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大和 学は、クラスメイトの女子にすごく人気のある剣士である。
確かに彼の甘いルックスと、気さくで元気な性格は人気があるのも頷ける。
ところが今日の大和君は彼らしくもなく、いまいち声に覇気がなかった。
周囲に女の子の姿はない……いや、そういえばそれぞれに女の子たちは用事があるはずなので、大和君がその分暇になるというのはある意味当たり前の話ではあった。
ただそれがまずかったのかもしれないと僕は察する。
普段いる友人がいないというのは、なにか足りない感じがするものだと学習した。
それが女友達で、恋人候補だったりすれば、なおさら心に隙間風が吹いても無理はない。
大和君は見るからに落ち込んでいて、気の毒になるくらいだった。
ここは一つ友達として元気づけてあげなければならないんじゃないだろうか! 友達として!
僕は必要以上に気合を入れて大和君に話しかけていた。
「大和君、どうしたの? なんだか元気ないね」
「ああ……ちょっと」
大和君の口からため息がこぼれる。おっとこれは重症のようである。
「僕にも何か力になれることがあるかもしれないよ! 女の子達も大事な用事があるんだと思うし!」
「え? ああいや。そりゃぁそんな日もあるだろうと思うけど」
おや、どうやら女の子がいないから落ちこんでいるわけではないようだ。
「ええっと! とにかく元気ないみたいだからどうしたのかなって思って……」
予想が外れてしまってちょっと僕は失速した。
まぁでもまだ大丈夫。暇つぶしの方法なら今なら少しはマシなはず。
いざとなれば、ホルスト君推薦図書の力を借りれば、放課後の時間など矢のごとしである。
ただ大和君が選んだのは気晴らしではなく、真っ当に相談だった。
「……そうだなぁ。うん……じゃあ聞いてくれるか?」
「もちろん!」
こいつはなおさら友達力を試されると、全力で期待に応えるべく身構えた僕に、大和君はため息交じりにその相談を呟いた。
「実は……最近思うんだ。俺ってすごく弱いんじゃないかって」
「んん?」
「実は思うところがあって……模擬戦を頼むようになったんだ」
それはまた殊勝な話だと僕は頷く。
この学園の本来の目的は能力の開発だが、その大きな部分で戦闘能力が求められていることを僕ですら理解している。
とはいえだ。本気の戦闘だってまま起きるご時世である。
朝起きたら目覚まし代わりに怪獣とバトル! なんてことが起きているのに自主的に模擬戦まで行っているというのは中々熱心なことだった。
「模擬戦ってロボットか何かと?」
ちょっとした好奇心で詳しく尋ねてみると、大和君は首を横に振った。
「いや、そうじゃなくってクラスメイトの男子と……」
「フワ!! ほ、本当に?」
僕はいつの間にそんなことをしていたんだろうと普通に驚いた。
それも男子とは……これまた嫌な予感がする。
悩みの正体が見えてきた気がして僕はそれでも一歩切り込んだ。
「で? 何があったのかな?」
「ああ。せっかく強い奴がいるんだから、手合わせしてみたいだろ? 最近手合わせしてもいまいち……その、本気を出してくれてる感じがしなくって」
「あぁ。……そうなのかな?」
当たり前と言えば当たり前の告白に、僕もやんわりと頷くだけ頷いておいた。
惚れた弱みという言葉もある。
そこはなかなか本気でぶっ飛ばすような真似がし辛いのはわかる。
だから大和君は男子のクラスメイトに活路を見出そうとした……まぁわかる話だ。
だがそれは、どうにもイバラの道な気がして仕方がない。
「それは……大丈夫だったの?」
僕は恐る恐る尋ねると、視線を合わせてくれない大和君の瞳から光がすっと消えてゆく気がした。
「えっとな……まずは時坂と話をしにいったんだ」
「あ? オレと稽古がしたい? ……いいぜ? 少し付き合ってやるよ」
大和 学は間違いなく時坂タクマに手合わせをしてほしいと頼んだ。
時坂は快く快諾したが―――。
「それから、演習場に行って向かい合ったところまでは覚えてるんだけど……気が付いたら治療室のベッドの上だったんだよ」
「……」
それって全然大丈夫じゃないんじゃないだろうか?
演習場で行われた一方的な攻防が、なんとなく脳裏に浮かんだ。
記憶まで飛んだというのならそのまま入院していた方がよかったのではないだろうか?
僕が黙り込んでいると、大和君は話の続きを始める。
「んで、次の日今度はホルストに頼みに行ったんだよ」
「わぉ……大和君思ったよりもチャレンジャーだよね」
「そうか? 俺だってこの学園の生徒なんだ。少しでも強くなりたくってさ。それで……」
「んん? 模擬戦か?……いいだろう。なぁに心配するな手加減せずにかかってこいコッチも手を抜くつもりはないからな」
大和 学が提案するとやはり ホルストはあっさりとそれを受け入れた。
「それからやっぱり演習場にやってきたところまでは覚えてるんだけど、気が付くと治療室のベッドの上だった」
「……」
何だろうな……ちょっと体が震えてきた。
こう、かなり深刻な状況なんじゃあないだろうか? 精密検査とか勧めた方がいいのかな?
僕の様子には気づかずに大和君はさらに悲劇を生み出したことを告白し出した。
「で、べぇだにも頼んだんだ」
「なんで!?」
「なんでって、そりゃぁ他の二人に頼んだんだ。べぇだとも戦ってみたかったし」
「あーうーん。でもなぁ。べぇだ君は、その、意外と容赦ないから……」
特に大和君には容赦がなさそうだと、僕はいつしか震えていた体を自分の手で押さえていた。
だが僕が震えている理由が大和君にはわからないらしい。
「だからいいんじゃないか。手加減なんかされたら意味がない」
詳しく説明できないから、このニュアンスはやっぱり伝わっていないのがもどかしかった。
「へ? ボクと訓練? ……いいよいいよ? 思う存分やってあげるとも」
大和 学が三度目の提案をすると、そんなセリフでべぇだは訓練の申し出をすんなり受け入れた。
「それで―――やっぱり、気が付くと治療室のベッドの上だった。どうやって負けたかもわからないけど。たぶん俺は負けたんだろう」
「うーん。僕もたぶんそうだと思うっていうか、記憶がないって普通にやばくない?」
「そうか? 気絶とかしたらそう言うこともあるだろう?」
あったとしても、そう何度も短期間に体験することじゃないと思う。
そう言ってしまいたかったが、もはや三人と手合わせした現在では、意味があるかは微妙だった。
こうして大和君は無事生還しているのだから。
べぇだ君にしては手加減したのだとは思う。とりあえず今の大和君は五体満足であることを素直に喜ぼう。
ひょっとすると時坂君の時間逆行治療サービスがフル稼働した可能性もあるがさすがにそこまで生命の危機がある事態には発展していないといいなっと、僕は思った。
それにしてもあの三人に正面から一対一で勝負を挑み、まだ普通にしていられる大和君はなかなかのタフネスだ。
そしてすべて話した大和君は重々しいため息を吐いて、焦点のあっていない瞳で改めてぽつりと呟いた。
「……俺めちゃくちゃ弱いんじゃないか?」
「あー……」
なるほど。数々の死闘を繰り広げ、最終的に何が起こったのかわからないなりに答えを導きだしたらそうなったようである。
僕はどう答えたものかと頭を抱えた。
なんというかどう答えても、心をえぐりそうな相談だった。
「それは……どの基準で何か言えばいいかわからないなぁ。大和君は幽霊みたいなのと戦う時は強いだろうし」
結局のところ相性というものがある。
同じ学園に通っている同級生とはいえ、能力が全く違う以上はひとくくりにすべきではない。
スケールで言えば、大和君の能力は対個人。
他の三人は対軍隊、それも宇宙艦隊相手と普通に渡り合えそうなノリでは比べようもないと思う。
しかしだからこそ例えば暴漢を取り押さえるなら、大和君の方が適切で、他の三人は過剰に過ぎるとも言える。
「そうかもしれないけど。俺はもっと強くなりたい……んだけどな」
そこは大和君にしてみれば大事なところなのもわかった。
そもそもこの学園には能力をさらに伸ばすつもりでやってきているのだから。
言いたいこともわかるので、僕も首を捻ることしかできなかった。
「うーん。そうだなぁ……」
僕が何と答えたものかと考え込んでいると、パンと手をたたく音がして、僕らの視線はそれる。
手をたたいたのは店長だった。
「話は分かった! ならば君たち、少し本気で戦ってみたまえ!」




