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周囲の建物の窓ガラスはすべて砕けるほどの衝撃だった。
そして衝撃の元となったと思われる光体に、べぇだは激しく動揺する。
「……あれは」
「え? ほんとに何?」
リオンは茫然としてそれを見る。
べぇだは光の正体をすぐに理解した。
光る人型は、かろうじてその形を保ったまま、こちらに語り掛けてきた。
『……驚いた。まさか同胞に会う機会があるとは』
頭に意思を直接伝える手段はべぇだにはなじみ深い。
しかし地球人にはそうではないようでリオンは頭が揺さぶられるような感覚に戸惑っていた。
「ウソ……まさか本当に宇宙人!?」
「……えぇボクのことなんだと思ってたのー?」
「……自称宇宙人みたいなもの?」
「うーん……ちゃんと宇宙人っぽいこともしてたと思うんだけどなぁ」
本気で言っていそうなリオンにべぇだも表情をひきつらせた。
べぇだはすぐにでも訂正したい気分になったが、今はそれどころではない。
宇宙からやってきたらしい同胞は光っているが赤い。
これは明らかに不機嫌な証明だ。
彼はべぇだを観察し気分を害したようだった。
『お前―――その無様な格好はなんだ?』
「へ?」
指摘されてどこかおかしいところがあったかなとべぇだは自分の体をペタペタ触る。
どうやら彼はこの体に対して怒っているようだ。
その気持ちはわからないわけではないが、同時に不可解でもあった。
「新しいアプローチだよ。君も壁にぶつかってこの星に来たんだろう?」
だからどこにもおかしなところはない。
べぇだは両手を開き、くるりと回ってみせる。
だが同胞はまた光を増して電波の悪いラジオのように乱れた声を発していた。
『……貴様の姿はあまりにも不格好だ。到底許容できるものではない』
「そうかな? 先に進むために、いったん元の場所に立ち戻ることが必要な時もある。ボクはそう思っている」
『肉の体は檻だ。檻につながれて前に進むもなにもない。その状態を脱するために我々は今の体を求めたのではないか』
べぇだはどう受けとればいいのか複雑な気分になった。
自分達は様々なしがらみから解放されているというのに、どうしてこうも不自由なことを言うのだろうか?
彼の発する光は力強さを増し、すでに敵意がにじみ出している。
エネルギー体は感情を表に出しやすい。
はたから見ればなんとも素直というかなんというか、わかりやすいことこの上なかった。
べぇだは会って早々の同胞に目を細めた。
「何の真似だ? この無限の宇宙で偶然出会ったのに。戦うつもりなのか?」
『貴様を消去する。再び肉の体を待とうなど我々に対する冒とくだ。そんな可能性をこの宇宙に残せるわけもない』
「……」
随分極端な思考の同胞に会ったものだとべぇだは冷や汗をかいた。
しかし出会いは宇宙を廻る運命だ。奇跡のような確率で出会ったすべての出会いは必然である。
そうなるべくしてなったのだから後悔しても仕方がない。
ならばこの出会いをどう終結させるのかは、やるだけやってみてから結果にゆだねるべきだろう。
べぇだの体は光の粒子に変化してゆく。
べぇだの背中を見ていたリオンは訳も分からず、うろたえた。
「な、なになになに!」
巻き込まれてしまったリオンは気の毒だった。
しかしこうなってしまった以上はべぇだは心から謝ることしかできない。
「ちょっとおかしなことになった……ゴメン!」
「いったいあいつ何! 仲間ならどうにかしなさい!」
「そうにかと言われても……もうどうにもならないかなぁ」
まぁ相手も簡単には引き下がってはくれそうにないのは一目瞭然。
とっさにリオンに害が及ばないように、体をそらす。
バチッ弾けた体は、向かってくる光体に接触すると激しくぶつかりあった。
「うわ!」
「きゃぁ!」
押し負けたのはべぇだの方である。
べぇだは気が付けば、校舎を一つ吹き飛ばして瓦礫の山の下にいた。
「うわったー。速いなぁ……速さには自信あったんだけど」
リオンはべぇだがとっさに張ったバリアーに包まれて、無傷のようである。
手加減なしの一撃に辟易しながら、べぇだが瓦礫を押しのけると、同胞はべぇだの頭上に浮かんでいた。
『当然だ……新たな進化に進むために私はより過酷な環境に身を置き続けた』
「それは進化とかじゃなくって単なるトレーニングだろ!」
『肉体の劣化という制限時間から解き放たれた我々なら、一代での進化も可能だ」
「ならなんでこの星に来たんだよ! 一人で思う存分過酷な環境につっこんでればいいだろ!」
少なくても彼も何か思うところがあってこの星を訪れているはずだ。でなければこうして顔を合わせることもなかった。
『単なる気まぐれだ。この場所は可能性がある』
だがそのあたり気が付いてないのか、あまりの思考停止ぶりに、べぇだもなんだか腹が立ってきた。
「じゃあ……ボクのやり方に口出さないでほしいんだけど?」
『再び肉の肉体を手に入れた同種など見逃せるわけもない。見逃してほしいのならせめて可能性を示して見せろ』
「いきなり来て言うことか!」
二人の宇宙人は同時に、動いた。
完全なエネルギー体の同胞に、べぇだは何とか追いすがる。
戦闘法はただの体当たりだが、それこそが同族同士での唯一の戦い方でもあった。
ぶつかり。弾かれ。またぶつかる。
一秒に数十は繰り返される攻防は、小爆発となって空を駆ける。
ひときわ大きな光がさく裂し、べぇだは地面に墜落した。
「かぁ~~~本気で痛い!」
エネルギーが削り取られ、体が引き裂かれるようだ。
だがこれだけぶつかり合えばいやでもわかることがある。
べぇだは苦々しく歯噛みして同胞を睨みつけた。
「つっ……! やばいあいつボクより速い」




