58
時坂とべぇだはぬるりとやけにゆっくりとふらふらゆれていた。
視線は虚ろである。しかし先ほどまであったはずの怪我人への配慮などホルスト含めた3人の目からは掻き消えていた。
ホルストは手厚い看護を受ける大和にまっすぐ歩みよって、ムズンと襟首を捕まえる。
「……悪いがこいつを借りるぞ」
「ちょっと! あんた!」
「怪我人に何するのよ!」
当然女子から避難の声が殺到するが、ホルストは完全にスルーして時坂に声をかけた。
「おい、時坂。ちょっとこいつの怪我を治せ。至急だ」
「……おう。まかせろ」
言葉にせずとも意図が通じる。
有無を言わせぬ圧力で時坂君による治療が行われる。
傷は一瞬で掻き消え、あまりの手際のよさに、皆何も言えなかった。
だがまだ気を失っている大和を一瞥しホルストは言った。
「さっさと起きろ」
「……あっつ!!!」
軽く炎であぶって蘇生した大和は、混乱してきょろきょろと周囲を見回した。
「い、一体何が……」
「大和。一撃で気絶とは情けない。そんなお前に早速失敗を取り返してもらわねばならん」
「え? ええ?」
「べぇだ。お前ちょっとカタパルト代わりになれ。目標はあの薔薇の根元だ」
「あいあい」
「……ぇ? えーっと」
まだ目を覚ましたばかりで頭が朦朧としているらしい大和をべぇだの背中にセットする。
ホルストは巨大なうごめく薔薇を指差してみせた。
その意図を理解したべぇだは、すでにがっちりと大和の体を掴み発光し始めていた。
セットされた大和の肩をホルストは無表情で叩く。そしてにっこりと微笑んだ。
「マリーベルは今まさに暴走一歩手前だ。そこでお前にはとりあえず元気な姿を彼女に見てもらわねばならん」
「あっと……わかるし、やるけど……え? 一体何が始まるんだ?」
「言ったろう? まず元気なところを見せてきてもらわなければ話にならない。なに心配するな。私がきっちり道を開いててやろう。では撃て」
「りょうかいー」
大和が戸惑っている間にも、べぇだの光ががんがん強くなってゆく。
明らかにやばそうな雰囲気を感じ取り大和は体を動かし始めたが、べぇだの手はびくともしない。
「うてって? なにを?」
「ん? なにを? そうだな。しいて言うなら大和ミサイルか。スマイルを忘れるな?」
「いやいやいやいやイヤッ――」
せめてもの慈悲にホルストが簡単に説明し終えた瞬間、光が最高潮に達して大和は悲鳴を残して射出された。
さすがべぇだだ、光速以上と豪語する加速はさすがである。
そしてきっちり放り出してから戻ってくるあたりもさすがだった。
手加減も絶妙で、生かさず殺さす、大和はまっすぐ目標に飛んでいった。
あまりにテンポよく行われたえげつない制裁だったが、悲鳴を聞いてようやく早乙女とリオンが正気に戻って声を上げた。
「はっ……いや何してるの! 怪我人なのよ!」
「もう治った。問題ない」
「だとしても何で飛ばしてるの!」
「緊急事態だからだ。あの薔薇を見ればわかるだろう?」
「着弾まで、あと3秒」
言った通り、今彼女達にかまっている場合ではなかった。
もう飛ばしてしまったのだから着地をさせねば。色々まずい。
「さて、私の番だ」
遠隔操作は難しいが問題はない。
ホルストは着弾予想地点に狙いを定め、タイミングを合わせて力を解放する。
絶妙なタイミングで膨れ上がる火の玉は、薔薇の根元を容赦なく燃やし尽くす。
火加減を調整された炎は、植物を真っ白な灰にしてみせた。
「よし、我ながら絶妙な火加減だ」
そうホルストが頷くと、きっかり同じタイミングで着弾地点で灰が高々と舞い上がっていた。
「……大和君が飛んでいってしまった……僕は悲しい」
無駄に穏やかな山田は今まさに大和が飛んで言った光景に動揺しているらしい。
ここまでの功績で、まぁ山田の先ほどの間の悪さは帳消しにする。
ホルストはうむと頷き、丁度いいので山田の肩をポンとたたく。
そして先ほど口にした約束通り、いい事を山田に伝えた。
「山田もご苦労だった。では、私もいいことを教えてやろう。お前のその力な……空気を読む以前に、そこにいるだけで空気をぶっ壊しているから、今すぐやめた方がいいぞ」
「……かはっ!!!!?」
山田の目は、完全に見開かれた。




