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その日の朝、寮の食堂で僕達は顔を合わす。
僕、山田 公平の朝は早い。黒い髪の寝癖はきっちり櫛でとかし、朝の身支度を整えて食堂に赴けば、大抵一番乗りで座っている。
そして次に特徴的な赤い髪が目に入る。すぐに僕は挨拶をした。
「おはよう。時坂君」
「おー。いつもはええなお前」
「ホルスト君も起きてたからもうすぐ来ると思うよ」
僕がそういうのとほぼ同時に、ホルスト君が食堂に入ってきた。
彼ももうすでに身支度は万全で、服装に乱れの一つもないのはさすがだった。
「ふむ、今日も今日とて面白味のない顔がそろっているな」
「お前も朝からクドい挨拶してんじゃねぇ。毎回付き合う気力があるわけじゃねぇぞ」
「なんだ? 低血圧なのか時坂よ。ハハハよいよい、血の巡りの悪そうな顔だと常々思っていた。朝食にレバーでも食ってせいぜい顔真っ赤にするがよかろう」
「やかましい」
「おはよー……ボクが最後かー」
寝起きがいいらしい時坂君とホルスト君。そして最後に眠そうに眼をこすってやって来るべぇだ君で、だいたい全員そろう。
寮では、食堂の入り口で料理を注文すると、ロボットがメニューを運んできてくれる。
カロリー計算や、メニューのアドバイスなどもあって栄養面での不安とは無縁とのことだ。
ロボットが僕らの前に注文通りのメニューを4つ、運んでくる。
僕、山田 公平。時坂君。ホルスト君。べぇだ君。
ほぼ同時にならべられる食事含めて、ここに来てようやく慣れてきた、いつもの朝の風景は完成する。
だけど、そこで唐突に僕は違和感に襲われてぽつりと呟いた。
「そう言えばさ、この寮でまだ大和君に会ってないんだけど……どこに住んでるんだろう?」
ピシリと今まさに朝食に伸びる手が止まった。
気がつけば、全員の視線が僕に集まり、しかしその瞳は焦点がぶれていた。
時坂君は震える声で口元を押さえる。
「そ、そういえば。まだ一回も寮で顔あわせたことないよなあいつ。ここ全寮制だよな?」
当然の確認を、ホルスト君は深く頷き肯定する。
「……そのはずだ。だがこの寮、4部屋しかそもそも部屋が存在しないのだ」
すでに確認を済ませている情報に更なる動揺が僕らの間に広がった。
ホルスト君のさまよう視線がべぇだ君の視線に合い、動揺は更に拡大する。
「でも毎日授業には……いるよね? なら彼はどこに暮らしているのさ?」
「それはお前あれだろ……そのあれだ」
「お、落ち着くんだ。こういう時はあれだ。あいつと一番仲の良い奴に尋ねればいい」
「へ?」
僕はその中のいい誰かが自分であると気が付いて若干テンションが上がった。
「そ、そうだね。ここに来た時、確か寮に入るって言ってた気がするんだよね……でもいないからおかしーなーとは思ってたんだ」
そんな僕とは正反対に、他の三人の態度は硬いものだった。
「寮に入る? ここ以外に寮があるのか?」
ホルスト君は記憶にないその施設を思い浮かべて首を捻る。
「寮……と言えば、女子寮?」
僕は深い考えもなくそう言うと再び緊張感が跳ね上がった。
だが沈黙も数秒な事だ。今度はとたんに全員一斉に明るく笑い出した。
「あっはっはっは! 馬鹿言うなよ! 男子が入れないから女子寮なんだろ? 馬鹿言うなよ!」
「フハハハハ! そうだぞ! 世間一般に男子が女子寮で生活するなんてこと許されることはない! 当然じゃないか!」
「うふふふふー。そうだよー! あんまり馬鹿なこと言わないでよ山田君! もうほんと勘弁してー」
「そ、そうだよね! そんなことあるわけないよねー!」
僕もそんな彼らに合わせてしばし笑う。
食卓はすでに冷め始めていた。
少しずつ笑い声は小さくなり完全になくなると、呼吸を整える深い息遣いだけが響いた。
「で――実際はどうなんだ?」
それは恐ろしく鋭い視線だった。
どんなに鋭いナイフを買ってきたところであそこまで鈍い光は跳ね返さないだろうと僕は確信したほどだ。
「ありえない――そうはわかっていても。確かめる必要はあるな」
ホルスト君の纏う重い空気は、どんな重金属でも羽のように軽く感じることだろう。
「もしこの妄想が……妄想がさ、事実だったとしてだよ? そんな世の中の道理すら踏み越えちまった罪人にボクらはいったい何をしてあげられるんだろう?」
そこに渦巻いているのは間違いなく未だかつてない殺気であった。
「……えっと」
でもまさかそんなこと?
僕は今迄の大和君の事を思い出し、なくはないかなっと冷えた朝食をすすって冷や汗を流した。




