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「ふふふんふーん♪」
僕、山田 公平は歌を口ずさみ、朝の内に引っ越しの荷物を片付ける。
ひとまず段ボールをわきによけて、部屋を見渡すと買ったばかりの座卓と、部屋の割には大きな冷蔵庫が並ぶさまは壮観だった。
僕は新居となる自室にそれなりに満足して腕を組んで頷いた。
「よし、ひとまずはこんなもんだろう」
とはいえ、まだまだ足りないものは多い。だがそこはおいおい揃えていくのもまた楽しみの一つだ。
「新しい家具をもっとそろえるのもいいけど……部屋が狭くなるのは考え物かなぁ? 友達できたし……」
そうだった昨日はとても特別な事件が起きた。
「友達、できたし!」
あえて口に出す。
まぁ、そんな感じである。
今日は記念すべき初登校の日。まさかの登校する前の大成果に、我ながら驚嘆せずにはいられない。
しかし手柄を上げた英雄のように勝利の余韻に浸っていられる時間は少ない。
時計を確認すると、少々片付けに時間をとられすぎたようだった。
「おおっと、そろそろ準備しなきゃ間に合わないかな」
バタバタと朝食を片付ける。
準備万端気合を入れて、僕は自分の部屋の扉を開けた。
僕の名前は山田 公平
特別指定区域、竜王寺学園の今日から一年生。
出来たばかりの学校は特殊な能力を持った学生向けの場所だと簡単に話は聞いている。
ここに来るまでの道のりを思い出して見ても普通ではないことは確定の様である。
「一応学校以外の建物はあるみたいなんだけどな」
僕は寮からの通学路をきょろきょろしながら周囲の様子を窺った。
真新しい建物に囲まれた不思議な学校はいくら眺めても、似たような場所が思い浮かばない。
極小の街というには、同じデザインの外観が並ぶ施設は、まともなドアすらなく生活臭がまるでしない場所である。
「変な学校だなぁ」
それが僕の感想だった。
そんな味気ない街の一角に人の気配を感じて、僕は目で追った。
ちなみに僕の視力は人工衛星が裸眼で見えるくらいである。
「あ、あれは」
あれはなんと、僕の第一友達発見だ。
声をかけるか否か、一瞬テレが混じってためらっていると、目の前で事件は起きた。
「……なんと」
大和君が女の子とぶつかっていた。
お互い、しりもちをついていたが幸い怪我はなさそうだ。
声をかけるには結構遠めの距離なので見ている事しかできないが、どうやら二人ともすぐに立ち上がって、何か話をしているらしい。
出て行くタイミングは完全に逃してしまったが、素通りするのもためらわれた僕はしばし様子を伺うことにしたわけだ。