45話 安住晴香の訪問
牧瀬このみは心の準備をしていなかった。安住晴香を家に誘ってしまった事に少し焦っていると、
「このみちゃん、私、大丈夫だよ。無理しなくても…今度でも。」晴香はこのみの心中を読み、そう言った。
「いや、あはは、全然大丈夫なんだけどさ、ちょっと色々あって…。うん、でも平気だからおいでって。」このみはそう言って晴香の腕を掴んだ。
このみの家は晴香とは反対方向のエリア、所謂、沿岸部にあるタワーマンションの一室だった。駅から降りて、幾つもの建物を通り過ぎると、このみの住むマンションに到着した。
晴香が建物のあまりの高さに驚いていると、このみは晴香の手を引っ張って中に入った。エントランスから、広いラウンジがあって、コンビニエンスストア、お辞儀をして、「お帰りなさい。」と挨拶するフロントコンシェルジュ、そしてガラス張りのライブラリーを抜けると広い庭に出た。そこにはアスレチック遊具や巨大な池があって、たくさんの鯉が泳いでいた。
「…ごめんね。変な形してて、うちはそこの5号棟の20階だから、もう少しの辛抱ね。」このみはそう言って晴香の手を握ったまま歩いていった。再び建物に入りエレベーターエリアに到着すると、ようやく晴香は口を開いた。
「…私多分1人だとこの建物から出るのは不可能だね。」と言った。
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このみの部屋番号は2010室だった。エレベーターを降りると直ぐに綺麗なお花がいけてあった。このみは花に釘付けになる晴香の手を再び掴んで引っ張って自分の部屋に連れて行った。
「さあ、入って。」このみはそう言ってドアを開けると晴香は吸い寄せられるように中に入った。
突然、窓から夕焼けの眩しい光が晴香の目に入ってきた。廊下が暗かったせいか余計に眩しく見えた。晴香は周囲を見回し、その広い間取りに驚いていると、
「晴香、何飲む?紅茶でいい?」このみは既にキッチンにいてお茶を淹れる準備をしていた。晴香は部屋の中を散歩しながら見る全てのものに感動していた。大きなテレビ、ダイニングテーブル、コーナーソファなど、このみ1人には明らかに大きすぎる家具もあった。そして、晴香は壁にかかったこのみの父親と母親との写真に目を奪われた。
そこには旅行先で楽しそうにしている、このみと父親、そして母親の3人が映っていた。晴香はしばらくその写真を眺めていると、
「気になる?」このみは後ろから晴香に声をかけると、
「これがお父さん…。このみちゃんに似てるね。」と言ってクスッと笑った。
「…うん。いつも言われる!…お茶淹れたからこっちにおいで。」このみは晴香の腕をギュッと掴んた。
「そう言えば、円さんってどんな人なの?」このみは晴香に聞いた。
「実はあんまり知らないんだ…。伝えたことでほぼ全部。」晴香は紅茶を一口飲んで答えた。
「でも、気になって仕方がないの…。全て偶然だと思うけど、円さんのメッセージって、いつも決まって変なタイミングにばかり…。いつも私に言葉以外の何かを訴えてくるの…。って、ごめんね、変なこと言って…。」晴香は再び紅茶を口にした。
「…晴香、これは提案なんだけど、いっそ、本人に聞いてみたら?って、私が最初に止めさせたんだけど…!」このみは笑って言った。
「…うん、やっぱそれが1番だよね。このみちゃんがそう言うなら、私もそうしたい。」晴香はスマホを取り出してwobblyにアクセスした。そして、一気にメッセージを打ち終えてこのみに本文を見せると、
「…うん、いいと思う。この内容で送ってみよう。…大丈夫!何かあったら私が晴香を守るから。」
今度は、晴香からこのみの手を握って、一緒に送信ボタンを押した。




