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「後でもう一回行かないとなぁ。しまったなぁ」
今日の僕はうっかりしすぎだと思う。
どうにも浮かれすぎているらしいことを反省しつつ銀行へ向かった。
初めての一人暮らしだし、浮き足立っているのかなーなんて思うけれど、それはそれで人には言えない程度には照れくさい。
やはり慣れない街だ、そう言う些細な失敗はあるのかもしれない。
「ありがとう。助かったよ道に迷っちゃって。あんまり土地感なくってさ」
「……こちらこそぶつかってしまって。でもよかったです、知っている人に会えるなんて……思ってなかったから」
「俺もだよ。まさかこの街で会うなんてすっごい偶然だよな! うれしいよ!」
「や、やめて……もう。こっちです」
些細な失敗は……あるのかもしれない。
顔を真っ赤にして手を引く、緑色という変わった髪の色をした女の子は見ている僕の方が恥ずかしくなるくらいに初々しい。
そしてうっかり道に迷ってしまっていたらしい手を引かれている男性は長身で、なぜか刀を下げていた。
ふむ……。やはりこの街は刀が流行っているらしいね!
考えてみたが、流行に流されすぎるのもいかがなものだろう?
少なくとも、僕は刀をぶら下げたくない。
また連れている女の子が知らない人だったし、全く知らない人に違いない。たぶんそうである。きっと。
僕は深く考えるのはやめた。それよりも僕には考えるべき問題があるのだから。
「まぁ先立つものがなければそもそも何も始まらないものな」
僕がやって来たのはもちろん銀行である。
銀行もあまり使い慣れてはいないんだけれども、自動ドアを抜けてキャッシュディスぺンサーにたどり着きさえすれば、後はなんとかなるはずだ。
ドキドキしながら銀行に入る。
自動ドアを抜けてたどり着きさえすれば……
ガチャリ
「ハイお客さん。そこで止まってくださいねー」
「たどり……つけさえすれば」
なんとかなるはずだった。
なんでかおでこのあたりに硬い銃身を突きつけられて僕は泣けてきた。
でも泣いたりなんてしない、今日はこういう日の様だ。
突き付けられたのはサブマシンガンとか言う物だろう。薄らぼんやりとした記憶だが映画で見たことがある。
覆面をかぶった武装強盗団が銀行を占拠しているところなんて、ドラマ以外で初めて見た。
僕はこれは自慢できるのではないかとちょっと考えたが、こんな世の中じゃふーんくらいで終わりだとあきらめた。
「おい! 聞いてんのか!」
「……」
ああどうしようか? このまま人質とかにされちゃうとすごく困る。
この後の予定は、さっきのミスですごく押しているのである。
引越し屋さんだって、寮の方に来ているかもしれない。
すごく急がなくてはならないだろう。
「あのぉ……僕、急いでいるんですけど?」
「ああ、そうかい。そりゃぁ大変だな。じゃあ真っ先に地獄に行くか?」
引き金に指がかかる。
血走った眼の犯人が、どうやら僕を撃ち殺そうとしている、そんな場面。
急ぎたいという僕の願いは、どうやら別の誰かが叶えてくれたみたいだった。
瞬きするよりも速い。そんな速度で動く人間を僕は初めて見た。
壁にめり込んだ犯人はその誰かに頭を抑えられていた。
「おっとっとー。ダメだよそんなもの振りまわしちゃさ! ついつい強めになっちゃったよ!」
「……!」
他にいた犯人達も、すでに不思議な光る輪で捕えられて動けない。
いやそれ以前に全員白目をむいて、気絶しているらしい。
あの一瞬でどれくらいすごい力でたたきつけられたのかは、叩きつけられた瞬間の顔を見ていれば察することが出来る。
ご愁傷様である。
「君すごい勇気だね! びっくりしたよ!」
ウインクして、手を差し出してくる金髪の彼に僕もまたにっこり笑って手を握り返した。
「ああどうも」
「!」
手が触れた時なんだか変な感じがしたけれど、握手ってなんとなく友達になった感じがする。
二回ほどしっかり手を振ると、金髪の彼はクリッとした目を更に大きく見開いて、冷や汗を流して手を放した。
「……君、その制服。なんか余計なことしちゃったかな?」
「いえ。とても助かりました。ありがとうございます」
素直に助かったのでお礼を言うと、彼はそれ以上何か聞くことはしなかった。
「ふーん……。そっか! それならいいんだけどさ! じゃあボクは彼らを警察さんに引き渡したら行くよ!」
「はい。じゃあさようなら」
「うん! またね!」
これまた一瞬で強盗の大男達をひとまとめにする彼に僕も手を振って、その場は別れた。
もちろんお金を引き落とすのは忘れずに。