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「今日は調子が悪いみたい……ホルスト君ありがとうね。部屋に帰ってさっそく見てみるよ」


「うむ。存分にな!」


 そう言って大量のダンボール箱を軽々と持ち上げ駄菓子屋を後にする山田 公平を見送り、べぇだはサイリウムみたいな色をした緑のジュースをじゅじゅっと吸い上げる。


「んぐ……なんだろうな。あの後姿からは力をもてあましているようにしか見えない」


「言ってやるな。調子悪いのは本当なんだろう?」


「そうですよ」


 フォローするのは時坂とシーラである。


 ホルストはすでにマリーベルと例の効果があるんだかないんだかわからない訓練を再開しているから、必然的に受け答えをするのは残ったこの二人となっていた。


 べぇだはそんな荒っぽい話し方をするが、かなりキメ細やかなフォローに余念が無いクラスメイトの顔を見てふと思った。


「……ふーん」


「なんだよ?」


「いやね……そのマメさが八方塞りの現状に穴を開けたのかなーなんて?」


「はぁ?」


 今現べぇだとゆかいな男達の周囲では、女子が全員宿敵 大和 学に惚れているという絶望的状況である。


 そんな常に乱戦みたいな状況から女友達を得た手腕は、ライバルながら尊敬に値した。


 だが褒めているというのに時坂は慌てだした。


「まてまてまて。何の話を始めたんだ?」


「そりゃあ早乙女さんのことですとも。仲いいじゃない? うらやましいじゃない? 疑惑は深まるわけじゃない?」


「……そうなんですか? そこのところ詳しくお願いします」


 シーラの目がきらりと輝くあたり彼女も乙女であった。


 しかしここで残念なお知らせをしなければならず、べぇだは頭を振った。


「あくまでこれは疑惑の域を出てないんだけどね?」


「そうなんですの? それはがっかりです」


「おいお前ら、おい」


 べぇだはしかしこの時坂というクラスメイトが、最近早乙女さんという女子生徒と急接近していることにそれなりの信憑性も感じていた。


 ショートカットでスポーティな印象の早乙女かりんさんは、超人的な身体能力をもつ改造人間である。


 そして重要なところは彼女も間違いなく美少女であるということだった。


 しかし、時坂は手を振りまじめな顔で否定する。


「いやいやいや。お前らが疑っているようなことは無いからな? あいつは……そう、ただの友達だ」


「ほう……友達だそうですよ? シーラさん」


「なるほど……確かにこれは」


「だからおい。なんだその即席の息の合いっぷりは? だから本当に……そんなんじゃねぇんだって」


 時坂はげんなりして何言ってんだとでも言いたそうな顔だが、今の話を聞いてそれはない。


 ただの友達などと定番なことを言う男の言葉の何を信じられるだろう?


 べぇだは渋い表情を浮かべて、残念ながら首を横に振る他に反応のしようが無かった。


「そーのーまーがーきになるんですけどー」


「ええとても気になります」


 べぇだとシーラという特殊な組み合わせのせいか、時坂は怒りよりも戸惑い気味だった。


「……そんなこと言われても事実だからなぁ」


「やらしいことを考えてる男子はみんなそう言うんだ。ボクは知ってるんだ。ホラ恥ずかしいことなんて何もない。ボク達は親友だろ?」


「やかましいわ。自分の言動を顧みやがれ、友達かどうかも怪しいわ」


「何それひどい! ボクだけだったの? 親友だと思っていたのは?」


「さらにやかましい。毛筋ほどでもそう思っているんなら、そのエロ目を今すぐやめろ」


「えーエロ目じゃないしー。もうトキトキはホント余裕ないよねー」


「余裕ないのはお前だ! がつがつしすぎだ!」


「あ、それは私もそう思います」


 だがシーラのまさかの裏切りでべぇだはふんにゃりと脱力してしまった。


「えー」


 だがそろそろ潮時である。


 血管を額に浮き出させて叫び出した時坂はそろそろ怒りのリミットが近い。


 怒らせると本気でシャレにならないレベルで激闘になるのでこれ以上は自重した。


 ただ、べぇだとしては疑問はある。


「うーん。何でそんなに怒るかなぁ。喜ぶところなんじゃないの?」


 こちらは本気ですごいと感心して、その秘密をできれば教えてほしいくらいなのだ。


 一体何を怒ることがあるというのか? べぇだにしてみればそこのところがわからなかった。


 首をかしげるべぇだが本気で疑問に思っているのが伝わったのか時坂の表情はあきれたものに変わっていた。


「あのなぁ。お前宇宙人なら本当になんで地球に来たんだ? まさか本気で彼女作りに来たわけじゃないんだろう?」


「ずいぶん根本的な質問だなぁ……」


 それにこんな調子では、どう答えたところで信じないだろうに。


 べぇだにしてみれば別に隠しているわけでもない。しかしそれを素直に話したところで、時坂には別段意味がないとは思う。


「ああでもそれ、私も気になります。宇宙人? なんですわよね?」


 なんて手を挙げてから尋ねてくるのがシーラだったから、いい顔でべぇだは言った。


「地球を侵略しに」


「「!?」」


「うそだよー」


 だが冗談を言ったせいで駄菓子屋の中が騒然としてしまった。


 時坂とシーラはもとより、ホルストとマリーベルさえ驚いているのだから案の定だ。


 地球人の宇宙人の対するイメージなんてだいたいこんな感じである。


「ほらー。それっぽいこと言うと、みんな引いちゃうでしょ? 君らは宇宙人に偏見持ちすぎなんだって」


「まぁそうだが。嘘か……お前が言うと笑えんぞ」


 ホルストはよっぽど今の話題に興味があったのか、愉快そうに笑いながらこちらの話題に参加してきた。


 ホルストはともかく、マリーベルも興味津々な様子でこちらを見ているので、べぇだは素直に謝った。


「ごめんごめん。トキトキがあんまり嫌がるから、ついいたずらをね。侵略なんて考えてないよ。っていうか、彼女が欲しいの方がホントに近いかも? 今この星は大進化期だからねー。他の宇宙人もそうなんじゃないのかな?」


 当然この星にいるなら知っているだろうと思っていたべぇだだったが、集まった視線は困惑マジリだった。


「大進化期? なんだそれ?」


 時坂も首をかしげていたので、ひょっとするとみんな気が付いてないんじゃないかとべぇだは驚いた。


 こんなにもわかりやすく異変が現れることもないだろうに、不思議である。


「あれ? この星にいるのに知らないの? 今この星ってものすごく活性化してて、星の上に住んでる生き物がすごい勢いで進化する時期なんだよ」


「そうなのか?」


 胡散臭そうにしている時坂にべぇだは頷いた。


「うん。他の星でもたまにあるんだ。変な言い方だけど宝くじみたいなものだよね。その星に住んでるだけでいろんな生き物の可能性がガンガン引き出されるんだよ。ほら、ボクらの種族はある意味進化が極まっちゃってるからさ。新たな進化の可能性ってやつに引かれるんだよね」


 べぇだは元々エネルギー生命体である。


 肉体を捨て、広い宇宙を自由に飛び回る力を得たが、べぇだ達の進化はそこで行き止まりだった。


 宇宙の過酷な状況もこの体には過酷ではなく。仲間と出会うことすらない。


 いくら優れていても、個ではこれ以上を望めないのだと悟ったべぇだは、地球を見つけ地球の生命体と融合した。


 それはべぇだの種族に限った話ではなく、これから様々な目的で宇宙中からいろんなものが集まってくることは間違いなかった。


「な、なんか壮大なんだな」


 ごくりと喉を鳴らす時坂にべぇだは重々しく頷く。


 そして最終目標を改めて口にした。


「だから……ボクは地球でお嫁さんを探すわけだよ!」


「……なんか途端に下世話な話になった気がする」


「何言ってるんだい! 子孫繁栄とてもだいじなことよ! そもそも進化なんて一代でするもんじゃないってのが、君らの常識でしょうに!」


 ここばかりは譲れないと声を上げるべぇだだったが、ホルストと時坂は顔を見合わせ続いてべぇだを見る。


 何か言おうとしたが、言葉は止めていた。


「?なにさ?」


 それを察してべぇだが首をかしげると、今度はホルストが何かひらめいたらしく、マリーベルを手招きする。


「……いい機会だ。今思っていることを言ってやれ」


 そう言われて初めてべぇだは固まった。


 いつもの調子で話してしまったが、今日は女子がいたんだった。


 しまったと思ったべぇだだったがもう遅い。


 シーラさんの表情は完全に引き気味である。


 マリーベルは特訓の成果か、あっさりとこの提案に頷き、べぇだを指さして言った。


「……下心丸出しは気持ち悪い。ちょっと引く」


「うわあああん! 地球人がいじめるぅ!」


 べぇだは会心の一撃に泣いて逃げ出すしかなかった。




 ところがちょうど店を飛び出したその時―――。


「びええ……ん?」


「きゃ!」


 悲鳴を聞いて、べぇだはそこで尻もちをついた金髪碧眼の美少女を発見した。


 美少女はいついかなる時にも優先される。


 こいつは泣いてる場合じゃねぇ。


「いたたたた……」


「ん?」


 そして上から帽子とガラス瓶が降ってきて、べぇだはそれをキャッチする。


「あ! ちょっと!! 返しなさい!」


「リオンちゃん?」


 べぇだは大慌てで詰め寄ってきたリオンとガラス瓶を何度も見比べてにっこりと満面の笑みを浮かべた。


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