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さて、状況というのは常に変化するものだと僕、山田公平は本当の意味で理解していなかった。
僕がもたもたしている間に日々少しずつ周囲も変わっていっている。
ふと気が付いた時には元の状態とはずいぶんとかけ離れているということだってもちろんあるのだということを。
違和感を自覚したのは、ある日時坂君に話しかけた時のことだった。
「時坂君、今日駄菓子屋行くの?」
それは寮の食堂での他愛ない問いかけだった。
すると時坂君は頭をかいて首を横に振る。
「いや、早乙女のやつに頼まれごとしてっからたぶんいかねぇわ」
「ああ、そうなんだ」
「あいつ、しっかたねぇよな……ほんと迷惑な話だわ~」
聞いてもいないのに楽しげに説明してくれる時坂君。
彼が迷惑などと小指の薄皮程度も思っていないと、僕は察する。
そしてもんやりとこう思ったわけだ。
あ、これ、なんか地味に寂しい。
妙な不安がある気がしたのもこの時である。
またある時。
「ホルスト君が貸してくれた漫画すごく面白かったよ! 今日返しに行っていい?」
そう尋ねるとホルスト君は言った。
「よい。あれはお前にくれてやる。それに今日はマリーベルのやつに稽古をつけてやらねばならないからな。やれやれこれも王の責務というやつか」
「ああ、そうなんだ……」
などと言っていたが王様的要素などどこにもないことは明らかだった。
しかし二回連続で断られると今度は焦りが。
もんやり。
またまたある時。
「……べぇだ君何やってるの?」
「これ? リオンちゃんがパン買って来いっていうからもってくんだ! 焼きそばパン!」
「―――ああ、そうなんだー」
こちらはもんやりとはしなかった。
どうしようもなく不安な気持ちになったけれども。
またある時はなんてもってまわった言い回しをしてしまったが、これらはすべて朝食堂でおおよそ数分間隔で起こった出来事である。
ふと気が付けば僕はとくに用事もなく一人だった。
「なるほど……これは、アレだな?」
僕とて、最近彼らが女の子と仲良くなったという話はぼんやりと理解している。
世にいう友情とは儚いもので、ちょっとしたことでうやむやになるとかなんとかそんな話なんじゃないだろうかと。
噂には聞いていたが、まさか体験する日が来るなんて思いもしなかった。
「一昔前から考えると……こいつはすごい進歩だ。進歩だけど……」
なんかみんな知らない間にリアルが充実している!
僕が感じているのは一人取り残される漠然とした不安。
それがもんやり感の正体だった。
と、それが分かったところで具体的な解決案など存在しない。
友達がこようがこまいが、僕の行動パターンなど片手のうちで事足りる。
「というわけでどう思いますか?」
「うむ! 青春だな!」
「……」
駄菓子屋にて思わずもらした僕の愚痴に竜王寺校長もとい、駄菓子屋店長は白い歯をむき出して豪快に親指を立てて見せた。
今日もナイスな筋肉の店長は白い歯で笑うが、なんとも納得がいかない話だと、僕なんかは思ってしまう。
「青春……そうですね青春ですよね」
「ふむ。いいことだと私は思うぞ? そもそも少人数なのだからこの機会にもっと女の子達とも話してみるべきだ」
正論に僕は閉口する。
それはまさにその通りなのだ。
この学園にはあまりにも人間が少なすぎた。
それは特殊な能力を持った人間を選りすぐった結果なのだろうが、だからこそ男女の垣根なく交流は行われるべきだろうと思う。
「はい。僕もそう思います……けど」
「ふむ。君はうまくいっていないのかな?」
ただ理解できていることと実行できているのかはまた別の話だった。
表情に出てしまったのかそう指摘され、僕はなんだか顔が熱くなるのを感じていた。
「いや、うまくいっていないというわけではないと思います。友達はできたと思うし。ただ、どうにもみんな恋愛とかに興味津々で……でも僕には縁遠い感じがすごくしているだけだと……思います」
まぁ言ってしまえばそんな感じである。
どうしても頭にちらついてしまう雑念を思わす口にしてしまったら、案の定店長からはものすごく楽しそうに笑われてしまった。
「はっはっは! そうなのかい? いや君も今まさに青春をしているよ!」
「そうですかね?」
「ああそうとも! その悩みのすべてが青春そのものだ! 今のうちに味わっておくとよいだろうな!」
はっきり言って店長の言うことはよくわからなかったが、そういうものなのだろうか?
少なくとも今僕は駄菓子屋で一人、くじ付きキャンディを舐めている現状を青春っぽいとは思わないのだが、はたから見ているとそうは思えないのかもしれない。
青春とは複雑奇怪、僕は心のメモにまた一つメモ書きを増やした。
まぁそれは僕の話である。
大前提として他人の青春を邪魔をしてはいけないと強く思うので、打開策はないわけだ。
友達というのは本当に難しい。
僕がこの難題に頭を痛めため息を吐く前に、駄菓子屋の入り口でため息が聞こえて僕は振り向いた。
「はぁ……」
「ん?」
そこには珍しい友人が立っていて、今まさに駄菓子屋に入ってくるところだった。
黒髪に長身。そして刀を差した男前は、見間違うはずもない。
「大和君?」
「……ああ公平か。ここに来てたんだな」
大和君は軽く手を挙げて、僕に挨拶した。




