早く離脱。布のようなものを彼女にかける。


 あの筋肉は間違いない!


「竜王寺校長先生!」


 僕は思わずこぶしを握り締め、その名前を呼んでいた。


 さすがは師匠! 驚きの手際である。


 礼先生を助け出した筋肉は、まだ駄菓子屋のエプロンを翻していたが、まさしく竜王寺校長その人だった。


「おう! 山田君! どうやらこれが礼先生の用意した模擬戦のようだよ! 存分に日頃の成果を発揮して見せてくれ!」


「えええええ……」


 非常事態に対してなんと気の抜けた声援だろう?


 女の子達もそれは同じのようで、まず早乙女さんが食って掛かった。


「なんですかそれ! どう見ても異常事態でしょう!」


「そうです! どうにかして止めないと!」


 シーラさんも同調していたがそんな剣幕で怒鳴られても眉一つ動かさない竜王寺校長は大人だった。


「わかっているとも! だがあれは君達の手に余る! そこにいる山田君なら話は別だがね」


 そうして当人の僕に話は戻ってきた。


 すると疑わし気な早乙女さんの無遠慮な視線が、僕に突き刺さる。


「山田君が? 冗談でしょう?」


「そうです! あれは一人の人間の手に負えるようなものでは!」


 シーラさんは僕と竜王寺校長の前に割って入って、僕はかばわれる構図になった。


 しかし、今回は女子の中でも意見が割れた。


「……いえ、彼に託しましょう」


「え? 何言ってんのリオン!」


「……彼は普通じゃないわ。見ていればわかるから」


「……」


 リオンさんは真顔で僕の顔を見て、任せたわよっとでも言うように頷いてくる。


 そして確信はないようだが、マリーベルさんも竜王寺校長の意見を妨げるつもりはないようだ。


 僕の手のひらにぶわっと汗が出てくる。


 そしてダメ押しはもちろん満面の笑みを浮かべた竜王寺校長だった。


「やってくれるね?」


「師匠……」


 思わず僕も師匠呼びだ。


 お世話になった師匠にこう言われたら仕方がない。


 僕はとうとうあきらめて、返事を返した。


「……が、頑張ります」


 だいぶん迷いのある拳を大和君に向ける。


 すると彼の周囲の大気の中でぞろりと何かが動き始める。


 大和君の体からあふれ出たものを僕はしっかりと視界に収めていた。


 蛇はこちらに気が付き、すべての頭がこちらを見ている。


 不気味な八個の頭を持つ蛇からは絶えず妖気が流れだし、敵意が濁流のように僕に押し寄せてきた。


 シャー!


 音ではなく威嚇が思念として僕にたたきつけられると同時に、鞭のように暴れる大蛇の体が僕に向かって飛んできた。


 冷や汗が噴き出す。


「……!」


 ぎりぎりまで僕は迷った。


 だが押しつぶしてくる大蛇が体に触れるより前に僕の体は勝手に動く。


 それはもう長年しみついてきた反射的なもので、どうしようもない。


 不気味な感触と衝撃はズドンという重い音と一緒にやってきた。


「!……ああやってしまった!」


 とっさにやってしまったことに僕は震える。


 ……僕は気が付けば大蛇の頭を一つばかりもぎ取っていた。


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