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「ギャオオオオオオ!」


 地響きするほどの叫び声を上げて、怪獣の群れが押し寄せてきていた。


 四足獣、二足歩行に、翼付き。


 空も地面も一面埋め尽くしているその怪獣は、いわゆる恐竜が突然大量発生したものらしい。


 この突如としてふってわいたジュラシックな災害に我らが学園の特殊施設は、例にもよって大量の恐竜たちをひきつけているわけだ。


 太古の時代から蘇ってきて申し訳ないが、ぺしゃんこになるわけにもいかない。


 当然迎え撃つ準備は整えられた。


「おいおいそんなに慌ててどこに行くんだ?」


 腕を組んだままの時坂君は迫るトリケラトプスの角の壁を一瞬で止め、アッといまにまとめて細切れにして見せた。


 彼の超能力の前に力など通用しない。彼の領域内では時間も空間もすべては彼の手の内だからだ。


 続いていた恐ろしい牙を持った肉食恐竜達が大きく時坂君を迂回してゆく。


 しかしそれは想定通りのルートだった。


「いったぞホルスト!」


「わかっている。こっちは任せておけ」


「グオオオオ!!」


 巨大な顎を開き、掬い上げるように、地面ごとホルスト君を飲み込もうとした恐竜は、いきなり膨れ上がった火の玉に自ら突っ込んでいくことになった。


 先頭の一体を飲み込んだ後も膨れ上がる火の玉は、猛烈な高温で燃え上がり、後に残ったのはさらさらと灰になった骨格標本である。


 後は、空を覆う翼竜の群れだ。


 炎を収めたホルスト君は、空担当に残りの仕事を投げた。


「よし。あとは任せたぞべぇだ」


「えぇ。ボクだけ数が多くない?」


 渋るべぇだ君はしかし彼の速さをもってすれば、空を飛ぶ翼竜すら止まっているようなものだった。


 チカリと空に一筋光が一筆書きで翼竜をなぞると、大穴の開いた翼竜たちは次々に撃ち落されていった。


 圧倒的な強さで叩き潰された恐竜達を率いていたモノは、彼らが力を失うことでその姿を現した。


「―――」


 先ほどの肉食恐竜の三倍以上はある巨体が、地面をまるで水面のように切り裂いて浮上する姿は圧巻だった。


 そしてそんな親玉の目の前にいたのは、日本刀を持った大和君だ。


「!……よし―――こい!」


 大和君は厳しい表情で巨大恐竜を睨みつける。


「――――――!」


 青白い輝きが彼の内側から発し、一太刀振り下ろされた。


 霊的な力を帯びた飛ぶ斬撃は確かに親玉恐竜を切り裂いていたが……巨大な質量の塊は止まらない。


 もはや回避も間に合わない、そう判断した僕は動いていた。


 ズドンと水平にチョップである。


「え?」


「お待たせ! 大丈夫? 大和君!」


「あ、ああ」


 僕、山田公平の水平チョップは、ちょっとした恐竜ならお手軽に吹き飛ばせる便利技の一つだ。


 周囲を見回すが、ひとまず敵らしき敵はもういない。


 攻めてきた生物のせん滅が、竜王寺校長から与えられた課題である。


 一息つき、みんなはやれやれと楽勝な雰囲気を出して集まってきて、目標達成を喜び合った。


「まぁこんなもんかね。案外ちょろかった」


「恐竜っぽかったね。っていうか恐竜だったのかな?」


「ふん。今更古代の生物が蘇ったところで、何の面白みもない。怪獣とか普通に出てくるだろう」


「……なんかごめんな? 公平……。足を引っ張った」


「気にしなくてもいいよ。敵を倒すことが一番大事だよ」


 この世界には、いつだって人間の敵が多すぎる。


 その過程なんてものは二の次で、何よりやっつけなければ駄目である。


 そしてここにいる味方がみんな無事ならそれが一番いいに決まっていた。


「さて帰るとするか」


「そうだな。たたき起こされて朝から寝足りんぞ」


「今日くらいは遅刻しても、許してくれるって!」


 僕らは今日も学園を守った。


 その輝かしい勝利を胸に僕らは帰還する。


 そう輝かしい勝利を胸に―――




「学! 大丈夫だった!」


「うわっと! カリン!」


 ダッシュからのハグ。


 大和君に抱き着いたカリンさんは熱烈な歓迎で彼を出迎えた。


「怪我無い? ビックリしたよ! 朝から戦闘実習に言ったって聞いて!」


「ああ。大丈夫俺だって簡単に死なないよ。ありがとな」


「なら許してあげるけど。なんか危なっかしいんだから……」


 大和君の笑顔を向けられたカリンさんは素早く体を放し真っ赤な顔をそらす。


 どうやら今更照れたらしい。


 しかしその瞬間はまさしく隙だった。


 すさまじい勢いで飛んできた箒がカリンさんとの間に割り込み、今度はハグからのほっぺにキスである。


「んな!」


 はじき出されたカリンさんはなすすべもなく放り出され。リオンさんは目を潤ませて、大和君に詰め寄った。


「マー君! 心配したんだからね! はいこれクッキー! あなたのために作ったの!」


「あ、ありがとう。本当に大丈夫だから」


 ためらいがちに大和君はクッキーを受け取ろうとするが、肝心のクッキーはするりと植物の根に没収された。


「ああ! 何するの!」


 悲鳴を上げるリオンさんはそれをやった犯人を睨みつけたが、クッキーを奪った女子二人は、そんな彼女をジト目で見た。


「……これは没収。毒物が混入している可能性がある」


「そ、そんなことないもん!」


「知っているんですよ? リオンさんは贈り物に飲食物は禁止です」


「うっ!」


 この間の事件の真相を知っているマリーベルさんとシーラさんに容赦はない。


 真相を明かさないのはせめてもの情けか。


 一瞬での視線での攻防で、引き下がったリオンの負けである。


 そして、再びできた隙に、今度はシーラさんとマリーベルさんが大和君との、間合いを詰めた。


「……勝手にいかないでほしいの」


「学様! 勝利をお祈りしておりました!」


 強く手を握る、マリーベルさんとシーラさんにうるんだ目を向けられて、大和君は両手を彼女達のお弁当で埋められた。


「ありがとうな。いつも特訓付き合ってもらって大変なのに。本当に……感謝してる」


「わたしはやりたくてやってるもの。気にしないで」


「そう言うことです! それに私達にも勉強になりますのよ!」


 照れて笑う彼女達の笑顔は輝かんばかりであった。




「……」


「……」


「……」


 そんなキラキラした空間を僕たちは横目で見る。


 すべて問題ない。みんな怪我無く良かったねと僕らも素直に輪に入ればいいはずだ。


 しかし残念ながら無理やり溶け込もうとしたところで、あの輪から弾き出される未来しか見えなかった。


「おい。べぇだよ。オレ達は今学園の平和を守って来たんだよな?」


「……そのはずだよ」


「勝ったのはオレ達だ。なのにこの腹の底から湧いてくる敗北感はなんだ?」


 時坂君が心底不思議そうな、それでいて力のない声で言うとホルスト君がまるで感情のないフラットな声で解説する。


「馬鹿め。戦いはもう新たに始まっていたのだ。そして我らは敗北しただけのことよ」


 なるほど。ありとあらゆる戦いは、生きている間続くということなのか。


 勝利した瞬間には、新たな戦いがすでに始まっている。いや、この戦いはもうずっと続いているのかもしれない。


 しかし捨て鉢な説明では時坂君は納得していなかった。


「……そうか。だがオレにはどうにも、この勝利は本来セットのような気がして仕方がないんだ。英雄ってのは称賛されるべきだろう? そして頑張ったみんなで分かち合うべきものもあるはずだ」


「残念ながらそれはないな。愛の量は無限だが、一方通行で定員があるらしい」


「あー……なるほどな」


 絶え間なく大和君に注がれる愛を見ていればそれは明らかだ。


 しかしなるほどあれほどあふれているのに一滴たりともこぼれてこないのだからそうなのかもしれない。


 聞こえないように小声で語り合っているこの状況は、なるほど何かに負けたのかもしれないなっと僕はそれっぽいことを考えた。


 ギリッ


 そんな友人達の奥歯のすれる音を聞かないようにするための逃避である。


 その時、白衣姿の同級生がやってきて大和君の肩をたたいた。


「お疲れ様」


「マイ……」


 薊 マイさんはさっと手をかざして何か言いかけた大和君の言葉を遮る。


 聞いた話によるとマイさんは大和君の幼馴染で、クラスメイトの中では一番古い付き合いなんだとか。


 そんな二人が意味有げに見つめあい、笑いあうとマイさんは軽く頷く。


「言いたいこともあるだろうけど、今はまず医務室に移動してくれ。検査の時間だ」


 マイさんはぱちんと手をたたき僕らみんなにそう言った。


 今回の敵は未知のウイルスを保菌していたかもしれないという念のための処置らしい。


 僕らは言われるがままに医務室に移動するが、ただ何となくその時僕、山田 公平は背中に視線を感じた気がした。


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