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(……面白い人たちだなぁ)
そうは思っても、とても言い出せない。
やはりこれは、見なかったことにして話に集中すべきなのかもしれない。
深刻な表情で集中している大和君にも悪いけど、僕としては手加減とか苦手なので、ちょっと本気で礼先生に頑張ってほしいところだ。
「とにかく模擬戦は認められません、危険すぎる」
「だがなぁ……そうは言っても弟さんの方は意思を変えるつもりはないようだが?」
なんだか勢いがあったので礼先生が押し切ってくれるかなと、わずかに希望を持った僕は甘かったようだ。
なぜなら僕以外の当事者が、VS僕との戦いを完全推奨したからだ。
「姉さん……お願いだ。俺を公平と戦わせてくれ! どうしても俺は戦いたいんだ!」
「えぇ……」
「何のために?」
そうだもっと言ってやってほしい。
僕が友達である大和君と戦うことに何のメリットがあるというのだろう?
ぶっちゃけ、何回か戦ったくらいでそんなに強さなんて変わんないと思う。
そう思っているのは僕だけのようで、大和君は拳を握り締め、声を震わせて、鬼気迫るほど真剣だった。
「……公平が強いことなんて知ってる。でもきっといつかなんて考えで、俺は戦えるようになるのか? ここで訓練さえできないようなら俺にそんな日は来ない気がする」
「……」
「俺は強くなるためにこの学園に来たんだ……! お願いだ! 姉さん!!」
「……だめだ。許可できない」
大和君はかたくなだったがやはり礼先生は折れない。
気まずい沈黙に僕はいたたまれなくなっていた。
姉弟だとわかっているからというのもあるが、口はすごく出しづらい。
だがどうやら、大和君が仮にこの後何か言い続けても礼先生は必ず断る流れである。
現場の訓練においては、礼先生は竜王寺校長よりも高い権限を持っているっぽかった。
このまま優勢は崩れない。
僕は密かに胸をなでおろしていたが、思わぬところから大和君側に助け船が入って僕はぎょっとした。
「いいじゃないですか。訓練」
とても珍しい顔その3。
駄菓子屋に薊 マイさん襲来である。
まさか図書室でもなく彼女と出会う機会が駄菓子屋であるとは驚きだ。
彼女が出てくるタイミングは絶妙で、まるでこの話を後押しするために登場したかのようだった。
「薊……お前」
薊さんを視界に入れた瞬間、礼先生の視線はより鋭さを増す。
薊さんはまるで気にせずニコニコ笑ったまま話を続けた。
「もし死ぬような怪我を負ったとしても、必ず私が治療してみせますよ。それだけの設備がここにはそろっているんですから」
「しかし……」
「いいデータが取れることは間違いありませんしね。それこそこの学園の存在意義だ」
ひょっとすると、薊さんは礼先生よりも大きな権限を持っているかもしれないなと僕はそう思った。
薊さんは不思議だなーといつの間にか僕は彼女を目で追っていた。
だから反応が遅れてしまう。
「……山田君はそれでいいかい?」
「え! ええっとそれは……」
竜王寺先生から尋ねられて、ようやく僕は意見を言えるタイミングを得たわけだが、完全に不意打ちになってしまったのがまずかった。
「えーっと僕はですね……」
ここは丁重にお断りの言葉を伝えなければ。
喉元まで出かかった絶妙なタイミングでポンと僕の肩をたたいたのは薊さんだった。
彼女は僕の耳元で囁くように言う。
「君は大丈夫だよね? 私は君がちゃんと戦うところを見てみたいと思っていたんだ」
「……えーと」
その瞬間スパンと頭の中が真っ白になった。
気が付くと僕は言ってしまっていた。
「……やります」
「なら決定だね」
僕はどうやら薊さんに言われるとなんか弱い。弱すぎた。
内心悶えていた僕だったが、話はとんとん拍子に進んでゆく。
そしてなぜか薊さんは率先して段取りを進めた。
「会場の準備はちょうど万全な場所があります。第一演習場がいいでしょう。過保護もほどほどにしていただきたいお姉さん」
「……」
そう言われた礼先生の目が怖い。
薊さんも挑発気味に礼先生を煽るのはやめておいた方がいいと思うわけである。
ぞっとするような怒りの表情を浮かべた礼先生は、それでも薊さんの言葉に反論することはなく折れた。
「……わかった。ただし時間をもらおう。それなら許可する」
「了解です。データさえとらせていただけるのなら何日後でも構いませんよ」
「いや、そう時間はかからない」
どうやら僕は、学園の監視のもと正式に大和君と訓練をすることになったようである。
勢い引き受けてしまったが不安が大きすぎて吐きそうだ。
大和君はぱぁっと明るい笑顔を浮かべていたが、礼先生からむずんと襟首をつかまれると、そのまま引きずって行かれてしまった。
「来い」
「ね、姉さん! 自分で歩けるって」
「黙ってついて来なさい」
「……はい」
ああなんというか、大和君はお姉さんには根本的に頭が上がらないらしい。
「……ああ、なんでこんなことに」
諸々含めて僕は頭を抱えた。
「ふむ。色々とあるのだよ。家庭の事情というやつだ」
当事者なのに置いてけぼりを食らって助けを求めた僕に竜王寺校長は、どことなくアメリカンなジェスチャーで肩をすくめていた。
実際複雑な家庭の事情はあるのかもしれない。しかしなぜだか僕は大和君と礼先生がそれほど不仲には見えなかった。
「仲がいいですよね? あの姉弟?」
「うーーーむ。どうかな? まぁそのあたりも複雑なのだよ」
「複雑ですか……」
「そうだ。複雑なのだ」
なんとも世の中は色々と難しい問題であふれているらしい。
ただし単純に青い顔でズルズルと引きずられてゆく大和君は身の安全が危ぶまれた。
「えっと……なんか心配だな。僕もついて行ったほうがいいのかな?」
不用意にも口にしてしまったセリフは後に「でも家庭の事情に首を突っ込むものじゃないよね」というセリフが後に続くはずだった。
だけど僕は途中で言葉を切らざるを得なくなる。
「それはいい案だわ。じゃあ行きましょう」
「うん。友達想い。私そういうのいいと思う」
「へ?」
両脇をいつの間にかがっつりと固められた。
「……行こう」
「急ぎましょう! 山田さん! 見失ってしまいますわ!」
「えぇ!!」
さらに両足もがっつり拘束され抱えあげられたら、もはや逃げられない。
最後に視線で助けを求めたが基本的にスルーされた。
「やれやれ、全く仕方がないな。君達は」
あきれ声だが薊さんは止めるつもりはないようで。
「うむ! これも青春だな! 励みたまえ!」
「ど、どうすればいいんですか!」
最後の望みは絶たれ、僕は追跡班の一員となった。




