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 僕、山田 公平はいつもの駄菓子に来て隅に座っていた。


 するとこの駄菓子屋は案外有効に使われていて、どんどん人がやってくる。


 最終的に集まった人数は、男子が僕も含めて4人、そして驚くべきことに女子が2人だ。


 中でも本日目を引いているのは駄菓子屋の座敷で向かい合って座っている男女だった。


 一人はホルスト君。そしてもう一人はマリーベルさん。


 ホルスト君はニヤニヤしながらクラスメイトの小柄な女の子、マリーベルさんを見ている。


 マリーベルさんは表情を強張らせて、緑色の瞳をホルスト君に向けていた。


 二人は一応師弟関係であるとは聞いていたが、残念ながら今彼らが何をしているのかまでは僕にはわからない。


 マリーベルさんは正座したままカッと瞳を見開き、厳しい口調で言い放った。


「ホルスト君……貴方のお菓子をください。わたしはお腹が空きました!」


 するとホルスト君は先ほど駄菓子屋で大量購入したお菓子の山から彼女が好きそうなものを見繕って差し出した。


「うむ。受け取るがいい。まぁ悪くは無いが。もう少しふてぶてしくてもいいだろうな」


「……わかった」


「では続けよう。何か私に言いたいことがあれば言ってみるがいい。何なら求婚でもかまわんが?」


「思っていること……。貴方には感謝している。けれど好きな人がいるのでその手の話は本気でも冗談でも反応しづらいのでやめてほしい」


「うむ、実に正直だ。しかしそれは思っていることをそのまましゃべっているだけだ。単純に突き放したいなら。突き放す発言でもよいだろう。ちなみに今の私には優しく接するのもありだぞ?」


「ん……わたしのお菓子をあげる」


 時坂君はそんな二人のやり取りを見て困惑を隠そうともせず表情に出し、呟いた。


「……何やってんだお前等? 新手のプレイか?」


 身も蓋もない言い方である。


 さすがに聞きとがめたホルスト君が炎を飛ばすが、小さな炎は時坂君の目の前で掻き消えていた。


 それも織り込み済みだったのだろう、ホルスト君はたいして気にもせずに説明し始めた。


「俗っぽい言い方をするんじゃない。これは自己中心的に振舞う練習だ」


「じこちゅうしんてきにふるまうれんしゅう……」


 説明を聞いた後、復唱した時坂君はしばし考えていたが、まるで理解できなかったようである。


「……お前こそ何馬鹿なこと言ってんだ。なんだ自己中心的に振舞う練習って?」


「そのままの意味だが? 平たく言えば能力制御の練習だ。自分がどうしたいか知ることが重要だからな。とはいえ急にわかるはずもないから実際口に出して言葉にしてみているというわけだ。言葉にするという行為は案外思考をまとめなければ難しい」


「……なるほど」


 ホルスト君の言うことに熱心にメモを取り、相槌を打っていたのはシーラさん。


 この駄菓子屋にやってきた二人目の女の子だ。


 彼女は南の国からやってきたシャーマンで幽霊などを操ることができる能力者である。


「何やってんだあんた?」


 やたら熱心な彼女に時坂君が尋ねると、シーラさんは照れたように自分の頭をかいていた。


「いえ……シャーマンの能力と、お二人の能力が近い気がいたしまして。特訓ということなので何か得るものがあるんじゃないかなーと」


「……あったのか?」


「ええ! やはり感情の制御は難しいですから。やる意味はあると思います!」


 胸を張って断言したシーラさんは能力を暴走させた経験があるせいか、相当に気合が入っていた。


 そしてそう言われてしまうと時坂君も頷くしかない。


「あぁ。……まぁそういうこともあるのか」


 実際に効果があるのかどうかは彼らにしかわからないが、ホルスト君とマリーベルさんの能力は星から力を借り受けるというものだと僕は知っている。


 その能力は純粋な感情に依存していて、嘘が一切通用しない。


 しかし人間は社会的な生き物だ、周囲に合わせようと普段意識もせずに行っている振る舞いがストレスとなり、暴走のきっかけとなることも少なくない。


 普通の人間なら癇癪で済むが、この二人の場合はそれだけでは済まないだろう。


 ホルスト君ならば太陽のエネルギーが敵意むき出しで暴走し、マリーベルさんなら地球上のあらゆる自然が彼女を守るために牙をむく。


 そうならないために何より自分の感情の機微に敏感にならなければならないというのは理にかなっていた。


 時坂はげんなりと肩を落とした。


「まぁ、釈然としないが納得はした。それで思ったことを口に出させてるのか。なんというか……すげぇなその特訓」


「うむ。すごかろう。我が経験から考案したトレーニングだ。お前もやってみるか?」


「絶対ヤダ。どうだべぇだ? お前もなんか言ってやれよ」


 時坂君はべぇだ君に話を振る。


 思いのほか真剣すぎる表情をしていたべぇだ君は宇宙人である。


 しかし比較的地球人としての時間も長いらしいので、時坂君は一般論を期待したんだろう。


 べぇだ君は無言でホルスト君とマリーベルさんを眺めていたが、尋ねられた瞬間クワッとすさまじい気迫で言った。


「そうだね……女子と楽し気にお話ししてて、純粋にうらやましい!」


「……平常運転で何よりだ。お前もうちょっと慎重に考えてコメント出せよ。馬鹿っぽく見えるぞ?」


「え? 女の子が赤裸々に本音をぶちまけて罵倒してくれるんでしょう? ご褒美なのでは?」


 そう言ってシーラのそばにスッ身を寄せ、彼女の褐色の肌をすりすりと触る。


「……」


 とたん、どこからともなく現れた鬼の腕によってべぇだ君は粉々にされてしまった。


 すぐに再生したべぇだ君を時坂君は冷たく見下ろすと、タンパクに尋ねた。


「いいご褒美だったか?」


「び、微妙なところだね……でも悪くない」


「ほっほう。なるほどな。よし、お前今後五メートル圏内に入ったら細切れにするから」


「何それひどい!」


 ああ、時坂君もべぇだ君も仲が良さそうで何よりである。


 彼ら二人を眺めて、ホルスト君はやれやれと肩をすくめて、続いて僕を見た。


「……まぁこっちのことはよい。それよりアレはなんだ?」


 はてアレとは?


 僕にはわからなかった。


 だが時坂君とべぇだ君もまたこっちにためらいがちに視線を向けて来た。


「ああ。アレな? ……よくわからん」


「ボクも知らない」


「呆けている? 落ち込んでいるのとも少し違うようだが?」


「さっきからずっと心ここに非ずって感じだよ」


「ほう。それは珍しい」


 全員の視線が僕に集まっているところを見ると、どうやらアレとは僕のことを指していたらしい。


 そうか、僕の心はここに無いのか。


 確かに身体を動かすのもなんか億劫だけれども、ちゃんと話は聞いている。


 いつもと違うことといえば机に突っ伏して、ため息が止まらないことくらいだけど?


「はぁ……僕はいつも通りだよ?」


「「「いや、そうは見えない」」」


「……」


 手を上げて主張してみるが、どうやらあまり意味がないようだ。


 僕はちょっと悩む。


 そしてせっかく友達がいるのだからと思い直し、悩みらしきものを告白することにした。


「間が悪いと言われたんだけど……どうしたらいいだろう?」


「「「あー……まぁそうだな」」」


 ところがどっこい三人同時の反応にそれはもう傷ついた。


 相談したのは間違いだったようだ。


「……」


 ふてくされてゴロンと横を向くと、そこに女の子の顔があった。


 ビクッとした僕を近づいてきたマリーベルさんの緑の瞳が覗きこむ。


「……悩んでる?」


「いや、そんな事もないと思うんだけど」


「……落ち込んでる?」


「あー……うん。そうなのかも?」


「……よくわからない?」


「……僕もよくわからない」


「なんだその会話」


 時坂君の指摘に二人して首をかしげる。僕もよくわからない。


 そんな状況で、べぇだ君はほうほうと呟き、目を輝かせて僕の症状を断言した。


「ははん。なるほど……アレは恋だね。間違いない!」


「「あー……はいはい」」


 だが断言したものの、周囲の反応というか、ホルスト君と時坂君の反応は適当だった。


「なにその反応!」


 べぇだ君は頬を膨らませて怒っていたが、二人の反応は変わらない。


「いやもう……またかとしかな?」


「そうだぞ。下世話な話ばかりで盛り上がれるほど低俗ではないつもりだが?」


「いやいや。今度こそ! 今度こそ! そういう浮いた話だよ! そうじゃないとさびしいだろ? ボクとしては、胸がキュンキュンする浮いた話をもっとしたいよ!」


 なんとも彼らしい主張ではあった。


 しかし渋面を作った時坂君は自分でも言いたくはないのか若干のためらいを見せて、諦めまじりに口を開いた。


「いつも見せつけられてるだろう? そういう話は胸焼けするほど」


「あれはなんか違う! 僕が言いたいのはそう言うことじゃない!」


「……いや、たとえ恋だとしてもだ。実際問題、オレらじゃ建設的なアドバイスとか絶対無理だろ?」


「悲しいことを言わないで! 出来る! ボクらならきっと出来るさ!」


 べぇだ君は割と必死だった。


 なんだか中心にいるようでもちょっと蚊帳の外で悲しい。


 まぁ少しばかり話はそれてしまっていたが、これだけ口々に指摘されているということは、今の僕が変なのは間違いないようである。


「……なんだろう。なんでもないはずなんだけど。どちらかといえば落ち込んでいる気はする」


 それを聞いた三人はハッとして、僕から距離をとって円陣を組む。


「これは……まずいんじゃないか?」


「というと?」


「いや原因はこの際おいておくとして、元々ビックリ箱みたいな奴だ。そんで、大概人間って奴は気分が落ち込んでいる時に馬鹿なことをやらかす」


「ありがち! そういうのありがちだよ!」


 しかしひそひそ話というには少々声が大きすぎる。


「貴方達……バッチリ聞こえているけど大丈夫なんですか?」


「……かわいそう」


 聞きとがめたのはシーラさんとマリーベルさんだった。僕も彼女達の言う通りだと思う。


「ああ大丈夫だ。いつもこんな感じだ」


「まぁそうだな」


「軽く流しておいて」


「……そう」


「それはそれで問題があるような?」


 三人に言われればシーラさんもマリーベルさんも引き下がらずをえない。


 困った顔で彼女達は僕を見るが、僕にできることと言えば優しく微笑むくらいだった。


 いやまぁ言いたい事はわかるけど。心がちくちくするのでやめられるものならやめてほしいけれども。


「よしわかった……ここは一つ私が一肌脱ごうじゃないか」


 そう言って僕の前に進み出たホルスト君は心なしか悪い顔をしていた。


 いやな予感しかしない。


 自信満々のホルスト君の態度に、時坂君とべぇだ君はざわめいた。


「おいおいマジか?……全然役に立ちそうにもねぇな」


「うん……何かをやらかす気しかしない」


「シャラップ! 黙れ下々の者ども! ようはどういう精神状態だろうが気がまぎれればいいのだろうが! 山田よ! そういうことなら貴様には我がコレクションの一部を提供しようではないか!」


「え?」


 何が何だかわからないでいる僕の肩をホルスト君はポンと掴む。


 ホルスト君はの力は妙に強い。


「こいつはいいものだ……気がまぎれるどころか、人生をより豊かにしてくれることだろう」


 ホルスト君が電話をかけ、ほんの数十秒後に駄菓子屋の前に車の止まる音がする。


 そして現れた黒服の方々は、大量のダンボールを置いて素早く退場していった。


「……誰だあいつら?」


「……ずっと待機したのかな? え? どこに?」


「すごいですわね」


「素早い……」


 撤収する黒服集団を僕らは見送るが、段ボールをたたくホルスト君に視線が集まった。


「細かいことは気にするな! コレは我が至高のコレクション! ホルストお勧めの漫画・アニメ詰め合わせセットだ! 存分に気を紛らわせるがよかろう!」


「……お前そういう趣味あったのな」


「コレが噂に聞く布教って奴だね!」


 なんて力のこもった気遣いだろう? そういうことなら、ぜひとも受けとらせてもらおう。


「う、うん。ありがとう……」


「うむ! 存分に楽しんで嫌なことなど忘れてしまえ! 一押しは上の方に入れてあるからな!」


「うん……」


 返事はしたものの、正直なところ嫌なことがあったかと言われたらそんな事はない。


 ただ今まで感じたことのない不思議な感情というのが一番だったのかもしれない。


 ふと僕はべぇだ君に視線を移す。


「……恋か」


 僕は誰にも聞かれないように、ポツリと呟いた。


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