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雰囲気は重苦しい……というわけでもない。
おかしなことがあるとすればやたらべぇだの周囲がピリピリしていて、妙な電波的ななにかを飛ばしていることくらいだった。
「何でお前ビリビリしてんの?」
「ビリビリはしてない、ピリピリしている」
言っていることはわからないが、深刻な雰囲気を出したいんだなと時坂とホルストは理解した。
ただ、集まった3人という数字は意外なものではあった。
「あれ? 全員集合って言ったのに、山田君はいないの? いつもなら喜んで来そうなのに」
べぇだは一人いない人物を思い浮かべて首をかしげる。
「ああ、あいつは何やら行方不明だ。どこで何をしているやら」
「なにそれ?」
「またなんか面倒なことをしてんだよたぶん。そもそも全員集合とかおかしいだろ?」
ホルストと時坂はすでに、するめをかじりながら緩い空気を出していた。
事情を知っているのはイカを買う時ここのレジのそばに、書置きがあったからだった。
ちょっと山田君と出かけてくるので、代金は箱に入れておくこと
二人にはまったく意味が理解できなかったが、山田行方不明には校長が一枚かんでいる。
しかしべぇだは欠員がいたことに嘆かわしいと頭を振った。
「いいや! 重大な事だよ? ボクらモテナイーズの中でさっそく裏切りがあったかもしれないというのに」
「モテナイーズでいいのか? 今ならまだ変更が効くと思うぞ?」
「いや、言ってるうちになじんできちゃって。逆に考えよう! 最終的にこのチームを全員抜ける感じで行こう。卒業的な。そして一番はボクでありたいんだけど!」
べぇだは熱く希望を語る。しかし時坂の呆れ声が飛んできた。
「お前が一番裏切りもんじゃねーか」
「君がそれを言うかな? 裏切り者一号。というわけで、なにやら裏切りがあった気配がしたので、緊急招集です」
「お前……」
「女の子二人と秘密の密会。これを裏切りといわずなんと言います? トッキンボクは悲しい」
真剣というには少々殺気が強すぎる圧力を感じ、時坂は明らかに面倒そうなそれから目をそらす。
すべてではなかっただろう。しかし女子と一緒にいるところは間違いなく見られたとあきらめた時坂は、観念して口を開いた。
「誰がトッキンだ。いや、二人きりならともかく三人なら普通の世間話だろ?」
「ほっほう。世間話とな? ではいったい何の話をしていたというのだね? 世間話なのかね?」
「それは……まぁそうだよ」
「かー! もう時坂君! 君ってやつは隠し事が出来ないやつだね!」
「うぬ……」
「それで? 何の話をしていたのかな?」
べぇだはにっこりと笑顔である。その表情の裏にはどろどろとした感情が渦巻いているのが透けて見えた。
時坂はこの謎のエイリアンが口から入ってきて脳みその中とか読まれたらどうしようとちょっぴりドキドキしながら断片的にでも情報を出すことにした。
「ピクニックに行くとか、いかねぇとかそんな話だよ……」
「ピクニック! 素晴らしい! 大和君とご一緒? それとも自分だけ抜け駆け? そこ問題だよ。弁護士を呼ぶ権利はないからね!」
「はぁ? いやいや、なに言ってんだ。オレが行くわけないだろうが」
「……え?」
だがきっぱり否定すると、今までどこか腹のたつにやけ顔だったべぇだの表情が固まった。
「だから、あいつらがやたら仲が悪いからピクニックでもして親睦を深めたらどうだと言っただけだ。後は知るか」
時坂には隠し立てするようなところは一つとしてない。
真顔で語るが、べぇだの困惑は深まる一方だった。そしてなぜかホルストの肩を叩きうろたえながら言った。
「……ボクちょっと何言ってんのかわかんない。え? どういうことなの?」
「いや、わかれよ。女子の親睦会に何でオレが参加すんだよ?」
「そ、それで大和君は行くんでしょ?」
「まぁいくんじゃねぇかな? っていうかあいつがいかなきゃそもそもそろわねぇっぽいぞ女子」
「いやいやおいおい……するてぇとなにかい? 君はそんなにも楽しそうな企画を立案したにも関わらず、おいしいところをすべて大和君にくれてやったと?」
「おいしいところって……まぁお前にはそうなのかもしれんが、実際女子会に一人男が混ざるのもそれはそれで大変だと思うぞ? そんなにうらやむことじゃ……」
「いやお前にはじゃないよ!! まぁそれはどうでもいいよ!」
「どうでもいいのか?」
心底わけがわからないと時坂が混乱していると、黙って脇で見ていたホルストがとうとう笑い出し、ニヤニヤしながら言った。
「ふむ。ではなにが許せんのか言ってやれべぇだ」
「ああ言ってやるとも! そこまでうまいこと誘導できたなら、なんでもうちょっとがんばらないのかと! クラスの親睦を深めようとか言って、ボクらも一緒に行けるようにすればいいじゃん!」
「あー。そういうことか」
我欲丸出しのべぇだはいっそすがすがしい。
確かにあの流れなら、そういう風に話を持っていけたかも知れない。
「だけどそれ結果論じゃねぇ? ピクニックなんて提案も大概断られそうなのによ。一緒に遊びに行こうとか言ってもよ? 提案するだけ無駄だろ?」
「やれよそこは! チャンスがあればボクは女の子といちゃいちゃしたいんだよ!?」
「うわー……そうやって言い切ってるのって見ててかなりつらいものがあるなぁ」
「そうだな。余裕がないにもほどがある」
がくがくと揺さぶられる時坂。あまりのべぇだの必死さにホルストも引き気味だった。
「そっちこそなに余裕ぶってるんだい! あがきなさいよ! 水鳥の足のごとく!」
「やかましいわ」
時坂はこれ以上付き合っていられないと二本目のするめをかじる。
ホルストは二人のやり取りを、ひとしきり楽しく見物して苦笑した。
「ふん。だがべぇだの言うことにも一理ある。要領が悪いというかなんと言うか」
「要領は悪くない! ただ眼中にないだけだ! まったくお前らときたらすぐそう言う事を言い出す」
「言うさ! チャンスは平等に行こうよ!ボクだってクラスメイトの女の子とピクニックに行きたいんだ!」
「そこまで言うなら自分で誘えよ!」
「誘っても来てくれないから、困ってるんでしょー!」
「……ああ、もう誘ったのな」
全身を発光させて声高に主張するべぇだ。そして、べぇだの肩を持ったということはホルストもありだと思っているということか。
だが、時坂にして見たらその提案をするのは抵抗がある。
思い切ってその疑問を口にした。
「いや、だけどよ。それってどうなんだ? クラスの男女そろって仲良くピクニックって……」
「何か問題でも!?」
「……それってもう遠足じゃんか」
「まぁ遠足だな」
「遠足だね」
今まさにイメージが男子の頭の中で共有された。
「でもボクは遠足だろうがなんだろうが、女の子といちゃいちゃしたいんだ!」
「うるせぇ黙れ」
その日はとりあえず、この話題はこれで終わりということになった。




