73
「え? 誰?」
リオンが呟く。
べぇだは何となく後ずさりして、心の中で叫んでいた。
なんか変な感じに出来上がっている!
だけど助けに来てもらった手前、言えなかった。
「べぇだ君。ここは任せて先に行け……君はいったん体勢を立て直すんだ」
「お、おう……やっぱり君は山田君なんだね……?」
「なんで疑問形なのかわからないけど、僕は山田さ! 邪悪な気を感じてね。駆け付けたってわけさ!」
いつになく自信に満ち溢れていた山田は、やる気以外にも色々と満ち溢れている。
シュワシュワと金色のオーラとか出ている後ろ姿は、この際都合がよくなければ、目を合わせないようにしたいレベルで異常だった。
しかし今は心強い味方だと、そう信じてべぇだは後を託してみた。
「た、頼りになるなぁ。うん、とっても。……えっと、じゃぁとりあえずリオンちゃんを逃がしてくるから、任せていいん……だよね? っていうか正気なんだよね?」
「もちろんだとも……だが、倒してしまっても構わんのだろう?」
「ホントに正気なんだよね!? だ、大丈夫?」
「うん! ここは任せて先に行くんだ!」
「……」
もはや何も言うまい。
細かいことには大雑把に目を瞑って、べぇだはとりあえずお言葉に甘えることにした。
「じゃあ行こうか……リオンちゃん」
「いや! ダメでしょ! 私、山田君のことよく知らないけど! アレは任せらんないでしょ!? 光の速さで飛ぶ宇宙人よ!?」
「ところがどっこいどういうわけか任せられちゃうんだなー……これが」
「わけがわからない」
リオンがそう思うのも仕方がない。公式のプロフィールでは山田の能力は正体不明だからだ。
無敵なんて漠然としたもの、認められるわけもない。
だが実際に彼が戦うところを一度でも見れば期待してしまう。
『なんだ原生生物……邪魔をすれば壊すぞ?』
同胞もいきなり攻撃を仕掛けないあたり、ずいぶん警戒していた。
まぁ見た目からしてそうしなかった同胞の気持ちはよくわかる。
山田はすっと同胞に手をかざし、くいくいっと手招きして見せた。
「やれるものならやってみるがいい……ただし決死の覚悟でかかって来い」
『ぬかすな……原生生物!』
山田がそう挑発すると彼の左腕から真っ黒い炎の竜が一気に燃え上がる。
さらに目には幾何学的な文様が浮かび上がり、体の周囲で金色のオーラが激しくスパークする。
リオンなどはこの非常識な山田に息を呑んだ。
「あ、あれが山田君の能力……」
「いやー……違うと思うんだけどね?」
「でもなんか出てる!」
「出てることはー……出てるねぇ。てんこ盛りだぁ」
「あんなの普通じゃないでしょ?」
「でも前はああじゃなかったから。能力を複数持ってる? ボクも聞きたい感じ」
「あんた達いつも一緒にいるじゃないの! 知らないの!?」
「知ってるはずなのに……わっかんないんだよ」
「……ああ、ひょっとして馬鹿にしてる?」
「いやいや! すごくまじめに言ってる」
べぇだは心の底からボクは無実だと訴えた。
ただ単に意味不明なだけなのだ。
山田は何度も自分の能力を使って自分達の目の前で戦っている。
もちろんその姿を隠すことなど一度もしたことなどない。
ひとたび彼が暴れれば一瞬で勝敗は決し、戦うたびにその能力は変化する。
中でも今回は極めつけに訳が分からなかった。
同胞も困惑していたが、言ってしまえば炎が燃え、なんか光っているだけである。
結局は対応可能と判断し、ふわりと浮かび上がり発光し始めた。
『こけおどしか?……冗談にかまっている暇はない』
「それはどうかな?」
答え終わるよりも速く光の体が崩れ、同胞は加速する。
瞬時に到達するトップスピードは光に匹敵する速さである。
本来なら人間の目では動いたと思った時にはすべて終わってしまっていることだろう。
同胞が動き出した瞬間は、べぇだにははっきり見えていた。
しかし山田の動きは―――その動き出しすら全く見えてはいなかった。
「……!」
その場でいくつもの閃光が瞬けば、すべての攻撃を防がれた同胞が驚愕して体を乱れさせる。
『なっ!』
「ふっ……止まって見えるぞ」
『ばかな……私をなぜ捉えられる!』
ぞわっと。
べぇだは体の奥底から寒気を感じた。
山田の光すら置き去りにする速さはもはや別次元のものだった。
べぇだはごくりとつばを飲み込む。
「うっすらと……危機感はあったけど、ありゃ反則だ」
そして山田の攻撃はべぇだ達に届くとハッキリした。
実際に数度の攻防で山田の纏う黒い炎は同胞の光の体を噛み千切り、飲み下していたからだ。
彼らしくない言動と恰好はともかく、その力は紛れもなく本物だった。




