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「……これはまたわかりやすい」
植物を操る能力だとあいつが思い込んでいるのだとすれば、茨は拒絶の表れと言ったところだ。
天を突くようなそれはわかりやすい反応だった。
それにしても間が悪い。まばゆく光る山田にホルストが詰め寄るとホルストは文句を言った。
「おいコラ山田。お前がまた妙なことをするからタイミングを逃しただろうが」
山田はホルストの顔を表情筋一つ動かさずに視線を向けると、一筋すっと涙を流した。
「……ああ。ホルスト君から激しい怒りを感じます、僕は悲しい」
「よくわかっているじゃないか。反省しろ」
ホルストは腕を組み、眉間に深いしわを寄せる。
おかしなことをするのにも節度を持てと言う話だ。
ホルストがこれからどうしようかと思案していると、山田は妙に心に響く声で言った。
「……しかし見開かれた僕には人々の感情が手に取るようにわかるのです。この力を持ってすれば、必ずや何かできるはずだと思います」
相変わらず後光を出し、見た目からして尋常でない山田の言葉をホルストは一考する。
周囲の者達、特に男子の時坂とべぇだは、ひそひそと焦り気味に相談していたが。
「おいおい、こいつはいよいよおかしいぞ」
「行くところまで言っちゃったんじゃないの? 君らがあんまり空気読めないとか言っていじめるから」
「ああ……僕は悲しい。皆から大いなる戸惑いを感じます」
「……いやまて」
そんな彼らのやり取りを見て、ホルストには閃くものがあった。
アホめと言って踏んづけることは簡単である。しかし妙なプレッシャーを感じるのもまた事実。
ホルストはいくつか確認するように、山田に質問した。
「おい山田。お前、今感情が手に取るようにわかると言ったな」
「はい。言いました」
頷く山田には、嘘をついている気配はない。
「では、誰がどこにいるか把握できているか?」
「無論、造作もありません」
「ふむ……そうか。なんとなくだが、お前の能力わかってきた気がするな」
能力の全貌には興味はあるが今は保留にしておく。要は正確な位置がわかるのならば迅速に問題を解決できることが重要だった。
ホルストは、さっそく山田に切り出した。
「よし。なら山田よ。あの薔薇のどこにマリーベルの奴がいるのか教えろ。そうすれば私もお前にいいことを教えてやろう」
これは交渉のつもりだったホルストだが、山田は静かに首を振ると、優しすぎるスマイルを浮かべていた。
「……そのような見返りなど求めません。貴方の焦りが伝わってきます」
山田はすっと薔薇の根元を指差すとまた一筋涙を流した。
「嘆きが……伝わってきます。自らを責め立てる悲しい嘆きの声が。あの薔薇の根元からです」
「なるほど。根か。それがわかれば問題はない」
「力になれてなによりです。僕はうれしい」
あまりにも巨大な薔薇のどこにマリーベルがいるか、それがわかれば攻めようもある。
あの力が他者を退けている場合、激しい攻撃が待っているのは明らかだった。
ホルストは早速準備を始めた。
「さて。必要なのは―――」
目をつけたのは、まだ気絶している大和だ。
逃げ出したきっかけは大和の負傷だ。ならば大和の顔は今一番マリーベルに効く特効薬となるだろう。
しかし気絶して頭から流血している人間を、あんな後一歩で怪獣にでも進化しそうな化け物花に突っ込ませていいものか? ホルストは若干のためらいを感じていた。
大和は現在、クラスメイトの女子二人に抱き上げられている。
必要以上に密着している気がするリオンと早乙女は、大和の顔を覗き込んでいた。
「怪我の具合はどうなのよ!」
「ちょっと待って!……大丈夫死ぬような怪我じゃない。とりあえず治療をしましょう。マー君の部屋に連れて行くわ」
「なに言ってるの! 医務室に連れていきなさいよ!」
「魔女の秘術は、現代の医術を凌駕するわ。舐めないでよ」
魔女と噂のリオンは医学の心得もあるようである。
この期に及んで、若干いつもの女の戦いが繰り広げられているようなニュアンスを感じて呆れたが、なんとなくホルストは気になったことを効いた。
「……そうだ。例の大和女子寮住み込み疑惑の真相はわかるか?」
尋ねたのは山田にである。
だが、山田は首を横に振って拒否した。
「僕は悲しい……それを僕の口から語るのははばかられます」
「あいつら、大和の部屋に行くらしいぞ? 今確認しておいて、後で友人らしく家に見舞いといこうじゃないか」
「……どうやら、リオンさんの部屋の隣の部屋が彼の部屋のようです。あわよくば手厚く看護し独占しようという意思を感じます。早乙女さんもどうにかして自分の部屋で看病する流れにもって行きたいようですが……僕は恐ろしい」
もう少し聞き出すのには苦戦するかと思ったが、案外簡単に吐いた山田だった。なんだか神々しくとも山田の本質は変わっていないらしい。
それにしてもいやに具体的である。
「その補足いったか山田?」
「僕も業を感じて怖くなったのです……一人で抱え込めない」
「そうか。大変だな。……まぁいい。大和の奴が女子寮にいることがはっきりしただけでも収穫だ」
「はっ!……深く沈みこむような怒りを感じます」
ホルストはにやりと黒い笑いを浮かべ、ためらいを捨て去った。
「……ほっほう。面白い話じゃねぇか」
「……うん。死刑」
「ノリと勢いで隠された、ほんのちょっぴりの本気の怒りを感じます。僕は悲しい」
そして重大な真実を聞き逃さなかったのは他の男子連中も同じようだった。




