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「はぁ……」
悩み事がある時、僕は一人こっそりと図書室に行く。
なんだか静かで、本に囲まれた空間にいると、いいアイディアが閃きそうな気がするからである。
読む本は何でもいい、ただひたすらに文字を追うというのもいいものだ。
いつでも学校の施設を使い放題というのは、実に贅沢だと僕は思う。
ちなみに今読んでいる本のタイトルは、「人に怖がられない100の方法」だった。
ただ僕は、つい熱心に熟読しすぎてしまったらしい。
僕以外の誰かが、本を覗き込んでいることにさえまったく気がついていなかったんだから。
「……君はわかりやすいな。悩みでもあるのかとさえ聞くまでもない」
「!!」
僕は仰け反る。
見下ろしていたのは、黒い髪の女の子で、彼女は薄く口元で笑い楽しげに見えた。
「あ、薊さん?」
僕はその人の名前を記憶から引っ張りだして呼んでみる。すると一瞬だけ意外そうな顔をした薊さんは軽く手を上げて返した。
「やぁ。君も読書かい?」
「うん。前の学校じゃけっこう読書好きで通ってたんだ」
「それは素晴らしい。見かけによらず勤勉だ」
「勤勉ってほどじゃ……ないよ」
「……いやいや、人間関係について研究しようっていうのは中々興味深いテーマだよ」
「うぐっ」
やはりタイトルは見られてしまっていたようだ。
クスリと笑って、そう指摘する薊さん。
僕は自分の頬が赤くなっていくのを実感した。
こいつは恥ずかしい!
慌てて本を隠して、愛想笑いを浮かべると僕はこれ以上突っ込まれないように頑張った。
「僕はいいから!て、適当に手に取った本を読んでただけだから! 薊さんはどんな本を?」
勢いで尋ねてみる。すると彼女はちょっと意外そうな顔をしていた。
「そうだね……遺伝子について少々。特に君達みたいな能力者についてがここのところの研究テーマだね。ここには色んな資料も置いてあるから」
うん。出来る限り優しく言ってくれているが、絶対広げても理解できない話題であると理解した。
「そ、それはすごいね」
「まぁ――私も科学者の端くれでね。未知の物について考えるのが仕事のようなところがある。君たちの能力も完全に解き明かせれば、君の助けにもなるかもしれないが、まだまだそれには時間が掛かりそうだ。でもクラスメイトとして印象の相談にくらいなら現時点でも乗って上げられるかもしれないな」
そのうえ、あの恥ずかしい話題の相談に乗られてしまえば、もう笑うくらいしかない。
「は、ははは」
「人に怖がられるというのはある程度仕方がない。というか他人はだいたい最初は皆怖い物なんだろうね。君のように正体不明ではなおさらだ」
「それは、そうなんだけど。やっぱり仲良くしたいかなって」
自分の中でもどう言ったらいいか曖昧だった。すると薊さんは口ごもる僕の言いたいこと把握してくれたようだった。
「そうか……そうだなぁ。じゃあ何か工夫が必要になってくるだろうな」
「工夫でどうにかなるかな?」
「なるさ。工夫はどんなことでも大事だよ。工夫なしには人類の進歩はありえない」
「じ、人類」
「おっと、つい。大げさに言っちゃうのは私の悪い癖なんだ。……要するにだ、どんなことでもいいから変化をつければ改善するかもしれないってことだよ。見た目の印象とかね。ゴメン、あまりアドバイスになっていないかな。漠然としているね」
そしてアドバイスをしてくれたんだと分かった時、僕は感激のあまり呆けてしまったが、一拍おいてコクコク頷いていた。
「いや、そんなことないよ! ありがとう!」
「じゃあ私はこれで。読書の邪魔をして悪かったね。ちょっと君とお話ししたくなったんだ」
ちょっと君とお話したくなったんだ。
女の子にそんなこと初めて言われた僕は、頭が真っ白になる。
「……」
ゆれる三つ編みが、図書室の外に消えた頃、僕はようやく意識をはっきりさせ、ほっぺたをつねる。
どうやら今までのことは夢ではないようだ。
「おっと、ボーっとしてた。そうか工夫か……」
せっかく相談に乗ってもらったんだし、なんだかどうにかなる気がしてきた。
にへへと僕は緩む頬を引き締めなおした。




