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「似たようなことは前にも見た気がするな」


「そんな事言ってる場合かよ」


 時坂は若干の焦りを見せていたが、ホルストはといえば、肩をすくめて見せただけだった。


「さてな。だが時坂よあまり騒ぎ立てるな。動揺している奴には、追い討ちになりかねんぞ……っともう遅いか」


「学! しっかりして!」


「マー君しっかり! 意識は……」


 大慌てて駆け寄った、早乙女とリオンの声がする。


 ビクリと身をすくめたマリーベルはあとずさり、そして恐怖に負けて逃げ出そうとしていた。


 ホルストにしてみれば、予想した中でも最も単純で最悪の成り行きが目の前で起こるというのは、不快である。


 慌てようにもあまりに予想通りだと冷静に観察する余裕すらあった。


 マリーベルは多少の手ほどき程度では上達せず。大和は多少の成長はあってもなお、想定より弱い。


 そうでなくては起こりえない事態に怒りすら感じた。


「ああ、こいつはまずい。すまんな、私はあいつを呼び止めてくる。後は頼ん……」


 まだ後ろにいるはずの時坂、べぇだ、そして山田に一声かけようと振り返ったホルストだったが――ホルストはそこで思わず咳き込んだ。


「ごっほ! んな……!」


 咲き乱れている花は蓮であった。


 そしてファラオ的に見ても神々しいと感じる、やたら目を引く光が先ほどの比ではないほど燦然と輝いていた。


 どこからともなく聞こえる和楽器っぽい音色が聞こえる。


 空耳であって欲しいと願ったが、どうもそれはやっぱりはっきりと鳴り響いていた。


 呆然とするホルストを正気に戻したのはやはり呆然としていたクラスメイトの声だった。


「は? うわ! 山田か! 山田だろう! ちょっと目を放した隙に何があった!」


「あーらら……今日はいっそう分けわかんないね」


 男子勢の声は良くも悪くも事件を動かした。


 クラス全体の注意が逸れ、同時に飛び込んでくる浮世場慣れした光景で目を釘付けにする。


 中心となっている山田は閉じていた瞼をすっと開いて、どこを見ているのかもわからない穢れのない眼でホルストたちを一瞥して言った。


「僕の心の瞳は見開かれました……」


「なに言ってんだこいつ……」


 ホルストの言葉は誰もが思ったことだが、とても言い出せない雰囲気に息を呑むだけである。


 あの遠い目に見られているだけで吸い込まれてしまいそうな、すべてを見透かされてしまいそうな未知の感覚に支配される。


 それはもう人知を超えたものとしか認識できない……って言うかそんな事はどうでもいい。


 ホルストははっとして、マリーベルを姿を探すが、そこには誰もいなかった。


「……しまった。思わず注意をそらされてしまった。ええい……くそ」


 悪態をつくホルスト。


 そうして生じた思いがけない隙に、思い描いた最悪の結果が現れる。


「な、なんだ!」


 地面が揺れ、誰かが声を上げた。


「ふむ。そうなるか……なるよな」


 ホルストが見上げる先には、巨大な薔薇がその姿を現していた。


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