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「♪~」


「……!」


なんとなく僕、山田公平が図書室で本を読んでいると、とても珍しい光景を目撃してしまった。


足取りの軽い彼女は白い白衣姿で鼻歌を歌い、図書室にやってきた。


彼女の名前は薊 マイさん。


頭がよく、いつもクールな印象の彼女が、上機嫌で浮かれているのはとても珍しい。


そしてその姿に思っていた以上に衝撃を受けている僕自身に何より驚いた。


とはいえだ、それをじっくり眺めるなんてマナー違反ではないのか?


そう思った僕がいつも以上に熟読に勤めるのは「間の悪い人に贈る適切な間の取り方」である。


目線をそらすがなぜか気になる。


チラ。


もう一度だけ見てみると……バッチリ目が合ってしまった。


「……」


目を本に戻す。


ひょっとして気がついていないかな? と期待を持ったが、彼女の鼻歌は完全に止まっていた。


再び顔を上げるとそこには薊さんがいてドッキリである。


「これは……みっともないところを見せてしまったかな?」


「いえ! そんな事はないですヨ? ……なにかあったの?」


見つかってしまったのなら仕方が無い。


僕はほへっと息を吐き、緊張した体から力を抜いて質問した。


すると薊さんは、僕の顔を見て若干迷い気味に口を開いた。


「いや、そうだな……面白いことがあったかな?」


「面白いこと?」


「ああ、今朝のことさ。宇宙から高エネルギー体が飛来したらしい」


僕の頭の中にポンと浮かんだのはタコのような姿の生命体、もしくは自分のクラスにいる金髪の美形だった。


「へぇー……それって宇宙人ってこと?」


「今時珍しくは無いかな? クラスメイトにもいるからね」


「そ、そんなこと無いよ?」


薊さんの言う通り、僕のクラスには宇宙人がいる。


もちろん彼の言うことがすべて本当かどうかはわからない。ただ、体がピカピカ光ってすごく速く動くことができる地球人は多くない。


僕はとりあえず自称宇宙人のべぇだ君を思い出すことにして、頷いた。


「うん、宇宙人には会ったけどわかんないことばっかりだよ。宇宙にも行ってみたいって思うし……」


田舎にいたころはそんなことを考えたこともなかったが、今なら間違いなく興味があると言える。


宇宙からべぇだ君が来たのだというのなら行ってみたい。


僕が答えると薊さんは思ったよりもにんまり笑って、いつもより弾んだ声で詰め寄ってきた。


「だろう? 宇宙はいいよ。ロマンがある」


「う、うん」


「人間が地球だけに留まっているのはもったいない。私達科学者も、出来ることなら人類が前に進むための手助けをしたいところだね」


ちょっと顔が近すぎるんじゃないだろうか? なんて思っても口に出せるわけもない。


雄弁に語る薊さんは、ずいぶん熱が入っていた。


僕はなんだか圧倒されて、ろくな言葉が出てこなかった。


「す、すごいなぁ……薊さんは」


ただドギマギと答える。


曖昧な答えで不安に思っていたが、どういうわけか薊さんはきょとんとして僕を見ていた。


「そう? すごいというなら私は君達の方がすごいと思うけれどね」


「すごい? 僕が?」


「そうだよ。本当に……君の力をうらやましがる人間は多いと思う」


薊さんはそう言うが考えても僕はいまいちピンとこなかった。


「うらやましいなんて初めて言われた気がするけど」


今までを思い返せば怪獣が現れれば殴り倒し、怪人が現れれば殴り倒し、悪霊が現れれば殴り倒し……僕の能力の使い方なんて敵を倒すことしかない。


必要ではあると思う。けれど危険なことがあれば矢面に立たなければならないと思うと他の誰かがやるには気の毒だ。


 それを聞いた薊さんは僕から少し距離をとって、僕は緊張から解放された。


「……まぁ持たざる者の僻みって物だね。忘れてくれていいよ」


「いや、でも僕は薊さんみたいに頭がいい人に憧れるけどな、なんというか……ホントに何でも教えてくれそうで頼りになる感じがする」


 それは純粋な感想だった。


 薊さんの言葉は説得力がある。それは何も知らない自分にとって一言一句が素晴らしいアドバイスだし、尊敬できる。


 僕は心からそう言ったつもりだったが、薊さんにはいまいち伝わっていない感じがした。


 それは明確な理由があったわけではなかったが少しだけ距離を感じたのだ。


「何でも教えられるわけではないけれどね。だけど私は何でも知りたいとは思っている。もちろん君のことも」


「そ、そうなの?」


 じっとひとみを覗きこまれると、ドギマギする。


 薊さんはクスリと笑う。


「君のこともコレからじっくり研究させてもらうよ。これからもよろしく」


「う、うん……」


 怪しい笑みの薊さんに喉を鳴らし、僕は黙り込む。


 いつの間にか僕は椅子の背もたれに体重をかけていた。


「じゃ。私はこれから用事があるから」


「…………」


 僕は手を振り、白衣を翻す薊さんからなぜか目が放せない。


 そんな時だ、薊さんは軽く振り返りこんなことを言った。


「まぁ君が間の悪い原因までは知ろうとは思わないけれどね」


「……!」


 僕は自分が読んでいた本のタイトルを思い出す。


 がちょんと僕は脂汗を掻き、今度は茫然自失で薊さんの後姿を見送ったのだった。


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