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「僕は一体なにを……」
僕、山田公平はようやく先ほどの具体的なアドバイスから一気に正気に立ち戻っていた。
僕の友人の大和 学君が驚くようなスピードで空に消えたからだ。
あまりにも鮮やかな軌道を描いたロケット花火。今の大和君はまさにそれだった。
「や、大和君飛んでったよ!」
思わずそう叫ぶと、ホルスト君は軽く頷いて僕に視線を向けた。
「ああ。ようやく正気に戻ったか。なに、今最も大事な仕事をしてもらっている。心配するな、多少熱いだろうが灰がクッションになる……予定だ」
「よ、予定なんだ」
「マリーベルの奴に考慮して手加減はしている。この場合は火加減か?」
「……大和君には?」
「…………まぁあいつもここの生徒だ、なんとか……して欲しい物だな!」
「希望? それ希望だよね」
「うるさいな。これから最後の仕上げをするところだ。どうする? 一面咲いていた蓮の花が全部枯れ果てているが? 調子悪いならここにいていいぞ」
ホルスト君は面倒くさそうに言って、今にも後を追いそうだった。
ちなみに時坂君は。
「俺は行かないからな。どうしようもなくなったら助けてやるよ」
べぇだ君は戻ってきた手前、もう一度行くのは照れくさいらしい。
「いや、うんちょっと恥ずかしいねさすがに」
だがこう言われては、僕は――引き下がることは出来なかった。
「いや! ぜひ行かせて!」
「そうか? ならいこうか」
ホルスト君はその言葉を予想していたように頷いて、走り出す。
僕も後を追ってすぐに駆け出した。
巨大な薔薇までに位置はそう遠くではない。しかし行く手をさえぎる障害が現れた。
青く光る発光体が地面から次々に現れ、光の巨人になる。
僕は非常識な眺めを唯一説明してくれそうな空飛ぶホルスト君に尋ねた。
「なんか出てきたけどあれなんだろう!」
「あれは……おそらくマリーベルの能力だ。あいつを守るために力が集まってきている。巨人はエネルギーの塊だ。もはや植物を操るだけでは収まらん。私の予測は正しかったようだ」
ホルスト君はその台詞を口にしている時、妙に興奮しているよう実も見えた。
僕は、最初は植物、次は地面を操り、最後にはよくわからない巨人まで出現させたマリーベルさんの能力に首をかしげた。
「見るたびに違う能力だね。変わっているなぁ」
「いや、お前にだけは言われたくないと思うがな? まだ大和ミサイルだけでは解決には至っていないようだ」
「そうなの?」
「ああ。あの巨人は、あいつの拒絶の表れだろうさ」
「あー……じゃあ急いだ方がいい?」
「もちろんそうだ」
「なら―――僕が道を作るよ」
僕は拳を握り締め、自分から先行した。
「おお、やる気だな。どうした?」
「それはそうだよ……」
僕はそこで唇を噛む。僕だってさっきのことをまるで覚えていないと言うことはなかった。
「今回、空気壊してマリーベルさん見失わせて……その上得意分野でも役立たずとかなったら僕は死んでも死に切れない」
一人わかった気になって、致命的な失敗をやらかした。そしてホルスト君に怒られた。
まさしく失態だった。
いつになく、真剣に僕は光る巨人を殴り倒す。
何匹でも出てくるのなら、相手をしよう。
今日の僕は、手加減とかためらいとか、そういう余裕は一切ないので飛び掛り、粉砕する。
「だからどうか挽回させて欲しい! そして出来れば忘れて欲しい!」
「それは断る。そっちの方が面白そうだ」
「そんな!」
「まぁがんばれ。エアブレイカー。今後の働き次第で考えんでもない」
「変な呼び名を付け加えないで!」
軽快に茶化され、必死に僕の作った道をホルスト君は一直線に飛んでゆく。
距離がそうあるわけでもない。所詮は学校の敷地内である。
本気になって駆け抜ければそんなに時間もかかりはしない。
「大和君は大丈夫かな……!」
「さてな! あいつの元気な顔を見せれば多少は落ち着きそうだが、罪悪感はあるだろう。相当あいつがうまくやらなければな」
僕は、砲弾になって飛んでいった友人の顔と、マリーベルさんを思い浮かべた。
確かに、怪我をさせてしまった罪悪感は元気な顔を見せたとしても簡単に消える物ではない。
今現在でも茨は新しくドンドン伸び、緑の巨人は次々出現している。
先ほどの小さな暴走で、こんなことになったことを考えると大和君に更なる危険が迫っていてもおかしくはない。
僕達は全力で巨人をなぎ倒し、薔薇の根元に到達する。
「そろそろ! この辺じゃないかな!」
「めちゃくちゃだなお前、あの巨人そう弱くはないと思うが。まぁいいか。あいつはどこかな……」
僕とホルスト君は、案外簡単に目的地で二人の姿を見つける。
そして僕とホルスト君は二人してびしりと固まった。
そこには見事にマリーベルさんを押し倒す形で目を回す大和君と、真っ赤な顔で動けずにいるマリーベルさんの姿があったわけだ。
「……大和君、君って奴は」
「……」
僕は頭を振って、思わず目を背けた。
彼は何も悪くない。そのはずだった。
ところがそむけた先で、チリっと火花がはねる。
「へ?」
突き出された手のひらが揺れ、爆発は容赦の欠片もなくを吹き飛ばした。
爆風に煽られて高々と空を舞う大和君はもはや気の毒でしかない。
「ホルストくんんん!?」
僕は咄嗟にジャンプして大和君を確保、回収してからホルスト君に詰め寄るとホルスト君はテヘリと頭をかいた。




