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『ふむ。力が完全に衰えているわけではないのか。しかし弱点になる形態を増やすことにやはり意味はない』
べぇだが苦戦しているのを見て、リオンが走り寄ってくる。
危険なことだが、現状完全に勝利を確信した同胞はすぐに襲い掛かってくるつもりもないようだった。
「だ、大丈夫なの!」
「これは大丈夫じゃないっぽいね……リオンちゃんあいつと戦える?」
「え? 私そんなに戦うの得意じゃないんですけど!!」
「うーん……そっか」
「そっかって何!」
リオンをかばいながら戦うというのも難しい。
彼女はこの速さの戦闘に対応できないようだ。
あいつにとって隙をつくなんてことは簡単すぎる。できることならこちらにだけ注意を向けてほしい。
「さてどうするかな……」
『速度を保っているのほめてやる。だがその地球人をかばいながらでは速度すら死ぬぞ』
「おいおい。なら女の子を狙うなんてマネはやめてくれないかなー。同族なんだからせめて精いっぱい戦わせてほしいんだけど?」
『その発想が肉体を持つ者の限界だ。犠牲などという概念が退化を招く』
「そうかな? ここにきて思ったよ。肉体を捨てたくらいで自分が滅びないと思っているのは傲慢だってね」
そう。たとえ肉体を持っていなくても、べぇだは自分を滅ぼせる存在がいることを知っていた。
実際問題このままだと勝てないが、増援がやってくる時間稼ぎくらいはできるだろう。
ただ、べぇだ自身が無事に済むとはすでに思っていなかった。
エネルギーの総量も、速度も相手が上なのだ。
このままぶつかり合っていれば、いずれは相手に削りきられる。
最悪消滅の危機である。
べぇだはちらりとリオンを見た。
クラスメイトの魔女のお嬢さんがこんなふってわいたトラブルで命を散らすなどべぇだには断固として許せるものではなかった。
「まぁ。やるしかないね……!」
結論と覚悟はとうに決まっている。
べぇだは、今持っているエネルギーを全開に高め、全開で突撃した。
『やはり愚かだな。消去だ……』
再び光体同士がぶつかろうとしたその時―――待っていた増援はべぇだ達の間に割り込んできた。
それはまるで流星のように。
「待て……」
『な……!』
動揺したのは、同胞である。
割って入った人間は、二人の体を素手で受け止めていた。
べぇだは手詰まりだった状況を一変させかねない可能性に希望を見出し、彼の名前を呼んでいた。
「やま……だ君?」
最後は思わず疑問形だったが。
「待たせたね……」
自信に満ち溢れた声色だった。
べぇだは昨日の元気がいまいちなかったヘタレた山田と、現在の彼を同一人物と見ることができずに混した。
リオンですら絶句する。
今日の山田公平は、制服を着た地味目の印象の男子ではない。
彼は赤いマフラーをなびかせ、指ぬきグローブをぎゅっとはめなおす。
右目を隠した眼帯がそもそも異質だが、出ている左目の色すら赤く変わっていいたのだから何があったのか理解できない。
「えぇ……」
べぇだはそう呟くことしかできなかった。




