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駄菓子屋の入り口にいるはずのない友人の姿を見つけて、僕は驚きの声を上げた。


「大和君! どうしたの?」


「どうしたのって、一緒に探してみようって言ってただろ? 約束は先にした方が優先だって」


「や、大和君! 君ってやつは……」


 僕は目頭を押さえる。てっきり今日は無理だとばかり思っていたのに、わざわざ見つけ出してまで来てくれるとは感激だった。


 だが、ここにやって来たのは何も彼だけではなかったのだ。


「本当にあるとは思いませんでした……」


 一瞬にして心なしか彩られる店内。


 ザワリとその瞬間、僕の背後でざわめく気配は三つ。


 僕は入ってきた女の子の名前を口にした。


「シーラさん?」


「ああ、シーラとはさっきそこでばったり会ったんだ」


 大和君の説明で僕は納得する。


 どうやら、今回作戦勝ちをしたのは彼女のようだ。


 僕はなんとなく一瞬、後ろにいる男子三人の方へ視線を向けると、大量のお菓子は光速で見えない場所に隠され、完全にすまし顔の男子が三人、まったく気にしていませんよと座っていたのだから驚いた。


「あの、私、こういうお店は初めてなんです。教えていただいてもいいでしょうか?」


 大和君の手をとり、シーラさんが頬を赤らめているのを見てから、あっという間にすまし顔のメッキははがれたけれども。


 そして奥に座っている三人に大和君はすぐに気が付いた。


「あ、他の奴らと来てたんだ。すごいな、もう仲良くなってたんだな!」


「う、うん。ちょっとあって。と、友達になったんだ」


 なんとなく勇気のいることを言ってから、僕は今自分が重要なポジションにいることに気がついてしまった。


 これは大和君が他の三人と仲良くなるチャンス!


 ここは友達として。そう友達として! いい感じに仲立ちをするべきだろう。


「俺は大和 学。よろしく!」


 だけど、僕が何をするまでもなく、非常にさわやかなスマイルで大和君は三人に話しかけていた。


「……」


 うんちょっとさびしくなんてない。


 一先ず、男子勢は何かしら好意的な反応を示そうとしたのだろう。しかしいまだに大和君とシーラさんが手をつないでいるのは問題だった。


 微笑みになりかけていた表情は曖昧にゆがみ、握手だろうと思われる微妙に差し出される前の手は途中で止まる。


 結果この絡みに対しての反応は微妙な物になった。


「あー……うん。よろしく頼む」


「うーん……よろしくー」


 そしてまぁ、時坂君あたりはもともとのスタンスから攻撃的になりやすい。


「ほぼ初会話で妙になれなれしい奴だなお前……」


「あっと、気に障ったんならゴメンな」


 僕は緊張感の高まりを感じて、なんとなく身構えた。


 ちょっと微妙な空気の時坂君と大和君。


 そしてなにを思ったのか、時坂君はため息をついて大和君に言ってしまったのだ。


「気に障ったって言うかな、お前等緊張感なさすぎだろう。昨日戦って今日はデートか?」


「いや? デートじゃないって。クラスメイト同士になったばっかりなんだから、少しでも親睦を深められたらいいなってさ」


 時坂君は最初こそむっとした表情だったが、しかしどういうわけかすぐに表情を消して怒鳴るようなことはしなかった。


 それが油断の原因でもあったが、油断していなかったからと言ってフォローできたかと言えばNOだ。


 時坂君はむしろ喧嘩越しよりもずっと厄介なところに着地した。


「それが、どうにもなしっくりこないんだよ」


「……なんだよそれ? せっかく同じ学校に通ってるんだから仲良くしてもいいだろ?」


 空気が悪くなったことを察した大和君は気まずい笑いで時坂君に話しかけたが、時坂君はそれを鼻で笑い飛ばした。


「おいおい、本気で言ってるのかお前?」


「え?」


 僕はいやな予感がした。でもとめるまもなく時坂君は言う。


「ここでどう過ごすのかなんてのは自由だよ。だがよ? そいつは安全を確保できてからの話だろう? てめぇみたいな弱者は特に」


「……」


 えぇぇぇ! さっき一先ず保留にしようと言ってたのにそこをほじくり返すのかい時坂君!


 驚愕して仰け反る僕。


 その瞬間、背後のシーラさんの顔色もさっと変わる。


「何ですかその言い方! 大和さんは弱者などではありません!」


「は? そりゃあ、お前が負けたからか? あんな自滅やらかして、みっともないのはお前も同じだ」


「!」


 時坂君の矛先はそんなシーラさんに変わる。


「負けて取り巻きその一か? ざけんな。 ここは基本、戦うところだぞ? 学園生活大いにけっこうだが、弱いやつがそんなことしてる暇あるのか? 今ここで俺に殺されたとしてもおかしかないって自覚はあるか?」


「そ、それは……」


 明確な殺気を込める時坂君。


 その瞬間、周囲から似たような殺気まじりの視線が時坂君に向けられる。


 それはホルスト君とべぇだ君だった。


 やりすぎだと静止を促す牽制に時坂君は気が付いていた。


 気温が上がり、バチリと光がちらつく。


 緊迫する気配に、彼らを一瞥し、時坂君は舌打ちする。


 そしてシーラさんの前には大和君が立ちふさがった。


「やめろよ。そんな事言っても、意味がない」


 シーラさんをかばうように立つ大和君を、最後に時坂君は睨みつけた。


「いいや。意味があるから問題なんだよ。俺も今はやりあうつもりはねぇ。でも近いうちにそうなるかもな。せいぜい女共と仲良くしておけ。そうすりゃいくらか生き延びる目も出てくるだろうぜ色男」


 結局時坂君は大和君に肩をぶつけて駄菓子屋を出て行ってしまった。


「あ……」


 僕は時坂君を追いかけるべきだと思った。


 だけどそんな時、大和君の呟きが耳に入って踏みとどまる。


「なんだあいつ……」


 大和君は怒りと戸惑いの視線を時坂君に向けていたが、すぐにシーラさんに向き直って彼女のことを気にかけていた。


 どちらが重症かといえば、間違いなくシーラさんの方で、彼女の顔色は見てわかるほどに蒼白だった。


「シーラもあんまり気にするなよ? あんな言いがかりみたいなこと」


 だけど肝心のシーラさんは青い顔のまま、時坂君の後姿を目で追って、そして表情をこわばらせる。


「……ですが、その通りです」


「え?」


「私……失礼します!」


 シーラさんは歩み寄った大和君を振り払って、逃げるように走って行ってしまった。


 ぽかんとする大和君。


 僕はほんの少し前まで楽しかった時間が終わってしまったことにショックを受けていた。


 でもこのままじゃあまりにも気まずい。それに今僕に出来ることもあるはずだと、僕は大和君に話しかけた。


「ご、ごめんね! 時坂君も悪い人じゃないんだ!」


 何とかフォローを入れようとしたが、それを止めたのは、ホルスト君だった。


「いいや。奴の言っていることはそう的外れでもないだろう」


「もう! ホルスト君まで!」


 何でそんな事を言うのかと非難の視線を向けてみるが、ホルスト君はまるで気にした様子もなく大和君達に言った。


「さっきも話したろう? ここにいる者に、強さに関心がないものはいないさ。……興が冷めた、今日はここで解散としよう」


「ホルスト君……」


 そしてホルスト君が立ち上がるのと同時にべぇだ君も立ち上がった。


「ボクも帰るよ。じゃあね」


「べぇだ君まで?」


「ボクは巻き込まれて女の子に嫌われたくないので」


「……あ、うん」


 ああべぇだ君。君ってやつは。しかしもうそれは手遅れだと思う。


 僕は悲しくなって、3人が出て行った入り口を見ていると、大和君には謝られてしまった。


「……なんかゴメンな。俺、空気悪くしちゃったな」


「そんな事ないよ、君は何にも悪くない……でも三人ともいい人なんだ。今日はちょっと間が悪かっただけで。だからその、ほんとゴメンね」


「ああ、うん。俺もつい熱くなっちゃってさ。今日は、もう帰るよ。また駄菓子屋来ような!」


「大和君……」


 大和君もまた、気落ちした様子で店を出て行く。


 結局僕は一人残されて、ポソリとため息をついた。


 だけど、その時バチンと豪快に背中を叩かれて僕は背筋を伸ばす。


「悩め若人よ!」


 豪快な笑みを作る校長、もとい駄菓子屋のおじさんに僕は尋ねた。


「おじさん……こういう時どうすればいいでしょう?」


 するとおじさんはニカリと白い歯を見せ言った。


「決まった答えはない! だから、悩むのだよ! 彼らの言葉は彼らの感情や考え方から導き出したむき出しの言葉だ! そのどれもが答えのない問いかけだと思いたまえ! そして君は彼らの問いかけに耳を澄ませ、自分の言葉で応えるしかないのだ! それが正解でなくともな!」


「……そうですね。がんばってみます」


 なんだかとっても漠然としているけれど、言いたいことはわかる。


 なら僕は全力で考えようと、そう思った。


 だけど、こんな些細ないさかいがあんな大事件になるとは、この時僕は想像すらしていなかった。


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