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 駄菓子屋にて、話し声が響いていた。


 駄菓子屋の中は基本的に明るくしようという雰囲気があったが、それぞれのテンションは天と地ほどにも差があった。


「まぁ仕方ないよ! 元気出せ! 君はすごく頑張った! 気持ちを伝えてからが本番だよ!」


「う、うぅ……」


「まぁ考えてみれば当然だよな。何年もかけて準備してた夢の集大成をぶっ壊されたんだから」


「うううう」


「そう言ってやるな、言っても人生初めての言い訳しようのない完全敗北だ。今はそっとしておいてやれ」


「なるほど……無敵敗れるってところか。うん。無敵も今日で返上だな!」


「うぅぅぅぅ! みんなひどくない!!」


「そ、そうだぞ! 山田落ち込んでるんだから!」


 珍しく男子全員が駄菓子屋に集まっていた。


 男女別で治療とカウンセリング、そういう感じで反省会である。


 まぁその建前で駄菓子屋はどうなのかという気がしないではないが、落ち着ける場所と言えば落ち着ける。


 しかし僕はそれでもどうしても装飾については納得しかねた。


 即席で用意された横断幕にはこうある。


『山田公平を励ます会』と。


 参加メンバーはべぇだ君。時坂君。ホルスト君。そして……大和君である。


 僕はと言えば座敷の机に突っ伏して、耐えるのみ。


 目の前に山盛りに積まれた駄菓子の山も、いまだ僕を癒すまでには至らなかった。


 友達のいじりがきついんじゃない、一言一句その通りだからつらいのである。


 僕の頬に刻まれた真っ赤なモミジが、そのすべてを肯定していた。


 ホルスト君は梅味のしょっぱいお菓子をかじりながら、僕の肩を楽しく叩く。


「まぁしばらく山田は大活躍だったからな。コスプレして登校に続いて、公開告白の末に玉砕だ。青春の暗黒面を光速で駆け抜けた男に幸あれだ」


「ホルスト!」


「うががががが……」


「うわぁ ! 山田が白目を!」


「……あれだろ? 心に体が応えてるんだろう? 爆発とかするなよ?」


「……そうなったら絶対全員道連れにしてやるぅぅぅ」


 僕のささやかな抵抗には何の力もないようだ。


 まぁ傷心であるが、僕は大丈夫である。


 ちょっとばかりいじりがきつい友達であるが、こうして一緒にいてくれるのだから頼もしい限りだ。いや、本当に。


「まぁ、あまり落ち込むな。人生は長いのだ、今この瞬間に世界が終わるわけじゃない」


「そうだぞ? なに、悪いことがあればいいこともあるって!」


「そうそう薊さんだって、今後どうなるかわからないんだしね」


 毒にも薬にもならない励ましだった。


 しかし、べぇだ君の一言で僕は八ッとなって立ち上がる。


 そしてここに一緒にいる妙にご満悦な竜王寺校長に僕は詰め寄っていた。


「……そうだ薊さん! 薊さんはどうなるんですか!?」


 そう言うと、竜王寺校長は少しだけ困り顔を浮かべたが、大丈夫だと頷いていた。


「ふむ、そうだな……なに、何も問題はないさ」


「へ?」


 完全に意表を突かれた僕だったが、竜王寺校長の言葉は嘘というわけではないらしい。


「そもそもここはそういう学園だからな。戦闘行為は禁止されるどころか推奨されている。それに今回の一連の騒ぎは研究成果を秘匿していたことが多少問題になるかもしれないが、力を求めること自体は何ら問題にはならない」


 あまりにも適当な処理に男子全員はあきれ声を出していた。


「いいのかそれで?」


「まぁ、あきらかな反逆だったと思うが?」


「それに、他人の能力をコピーする技術なんてかなり危険だよね?」


 時坂君とホルスト君、そしてべぇだ君は口々に言うが、竜王寺校長は肩をすくめてチラリと僕を見て言った。


「ふむ。だが彼女の生み出した技術は非常に価値が高い。それに今回のことはすべては未遂だ。現物はすべて壊され、研究データは彼女の手によって処分されていた。今回の詳細はもう彼女の頭の中にしか存在しない、心配事と言えば彼女によからぬことをしてくる輩がいそうだということくらいだが……」


「「「……」」」


 みんなの視線が痛いくらい僕に集まる。


 だから僕はあえて断言した。


「ええ、僕が阻止しました! だから今後は僕の責任で彼女に手は出させませんとも!」


 もはややけっぱちである。


 彼女の研究の成果は他ならぬこの僕が一つ残らずぶっ壊しましたとも、だからこそ生まれるかもしれない実害は僕が何とかする。


 そう僕が言えばきっと薊さんの助けになれるはず!


 フラれても好きなんだからしょうがない。


 薊さんには悪い事をしたと思っている。


 彼女の助けになるのなら、活きのいいことの一つや二つ言ってやろうというものだった。


「まぁ。この学園もそういう雑音を排除するためにある。薊君が今すぐどうにかなるようなことはない」


「「「……まぁそうだな」」」


「もちろんどうにもさせません!」


 僕は胸をたたいて、力強く断言した。


 何かあったなら、どうにかあがいてみせる。そんな覚悟はとうに済ませてあった。


 みんなあきれているような残念なものを見るようなそんな視線を感じたわけだが、ただ一人少しだけ妙な視線を感じて、顔を向けるとそこには大和君がやけに顔を赤くして感心した風に僕に言った。


「はぁー。で、でもすごいな山田は。恋人とか告白とか……俺にはまだ無理っぽい」


 彼の一言にものすごくぎょっとした視線が大和君に集まった。


 もちろん僕も含めてだ。


 この学園で一番そういう浮いた話しかなさそうな男が何を言い出すのかと。


 大和君はどういうわけか集まった視線の意味を、まるでわかっていないようだった。


「な、なんだよ」


「いや……本気で言ったの? 冗談ではなく?」


 念のため僕が尋ねると、大和君は戸惑いながらも頷いて見せた。


「あ、ああ」


 そんな大和君を放っておけなかったのか、他の三人も記者並みの突撃力で大和君を問い詰めにかかっていた。


「よりにもよってお前が? あんなに女子に囲まれていたくせに?」


「いや、だってそれは俺の友達がたまたま女の子だっただけで」


「それにしたって、まったくってことはないだろう?」


「そ、そうか? だって俺達まだ学生だろ? それに思春期って勘違いも多いっていうし」


「いやいやいやそれはどうなの? 死ぬの? え? 殺していいってこと?」


 べぇだ君の目が真面目に殺気立って来たのを見て、大和君は焦っていたがとうとう重いため息をついて自分の頭をガシガシかいてうなだれた。


「……死なないよ。殺さないでくれ。いや、まぁ俺だって考えないわけじゃないけど。女子のクラスメイトはみんな子供の時からの幼馴染で俺にとっては本当にすごく大事な友達なんだ。そういう目でなかなか見れないんだよ。関係だって壊したくない」


 大和君は非常に複雑な、苦い顔で力なく呟いた。


「いやしかし、相手の方はすぐにでも現状の関係を壊したくって仕方がないように見えたが……」


 ホルスト君は大和君の周囲の状況を思い出し、強烈なアプローチを繰り返してちょっとおかしくなってる状況に苦言を漏らすと、大和君はちょっと泣きそうな顔で言った。


「でも、俺達ってこの先たぶんすごく長い付き合いになると思うんだ。俺は父さんや姉さんを見てるからわかるんだけど、俺達みたいな異能者のつながりって広いようで案外狭いんだよ。きっと俺達、この学園から出ても顔を合わせる機会は多いと思う。女性で戦いまでこなせる能力者って少ないから、あいつらは特に今の友達を大事にしなきゃいけないと思うんだよ。それに俺、まだまだ弱いからさ、この先たぶんもっと真剣にやらないとすぐ死にそうだって最近はすごく感じるんだよな。変に焦って俺の勝手な思い込みで、あいつらの足を引っ張りたくない」


 僕達は顔を見合わせた。


 言葉がないというか、何と言ったらいいかもわからない。


 やるせなさと己の小ささが妙に胸に刺さった。


 大和君は言う。


「ああでもやっぱり、遠慮のない友達付き合いって大事だなって思うな。公平達が男友達同士でつるんでるのは楽しそうだった。うらやましいなって思って見てた」


「「「「お、おう……」」」」


 隣の芝は青いというが、それぞれにそれぞれの悩みがあるらしい。


 ホルスト君は愕然として言った。


「衝撃だな。こちらがラブコメを覗く時、ラブコメもまたこちらを覗いているのだ」


「……隣の芝は青く見える的なことか?」


「いや、でもどうかな? ボクは普通に彼の方がうらやましいけど?」


「……うーむ。なんだろう? なんとも言えない」


 駄菓子屋の外から、元気そうな女の子達の声がこちらに近づいてきているのが分かった。


 治療を終えて、しびれを切らした彼女達がこれから押し寄せてくるのだろう。


 薊さんも来るのなら、僕はまず何といえばいいのか目先のことすらよくわからなかった。


 これから僕らがどんなふうな未来を歩むのか、確かに全くわからない。


 近い未来で言えば僕らは強くなったのだからこの学園の価値が認められることだろう。


 ひょっとするとたくさんの後輩ができるかもしれない。


 もしかしたら今度も女の子が多くって、みんな大和君に一目ぼれしちゃったりするのかも。


 あまりにも荒唐無稽な想像をした僕はクスリと笑う。


 ……。


 いやまさかほんとにそんなことないよね?


 複雑な心境で、僕らはそんな彼を横目で見た。


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