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 大和君と例の彼女、シーラさんが第一運動場に行くらしいと聞くと、すごく自然に人間は割れた。


 女子は第一運動場に向かい、そして自然な流れで第二運動場には男子が集まることになる。


 誰もこの流れに口を挟まない。


 あふれ出る闘争心は彼らの顔を見れば分かった。


「うぁ……すごいなぁ。野球場みたいだ……行ったことないけど。都会はすごいなぁ」


 運動場は運動場なのだろうが、その規模はドーム型球場並みだ、コレ。


 全天候型の運動場など今まで見たことはない。


 さすが都会人は考えることが違う。いや、これは都会とかそういう問題だろうか?


 どうにも落ち着かず、僕はきょろきょろするばかりだったが、そこで運動場のスクリーンに何か映し出されていることに気が付く。


 どうやら巨大スクリーンで別の運動場にいてもお互いの事を観戦もできるらしい。


 そこには今まさに大和君が映し出されていて、僕も初友達の安否はやはり気にかかる。


「大和君、大丈夫かな?……」


「おや、君は学の心配をしてくれるのか。でも今は自分の心配をすべきじゃないかな?」


「!!」


 スクリーンを見上げ僕が呟くと、思いもよらない反応が帰って来て、僕は度肝を抜かれた。


 そこにいたのは、女の子だったからだ。


 眼鏡をしていて、一本の三つ編み髪をしたその子は、今朝先生と一緒にいた子だった。


「えーっと、君は?」


 僕が知っているのに尋ねると彼女は眼鏡の奥から僕の顔を覗き込む。


「ああ、そうか。この授業は一応建前上は、レクリエーションってことになっているんだったね。私の名前は薊 マイ。スクリーンの向こうで喧嘩をしている彼とは顔見知りでね。私はてっきり彼の肩を持つ男友達はいないと思っていたから、ちょっと興味がわいたんだ。驚かせてすまなかったね」


「い、いえ、ええっと確か薊さんは……大和君の幼馴染ですよね?」


 つい緊張して、知らないはずの情報を口走ってしまう。


 気持ち悪い奴とか思われたらどうしようと心配していたが、大丈夫みたいである。


「へぇ……君はまだここに来て日も浅いのに、そんなことまで知っているのか」


「あ、いや、ちょっと小耳にはさんで」


 何言ってんだ僕。全く説明になっていないじゃないか。


 それどころか、不審者度アップである。


 こっそり冷や汗をかいていたが、薊さんはクスリと笑ってくれた。


「そうなのか。でも評価するよ。耳が早いのは注意力が高い証拠だ」


「そ、そうかな?」


「……じゃあ、そんな君から見て、二人の試合はどうかな?」


 だが突然スクリーンを指さしてそんなことを聞かれて、僕は何と答えたものかと戸惑った。


 経緯を見ていれば、決闘まで行ってしまったのだ。シーラさんは恥ずかしさもあって、意地でも勝たねばならないだろう。


 対して大和君は、今朝会ったばかりの女の子相手に、真剣で斬りかかれるものだろうか?


 クラスメイトに相対するならむいている武器だとも思えない。


 というわけで、どんな戦い方をするのか知らないけれど、シーラさんの勝率が高い、と言ったところだろうか?


 だが結論は置いておいて僕は言った。


「真剣勝負ってことはないから、打ち解けられればいいんじゃいでしょうか?」


 まぁレクリエーションだし?


 だけどその答えに、薊さんはひとまず曖昧な表情を浮かべて頷いた。


「まぁ、そうなのかもしれないな。でもあいつは負けず嫌いだからね」


 僕は薊さんにとても綺麗な笑みを向けられて、単にどぎまぎした。


 だけど僕が混乱している間に、スクリーンの中で友達の勝負は始まっていた。




『お覚悟を、手加減などできませんので――』


 僕らはスクリーンに視線が引き寄せられる。


 シーラさんが手を地面にかざす。すると彼女の背後に巨大な鬼が二体現れた。


 人間より遥かに大きな赤、青の鬼は実体を伴って、持っていた金棒を振り回し大和君に襲いかかる。


 そんな様子を見て、薊さんは僕に解説してくれた。


「彼女はシャーマンだ。目に見えないものと言葉を交わし、支配する。来日してすぐあの通り、妖怪じみた物まで召喚できる。実に強力な能力だと思う」


「へぇー」


 僕は一個賢くなった。


 そんなことが出来る人がいるんだなーって感じである。


 でもそんなものと戦って、大和君は大丈夫だろうか?


 次々振り下ろされる棍棒をかわす大和君は随分苦戦しているように見えた。


 だが、これが古武術と言う物か。大和君は最小限の動きで攻撃をかわしていたらしい。


「すごいな……あれが見切ったとかいうやつなのかな?」


「ああ、学は昔からああいうのはうまい」


「そうなんだ」


 武術というものを生で見るのは初めてだった。


 鬼の攻撃で派手に吹き飛んではいるものの大した傷もおわずに華麗にかわす大和君。


 回避には成功しているらしく、繰り返している間に無駄もなくなってきているようだった。


『この! ちょこまかと!』


 焦ったシーラさんは、最大の攻撃に出た。


 先ほどよりもさらに大きな鬼が何もない所から這い出てきて、大和君の前に立ちはだかる。


 だが僕は鬼の目が血走っていることに気が付いた。


「ん? アレは、だめっぽい」


「へぇそうなの?」


「たぶん。敵と同じ感じがする」


 明らかに普通でない鬼は一度だけ大和君を攻撃したものの、どういうわけかすぐに攻撃対象をシーラさんへと変え、襲い掛かった。


 あ、これはまずい。


 そして鬼はシーラさんに触れた瞬間、霞のようになってその身体に入っていった。


 割と冗談では済まない感じである。


『ああ!』


 シーラさんは叫び声を最後に、明らかに正気でなくなる。


 大和君もその急激な変化に慌てていた。


『シーラ!』


 ここでまさかの呼び捨てである。


 いやいやでもそんなことを言っている場合じゃなかった。


 なにか対策はあるのだろうかと僕はハラハラしながら見ていると、覚悟を決め構えた大和君の持つ刀から、青いオーラのようなものが立ち上るのが見えた気がした。


『今助ける……!』


 腰を低く構え、大和君は角の生えたシーラさんに向かって突進する。


 振り下ろされた腕を掻い潜り、大和君は目の前で刀を振った。


 大和君の刀が何かを斬る。


 正確には刀から伸びた力だけが鬼を斬った。崩れた鬼の残滓がシーラさんの身体から飛び出し、消え去ったのが僕には見えた気がした。


 暴走から開放され崩れ落ちたシーラさんを抱き留めた大和君は心底ほっとした顔で、シーラさんを抱きしめていた。


 はわわである。


 僕なんて非常事態でもあんなことできない。


『大丈夫か? 怪我は……ないよな?』


 尋ねる大和君に目を覚ましたシーラさんは――。


『は、はい……すみません』


 意識がもうろうとしているのかまともに動けないみたいだったが、借りてきた猫のようにおとなしくなって、お顔が真っ赤だ。


『シーラってすごい力を持ってるんだな。びっくりしたよ』


『~~!』


 そしてダメ押しのさわやかなスマイル付きの称賛に、あれだけ後に引けなかったシーラさんの表情が蕩け、戦意は完全になくなってしまったみたいである。


 一件落着……なのか?


 僕は最後の最後に勝負なんてどうでもよくなる、とんでもないものを目撃した。


 それは人が恋に落ちる瞬間である。


「……」


 まさに一瞬の出来事だった。


 僕は隣にいるはずの薊さんに感想を言った。


「あの……大和君っていろいろすごいですね――あれ?」


 だけど肝心の薊さんはもうそこにはいなかった。


 ……がっかりなんてしていない。


 一先ずスクリーンから視線を外して、実はちょっと逃避していた問題と正面から向き合うことにする。


 さて心配事も消えたところでこちらはこちらで大変だったんだ。


 僕以外の男子達はすでに三人でにらみ合っていた。


「けっ! なんだありゃ。雑魚共が。茶番かよ」


 タンクローリーの彼がつばを吐く。


「そんな事女の子に言うもんじゃないよ? だけど男の方は爆ぜろ」


 そして、銀行強盗の彼は乱暴な物言いに眉を吊り上げた。


「どうでもよい。こちらはこちらで話を始めるぞ」


 高級車の彼は、いちおう静かになるのを見計らってからそう言ったものの、穏やかとはいえない口調だ。


「うーん」


 僕的には、今からここに混ざりたくないなーって感じだった。


 だがそうも言ってはいられない。


 これはレクリエーション。クラスの仲間と仲良くなるチャンスなのだから。


 するといちおう形式は守られるようで、高級車の人から自己紹介は始まった。


「では自己紹介といこうか? 我が名はホルスト、古の王の転生体たる我が能力は太陽神。私の前に立つのなら、太陽を相手取ると心せよ」


 高級車の人、ホルスト君は黒い髪を書き上げて、太陽のよく似合う肌に、炎を纏わせる。


「……ドウモコンニチハ。オレの名前は時坂 タクマです。超能力研究所所属。能力は時空制御。言っとくが、お前らが知覚する前に、パズルみたいにバラバラにしてやんぜ?」


タンクローリーの人、時坂君は赤い瞳を光らせて、体を燐光が包む。


「ボクはべぇだ! 宇宙人なんだ! 地球人と融合してるけど、体はエネルギー体だし、光より早く動けるからあんまり舐めると――怪我じゃすまないかもね」


 最後に銀行強盗の人、べぇだ君は、モデルも真っ青な金髪碧眼の整った笑顔を残し、体そのものを不思議な雷みたいなものに変えて、輪郭をぼやけさせる。


 なるほど、こちらの男子の面々も中々濃い。僕はそう理解した。


 そして殺気にまみれた視線が同時にこちらを向く。


「それで?」


「お前は」


「何?」


「えぇ……と」


 さすがに三人に同時に睨まれるとひるんでしまった僕だった。


 それでも慌てて、僕は彼らに自己紹介をした。


「えーっと……。僕は私立中学から来ました、山田 公平です。えーっと仲良くしてください」


「「「能力は?」」」


「……えーっと……不明です」


 眼力に圧倒されてしまったが、嘘じゃない。


 まぁこの状況で無敵とか言ったらまた大変そうなので能力不明が正解だと思う。


 だが三人はこちらを見たまま黙り込んで、ものすっごく僕は不安になった。


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