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「え?何で攻撃したの? 場合によっては僕も怒るよ? 敵認定だよ?」


「いや、つい」


「つい? 今の攻撃はさすがについじゃすまなくない!?」


「安心しろ。この手の手加減は得意な方だ」


「いやいやいや」


 僕も手加減はあまり得意なほうじゃないけれど、ラッキースケベに爆撃なんてしたら、大和君の周囲は常に荒野である。


 ここは一つ何か言うべきだと僕は思ったが、絶妙なタイミングで肩を叩かれて、僕の苦言は止められた。


「まぁいい。ところで山田よ。ここで一つお前に頼みたいことがある」


「へ?」


「友人のお前にしか頼めないことだ」


「……! うん! 何でも言ってよ!」


 とりあえず僕は、ホルスト君を助けることにした。友達は大事である。


 ついでにエアブレイカーなる不名誉な称号をなんとしても返上してしまいたい。


「ここにバリアーを張ってくれ。出来れば外部の人間に今からする話を聞かれたくないんだ」


「バ、バリアー……」


 ところがどっこい、友達からの頼み事はまさかの無茶振りだった。


 ば、バリアーってそんな、え? バリアー?


 本気なのかどうかすら判断しかねていた山田にホルストは困り顔で首をかしげていた。


「出来ないのか?」


「いや……やったことが……その」


「私は、お前ならできると信じているぞ友よ。では行ってくる」


「……!!」


 でもよりにもよってそんなことを言われたら何も言えなくなった。


 ひょっとするとビームだって出たし、何とかなる気がしないでもない。


 何より、このまま単純にエアブレイカーとしての評価を払拭しなければ!


 僕は自己の評価に抗うべく、本気で願った。


「ふぬぬぬぬぬ……」


 額の血管に血液が波打っていた。


 全身の筋肉が痙攣し、もっと奥底のエネルギーが爆発する。


「きえい!!」


 僕は叫び、衝動に任せ両手を空に向かって突き上げた。


 とたん何かが解き放たれた。


 ぼんやりとした、黄色い膜が広がってゆき、僕を中心として薔薇をすっぽり覆ってドーム状に固まる。


 僕はそこに新たな可能性を見た。


「で、出来た……! やれば何とかなるもんだな」


「いや、まぁ普通は出来ないと思うんだけどな」


 これがもしや友情パワーという奴ではと、僕は本気で考えた。


 それはともかく今はホルスト君とマリーベルさんのほうが重要だ。


 ホルスト君の爆発は自分で得意だというだけあって本当に絶妙で、派手に飛ばされた大和君と違ってマリーベルさんはたいした怪我もなく、何が起こったのかも把握できていないらしい。


 彼女はきょろきょろ地周囲を見回し、さっきまでの幸せハプニングの余韻からは完全に冷めているようである。


「よう。随分とありきたりな暴走をしたものだな。私の教えをじきじきに受けておきながら情けない」


「あ……」


 そこにホルスト君が声をかけ、マリーベルさんは彼女の緑色の瞳を向ける。


 しかし彼女の視線はすぐに悲しげに逸らされた。


「ゴメンナサイ……」


「だから言ったろう? 自分を偽るなと」


 マリーベルさんがおとなしくホルスト君のキメが野の台詞を聞いているところをみると、幸い爆撃の犯人はまだばれていないようだ。


 だがそう言ったホルスト君に、マリーベルさんは涙をいっぱいに溜めて顔を上げると、どこか非難めいた口調でぽつぽつともらした。


「私は……自分を偽ったりなんて……してない」


「ほほう。そうなのか?」


 ホルスト君が腕を組みマリーベルさんを見下ろしたまま言うと彼女は頷いた。


「私は……誰も傷つけたくないだけ。傷ついて欲しくないだけ……それだけなの。でもダメだった」


「ふむ。だろうな」


 ホルスト君が情け容赦なく彼女の言葉を肯定するとポロポロと涙がこぼれてしまった。


「私は……たぶん貴方みたいな才能がない……ならただ危険なだけ」


 だがホルスト君はマリーベルさんの次の台詞には首を振る。


「それは違うな。間違っているぞマリーベル。お前が間違っているのは目標の方だ。誰も傷つけたくない。その願いが間違っている」


 そしてあまりにも根本的なことをばっさりと否定していた。


 これにはマリーベルさんも大きく目を見開いて感情的に叫んでいた。


「……なんで! 力を制御できている貴方にはわからないんだ!」


 彼女の叫びを聞いたホルスト君はなぜか周囲のバリアーがしっかりとあることを確認して一つ大きく頷いて見せた。


「ふむ。では根本的なところから教えてやろう。いいか私とお前の能力はな、基本的には同じ物なんだよ。何のことはない、超能力で言うところのテレパシーのような物なんだ」


「?何の話?」


 突然教師のような語り口で語られる言葉。でもそれはあまりにも唐突で、僕もマリーベルさんも困惑する。


 しかしそれでもホルスト君は強引に話を進めた。


「まぁ聞け。だが我々が意思疎通できるのは人間じゃない。この星、私ならあの空に輝く太陽。そしてお前はおそらく、この星、地球だ」


「……」


「星は意思疎通できるものにとことん甘い。助けを求めればいくらでも力を貸してくれる。だが彼らの力は強大でな、それはもう、人間にしてみれば神にも等しい。だからこそ、助けの求め方は正確でなければならない」


 僕にしてみれば、よくわからない嘘か本当かすらよくわからない話だった。


 しかしそれを聞いたマリーベルさんは、口をあんぐりと開け、話に聞き入っている。


 彼女の表情から怒りが消えて、半ばホルスト君の語る言葉が本当であると確信している風だった。


「それが……私の力なの?」


 かろうじて返したマリーベルさんに、ホルスト君は本当に優しい表情を浮かべていた。


「そうだよ。暴走は、つまりはきちんと意思を伝えられていないのさ」


「でも、私は……ちゃんと自分の力を制御したいって思ってやった。でもできなかった」


「まぁ制御というよりは、気の持ちようだからな。興奮している時にうまく言葉が出ないなんていうのは当たり前のことだ。ちなみにさっきの事故みたいな物だから気にするな。あの程度で怪我をする大和の奴が悪い」


「でもそれじゃあ……ダメだ」


「わかっているじゃないか。そうダメだ。誰も傷つけたくないだけなんて考えてるうちはな」


「それは……どういう意味?」


 あくまで冷静に語りかけてくるホルスト君に冷静さが戻ってきたマリーベルさんは今度は質問を返した。


「誰かが傷つくことが問題なんじゃない。傷ついた時、お前が傷つくのが問題なんだ。人間はな、優しくしようがつらく当たろうが傷つく時は傷つくんだよ。そしてお前を攻撃する。いや、攻撃するまでもなく罪悪感はあるものだ」


「ならどうすればよかったって言うの?」


「少なくともお前は心の制御を他人に求めるべきではないと思う。いくら顔色をうかがっても他人の反応なんぞわからん時はわからん。未知の恐怖はお前をさいなむだろう。だがなこの未知の恐怖という奴がまずいんだ。際限なく膨れ上がり、感情の制御が出来ない。膨れ上がった恐怖心は我々の能力で星に伝わり。その恐怖にふさわしい力がポンと与えられる。どれほど危険か、わかるだろう?」


「うん……」


「自分を偽るなとは自分の本当の気持ちを正確に知っておけということだ。常に自分を中心に物事を考える。例えば誰かを傷つけたくないというのは裏を返せば、傷つく範囲に誰も近づけたくないという気持ちも含む。今回の暴走はその顕著な例だ」


「……」


 マリーベルさんは、わかったようなわからないような複雑な顔をしていた。


 僕も話を聞いていて、具体的にどうすればいいのかは今一わからない。


 ここまでは前置きだったのか、ホルスト君は更にぐっとマリーベルさんとの距離を詰めた。


「ふむ。まぁ言ってもわからんか……なら」


 そうして彼女に手を伸ばし、宣言した。


「私が教えてやろう」


「え?」


「能力のこと。お前のこと。私はお前以上に知っている。運命すら感じるよ。この世界に私以上にお前を導ける人間は存在しない。そう断言しよう」


「……」


 ホルスト君はいきなりのことで戸惑うマリーベルさんの手をとる。


 そしてぐっと力強く彼女の手を握り締めると、彼女の小柄な体を引き上げ、腰に手を回した。


「そう――誰よりもだ。私と共に来い。私がお前の扉を開いてやろう」


 妙に熱っぽく、ホルスト君はマリーベルさんの瞳を覗き込む。


 息が掛かりそうなその距離に、マリーベルさんは大いに慌てていた。


「……え? ええ? えっと、それはどういう?」


「ん? わかりにくかったか? なら……そうだな―――好きだ付き合ってくれ」


「……!!??」


 それは、どう誤解仕様もないほどに告白であった。


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