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「え? 付き合う? そんな……大胆だな」


「実験に・付き合う。次同じボケをかましたら慰謝料を二倍にするわよ?」


「……うぅ。生々しい報復だなぁ。それで、何をすればいいの?」


 すぐお金の話をするのは結構しんどいと思う。


 べぇだがすぐにそう言うとリオンは一瞬意外そうな表情になった。


「あら? 魔女の提案にずいぶん簡単に頷くのね。私が魔女だって忘れてる?」


 リオンは妙なことに驚いていたが、べぇだにしてみればそんなことは愚問と言うしかなかった。


「君こそ僕が宇宙人だって忘れてない? かわいい女の子からの頼みなら、宇宙人断らない」


「……そう。いいわ」


 冷ややかな、或いは面倒くさそうに視線を向けるリオンは大きな帽子を脱ぐと中からコップを取り出して、べぇだの前に差し出した。


「じゃあ、あなたの持ってる瓶の中身をこの中に少し入れてくれる?」


「そういえば、これってなんなの? ジュース?」


 指示されてべぇだは瓶の存在を思い出していた。


 そういえばいかにも怪しい色の液体が何なのか今更ながらに気になって聞いてみると、リオンは一瞬視線をそらしたが、小声で答えた。


「いいえ。……惚れ薬よ」


 べぇだは動揺でピクリと指先を震わせる。


 何とか持っていた瓶を取り落とさずには済んだが、べぇだは慌てて瓶をしっかりと持ち直して、まじまじと中の怪しい液体に見入ってしまった。


「…………え? ほ! 本当に! 惚れ薬? え? 嘘じゃなく? 嘘じゃなかったら試しに飲んでみて?」


「いやよ! これを飲むのは君!」


「…………え? ハハハ大胆だな。でもそんなものを飲まなくったって、ボクは君の虜さ!さぁボクの胸に飛び込んでおいで!」


「ファイアボール……」


 べぇだの大胆なアプローチへの返礼は、灼熱の一撃だった。


 燃え上がった炎はべぇだの顔を直撃する。


「あっつい! 気がする!」


 べぇだの体はチリジリになるが、すぐに光が集まってすぐの元の姿に修復された。


 リオンは特に反応もなく続きを話し始めた。


「そんなわけないでしょ、この人外。一口だけ試してみなさい。それで今回の狼藉は大目にみるって言っているの」


「ふむ……」


 べぇだは言葉の意味を考える。


 しかしその答えはどんな理由があっても一つだった。


「それって要するにボクに惚れろってことでしょ?」


「少量ならせいぜい効果があって数分。本命に使う前に実験しておきたいの」


 そっけなくそう説明したリオンだったが、べぇだは眉をひそめた。


「え? これ本命に使っちゃうの? それはどうだろう? 薬に頼るなんてボクもどうかと思うよ? リオンちゃんかわゆいんだから素で行けばいいのに」


 べぇだにはもちろんリオンの本命に心当たりがある。


 もしかしなくても相手は「大和 学」で間違いないだろう。


 さすがにどうかと思ったべぇだだが、リオンにも自覚はあるようで一瞬でさっと顔色が変わった。


「わかってるけど恋は戦争なの! 今の膠着状態を一気に破壊して青春を最高に謳歌するための決定的な一撃になる最終兵器なんだから!」


「あーそのかんじすごくわかるー」


 だがその言いようがべぇだにも事の重大さを確信させた。


「それにしても最終兵器か……やっぱりこれ、本物? 惚れ薬……え? 本物!」


 動揺して体を震わせるべぇだである。


 リオンはそんな反応を見て、忌々しそうな顔をしながらも軽く頷いた。


「そうよ……魔女が作った本物の惚れ薬」


「……エッチなのは感心しないよ?」


 べぇだは小声になりながら、リオンに質問する。


 そりゃそうだろう。


 薬なんてそんなもの、色恋に持ち出せばろくなことにはならないとべぇだも何となく感じた。


 ただこの反応にはリオンの方が驚いていた。


「……なんだか以外な反応ね」


「どういう意味なんだろう? ボクは清い交際にひとかどの理想を想い描いているよ?」


 そこだいじなところである。


 現実がいかに綺麗ごとだけではないと言ったところで、夢も理想もないことに何の面白みがあるというのか。


 べぇだの持論を聞いたリオンは少しだけ乗り気になって得意げに頷いていた。


「そこが、この魔法薬のすごいところなの。理性はむしろいつも通りのはず。でも私が気になって仕方がなくなる。思惑通りにいけば、少女漫画並みの甘酸っぱい恋心が芽生える算段よ」


「甘酸っぱい……恋心」


 べぇだは震えた。


 なんということだろう。リオンの言うことを信じるならば、甘酸っぱい青春の惚れ薬は、健全な15禁仕様のようである。


 魔女とか惚れ薬というアンモラルな響きに対して、なんともピュアな仕様にべぇだは拳を握り締めた。


「す、すごい! 天才的だ! やっぱりモラルは低いけど!」


「うるさいわね! でも……まだ一回も試していないのよね」


「それをボクに……」


「そういうこと。大丈夫、私の魔法の腕は魔女随一だから」


 胸を張るリオンは自信満々だった。


 べぇだにしてみれば、何の根拠だかよくわからない話ではあった。


 だがそれでもためらうことなくべぇだは頷いていた。


「……まっかせて!」


「いい返事。ちょっと君のこと好きになったかも」


 そう、べぇだにためらいはなかった。


 これでも毒には耐性がある。


 匂いを嗅ぐと甘酸っぱく不快感があるわけではない。当然効果が気になるのか、リオンもこちらを凝視していた。


 なに! 何にも起こらなくったって、こののぞき込まれている一瞬にすら価値はある!


 とりあえず瓶から一滴薬を手の甲に落としひとなめ。


 べぇだはそれを飲みこんで、カッと目を見開いた。


「どう?」


「……うっ……ぐぐぐ……」


「なに? どうしたの?」


 そして心配そうなリオンの声を聴いた瞬間、べぇだはガバリと顔を上げて、リオンにダイブした。


「……リオンチュワーーーン!」


「……アイスウォール」


 カッキンとべぇだの熱い抱擁は、分厚い氷の壁に阻まれた。


「ぶちゅー……ちべたい!」


 温かみのかけらもない極寒に震える。


 ずるずると氷壁を舐めダウンするべぇだに、リオンはため息を一つこぼす。


「反応がいつもとおんなじだから、いまいちわからない。今みたいな反応だと失敗ってことね……とりあえず爆散しないのが分かっただけでも成果かな?」


「えー……いつもはもっと慎み深くない? ボク」


「あんたが慎み深いなら全世界の人間が聖人だわよ。それよりなんか変化はない?」


 リオンはすでに失敗を前提にして検証に移っているようだった。


 爆散する危険があったかどうかはとても気になるところだが、よく考えたら毎日爆散していたので気にしないことにする。


 そこはかとなく悲しいが、べぇだは素直に答えた。


「んー。とくにない。って言っても僕は毎日恋してるからなぁ」


「そもそも君って人間なの? それとも全く別の生き物なの?」


「エーボクに興味ある? 気になっちゃう?」


「……いえ、考えてみたら、別の生き物なら薬の実験にならないかなって」


「うわー飲み損。うーんそうだねー全くおんなじではないかなぁ」


 残念ながらそう答えざるを得ない。


 べぇだは地球人の特性を残してはいるものの、宇宙を漂っていた前の特性も強く残している。


 そしてその答えは、リオンを落胆させるものだった。


「……そう……まぁ一応薬も試してくれたし、じゃあさっきのことはチャラにしたげる」


 リオンは疲労がなお増したのか重そうに体を持ち上げ薬を渡せと手を伸ばしてきた。


「……うん」


 べぇだはしかしこの期に及んで、もう少し引きとめていられないものかと頭をひねっていた。


 しかし残念だが、べぇだにはこれ以上引き留めておく材料はない。


 一定の成果はあったのか?


 あんまりなかった気がするとべぇだは空を仰ぐ。


 そんな時きらりと空が輝いたのに気が付き、べぇだは表情を強張らせた。


 光は大きくなって、まっすぐこっちに向かって落ちてきたからだ。


 気が付いたらとっさに体が動いていた。


「リオンちゃんあぶない!」


「きゃ! サンダーボルト!」


「あびば!」


 慌ててリオンを押し倒したべぇだは、強力な雷撃を食らっていた。


「しびれた気がする! ひどくない!」


「今日という今日は許せないわ! 不意打ちなんて!」


「違う違う! ほらほら! あれから身を挺して君を守ったんだってば!」


「なに!」


 些細な誤解はあったようだが、必死にそう言うと、今の衝突と爆発で出来たクレーターに気が付いてくれたらしい。


 そしてクレーターから姿を現したものを目にして、べぇだは息を呑んだ。


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