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訓練がてら、ちょっとした話をすることはある。同じような時間割りの中で生活していれば自然と顔を合わせることもある。
自主トレーニングと銘打たれた授業では巨大な体育館で各々、トレーニングに励んでいた。
ちなみに、女子は先日の大喧嘩のペナルティとして、大和君と離されている。
現在はストレッチ中、軽い雑談で集まっているのは僕と時坂君。そして早乙女さんとシーラさんの4名だ。
そこで先日、マリーベルさんとホルスト君の一件を語っているのは時坂君だった。
「というようなことがあったんだよ」
内容は随分とかいつまんだ物だったが、おおよそ要点は抑えていた時坂君の話である。
話に相槌を打っている早乙女さんは驚いているようだった。
「へー……あのマリーがねぇ」
「お? マリーって愛称か? 少しは女子の仲よくなったんだな」
「別に全員仲が悪いわけじゃないってば。そんなに仲がいいわけでもないけど」
「ライバル同士ですので、そこは仕方がないですわ」
そしてシーラさんは切なげな顔でうなずいて、自分達の状況を嘆いているらしい。
時坂君は、そんなやり取りを若干呆れているみたいだった。
「まぁいいんだけどよ。随分めちゃくちゃだったからその後はどうかと思ってよ」
「……なに? 他人の喧嘩の心配までしてるの? ホントに仲いいのねあんたたち」
「よくねぇよ。いやその後大変だったんだよ。壊れた施設の修理をしてだな。マリーベルも少し怪我もしてたから治療して。その後の経過も気になるわけだ」
実際その手のことを一番あっさりと解決できるのは時坂君だった。
どんなに派手に壊れても、掌握した空間の時を戻すことで傷一つなく復元できてしまう彼の能力は非常に使い勝手がよいと評判である。
「……なるほど。わかった。あんたっておせっかいだから、なんだかんだまめなのが災いしているんじゃなの?」
「うっさいよ」
「いいじゃないですか。頼りにされることは悪いことではありません。貴方の評価の高さの現われですよ。ところで、ピクニックに続く企画は何かありませんか?」
「……自分で考えろ」
「そんなぁ~」
時坂君と女の子二人は、気が付くと随分打ち解けてきているようだ。
実によいことである。見習いたいことだと僕はとても感心した。
彼に学ぶところは多そうだが、今の僕では、まだ何をやってもうまく行く気がしない。
そんな僕が今取り組んでいるのはストレッチではなく、別のことだった。
じっと身動きせず、その場で座禅を組む。
石のように動かない僕に、時坂君はとうとう我慢できなくなったのか尋ねていた。
「で? お前はいったいなにをやってるんだ? 山田君」
「……瞑想」
「なんで? お前どちらかといえば筋肉系じゃないの?」
「それがいけなかったと僕は悟ったんだ。僕は自分のことなど何もわかっていなかった。だから空気も読めないんだ。ワーストなんだ」
「……そうか。なんかがんばれ」
「うん。やれるだけの事はやってみる」
理解が得られたようなので、僕は自分の内側へと意識を向け、無限の海に旅立った。
「あんた今、色々あきらめたでしょ?」
「……いや、なんかめんどくさそうだなと思って」
誰に何を言われても聞こえはしない。
他人を知る前にまずは自分を知らねばというのが瞑想にたどりついた、僕の結論である。
ちなみにアドバイザーは、僕の様子を見て満足げにうなずくシーラさんであった。
「あら。瞑想は精神修養にはもってこいです。時坂さんも超能力になら効果があるのでは?」
「こいつに瞑想なんて教えたのお前か?」
「ええ。日本もこの手の精神修養は昔からありますでしょう? 精神的に悩んでいるらしいので、やってみてはどうかと」
「どうだろうなぁ。俺の能力ってどっちかっていうと常に脳みそ動かし続ける系なんだよな。なんとなく相性悪そうな気もするけど」
「それならなおさら、少し休ませることも大切だと思いますけど」
「まぁなぁ。い、やっぱオレには無理っぽいわ」
穏やかな普通の会話だった、しかし友達同士の気軽な会話に誘われて、光速のあいつは光の尾を引いてやってくる。
「ずっるーい! トッキーと山田君だけ女の子といちゃいやするのずるいー!」
「来たか宇宙人」
「そりゃぁ来るとも! まったくもう。ボク抜きじゃ何も始まらないだろ? こんにちは早乙女ちゃんシーラちゃん! お願いだからボクとデートしようよー! 絶対後悔させないからー!」
ナンパ&ダイブ。大きく広げた手はハグからキスの構えだった。
声が聞こえてからの早乙女さんの反応は速い。ヒュオっと風を切り、りんごのヘアピンが髪ごと風になびき揺れる。
そして高々と振り上げられた右足はすらりと真上に伸びていた。
「わお!」
「ふっ……!」
ギロチンのごとく落ちてきたかかとは正確にべぇだ君を捕らえる。
そしてべぇだごとそのまま体育館の床を陥没させた。
ぱらぱらと木屑が舞い散る中、蒼白になったシーラはおずおずと早乙女さんに声をかけた。
「えぇぇぇぇ……いくらなんでもやりすぎでは?」
「そうでもないの、こいつに限っては。最近ボディタッチに遠慮がないし」
「いえいえいえ、それにしたって威力に遠慮がなさ過ぎません?」
「そうだよ! 頭蓋骨って砕けるんだよ!」
そしていつの間にか復活して一緒に文句を言っていたべぇだ君にシーラさんもどん引きだった。
早乙女さんはべぇだ君にため息交じりのジト目を向けていた。
「シーラ。こいつにはちょっと強烈にやんなきゃだめらしいよ? 私も最初は困ってたんだけど。時坂から、実はこいつ、物理攻撃がまったく効かないんだって教えてもらって、三回目くらいで完全に遠慮がなくなったわ」
「あぁ確かに……。そのようですね」
傷一つないべぇだ君を気持ちが悪そうに見るシーラさん。
時坂君がそんな彼女に深く頷いてアドバイスしていた。
「セクハラだと感じたら。遠慮なく必殺技を叩き込んでいいぞ。その場合に限り、オレが無償で修理までしてやっから。ついでに有効な攻撃方法が見つかったら情報交換希望だ。有力情報にはサービスで三回まで持ち物を新品同様にしてやるよ」
「時坂君!? この裏切りもの! やめてよそんな協力! 通りで最近女の子達からの反応が暴力的だと思った!!」
「あった瞬間ルパンダイブってお前も適応している節が見られたぞ。自重しないとそのうちホントに訴えられるからなお前」
「それはやだなぁ!」
なんだかべぇだ君も独特の人間関係を構築しているようだった。
べぇだ君は唇を尖らせ、人差し指でぐりぐりと地面に絵を描き始めた。
「だってさぁ……この間のホルスト君見てたらなんかあせっちゃってさー。マリーベルちゃんとなんか仲良くなっちゃってない?」
「いや、どうだろうな? あれは仲良くって言うのか?」
自然とマリーベルさんをみんな目で追う。
探して見ると、マリーベルさんはホルスト君の後を付いて回っているようである。
ホルスト君はといえば、先日以上に何かを教えるつもりはないようで、話しかけているマリーベルさんに首を振っていた。
彼女にとってホルスト君がどれだけ珍しい存在であったかは僕にも想像できた。
心なしか彼女の目は爛々と輝いて見える。少なくとも悪く見られているということはなさそうだった。
「仲良くというよりも弟子入り志願か?」
「いやわっかんないよ? だって似た系統の能力って探そうと思っても中々見つかるもんじゃないでしょ」
べぇだ君の台詞に、ここにいる全員がその言葉に一様にうなずいていた。
「それはそうかも。能力開発ってどうしてもオンリーワンっぽいところあるから手探りな感じあるもんね。聞ける物なら色々聞きたいのわかるよ」
「……そうですね、悪くないと思います。ともすればライバルが一人減るわけですしね!」
「あんたぶれないわね。ホントぶれない。ある意味すごいわ」
「そちらこそ。引き下がるつもりもないくせにそういうこと言っちゃうあたり。ズルですよ」
早乙女さんとシーラさんがバチバチと視線の火花を散らし始めていると、いいタイミングで、見慣れたジャージが現れた。
礼先生は今回体育館に設置されたディスプレイにどんと顔を出し、僕らはそちらに注目する。
『さて。今日は、抜き打ちの君らの能力テストを行う。二人一組になって各々準備を始めろ」
礼先生の手短な説明の後、巨大なディスプレイに、あらかじめ決められた組み合わせが現れた。
僕はその中にマリーベルさんと大和君の組み合わせを見つける。
「……あっ」
組み合わせを見てポッと赤くなるマリーベルさんを目撃したのは僕だけではもちろんない。
彼らはそれぞれ、悩ましげに残酷なことを呟いていた。
「あ、ダメだわホルスト。恋愛とかじゃないっぽい」
「残念のような、かわいそうなような、でもちょっぴり嬉しくもあるようなかゆい感情が胸に押し寄せるんだけれども」
「……そうね。そのようだわ」
「ふぅむ。そううまくはいきませんね」
「……」
口々に呟く彼らを見て、僕はまたそっと深い瞑想に戻った。




