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「……あいつは本当に日に日に訳が分からないな。まぁいつもの事だが」
ホルストはやれやれとため息をつく。
割合的には、呆れるのと楽しいのが半々といったところだ。
この学園に来てから、おかしなものを見ない日はない。
ある程度は予想していたが、ホルストにしてみても驚くことばかりなのは誤算だった。
おかしな能力はおかしなことを引き寄せる、強力な能力ほどトラブルを招きやすいのだからそれは別にこの学園に限ったことではない。
だが相乗効果なのか学園に入るとその度合いは大いに増して、毎日飽きないものだった。
「まぁいい。さて、どうなるかな」
そしてまた一つ、今日は面白いものが見られそうだと、ホルストは運動場の中心を眺めた。
地面がむき出しになり出来上がったフィールドには、二人の生徒が対峙していた。
一人は小柄な少女と、もう一人は日本刀を持った男。
マリーベルと大和 学
見知ったクラスメートはなぞが多い。
「……大和の方は、よくわからんな。剣士のようだが、ここではそれだけではやっていけないだろうに」
ホルストにしてみれば現時点で、能力的にはただの雑魚にしか見えない。
だがホルストには彼に対してもう一つ気になる点があった。
自然とマリーベルの方へ視線が動く。
マリーベルは、あの大和 学に惚れているらしい。
「何がそんなにいいのかわからんが。さてどうなるかな」
大和の前に立ったマリーベルは頬を赤らめ、興奮しているようにも見える。
恋心のせいか、それとも恋慕する相手と戦うという状況のせいか。
そんな様子をホルストはじっと眺める。
「高揚するのは悪いことではないが……さてどう転ぶかな?」
「なんだそりゃ?」
いつの間にかそこにいた時坂はそんな呟きを聞きつけて、ホルストに尋ねた。
「そのままだ。冷静ではない。その分思い切りはよくなるが大雑把になる。良い結果につながればいいが」
「たかが訓練だ。ちょっと思い切りがいいくらいが丁度いいだろう?」
時坂の言うことはある意味正しいが、必ずしもすべての人間に当てはまるわけではない。
「普通はな。だがあいつは普通ではない」
ホルストはマリーベルのかすかに震える様子を見て目を細めた。
「じゃあよろしくなマリー」
「は、はい!……よろしくお願いします……」
簡単な挨拶から構えを取る両者。
剣を構える大和を前に、深呼吸したマリーベルは、表情を引き締めて手を突き出している。
「じゃあ……いくぞ!」
宣言し、ぐっと体に力を込めた大和は次の瞬間、マリーベルに向かって飛び出した。
「速い……」
ホルストがそう一目で呟いてしまうほど、大和の踏み込みは速かった。
その速度は、最初とは比べ物にならない。
一体何が起こったのかは分からないが、大和は確実に進歩していた。
「え……」
マリーベルも予想していたより遥かに速かったその速度に、戸惑う。
ホルストは片眉を上げて、呟いた。
「あせりは大敵だ。扱う力が大きいほど、わずかな誤差で結果に響く」
地面が派手に吹き飛び、当然それに巻きこまれるのは対戦相手だ。
「反射ならなおさらな、手加減など仕様がない」
大和の体は高く突き上げられてバトルフィールドを滑る。
騒然とする空気を破ったのは、早乙女とリオン、二人の女子の悲鳴にも似た叫び声だ。
「学!」
「マー君!」
落ちてきた大和の額からどろりと赤い血が流れている。
マリーベルを確認すると、彼女の顔からは完全に血の気が引いていて、唇を震わせていた。
「こういう事態ももちろん起こる……」
ホルストはやれやれと肩をすくめて、ため息をついて見せた。




