32話 宮代亜美の発表
「亜美さん、お早うございます。」宮代亜美が朝登校すると真っ先に挨拶をしてきたのが琴坂もえだった。
「…あ、おはよう。昨日は、ほんと、色々迷惑かけてごめんね…。」亜美は目の下にクマを作っていて、明らかに寝不足だった。
「…亜美さん、昨晩はちゃんと寝られましたか?」もえは亜美に尋ねると、
「…実は、あの後、クラス40人分のプリントをまとめながら、父親のあのドヤ顔が写っているのを眺めていたら、完全に眠れなくなってしまって、あはは…。しかも、このプリントをこれから全員に渡すことを考えたらもう時間よ止まりなさいって感じよ…。」亜美は引きつった顔で鞄を開けて、もえの机の上にドンッと紙の束を置いた。
「亜美さん、ふぁい。」もえはいつものように、淡々とした口調で亜美にエールを送った。
「はい、皆さん、お早うございます。」と田原先生が教室に入ってくると、直ぐにもえと亜美に目配せをして教卓の前で立ち止まった。
「さて、本日はお知らせしたいことがあります。先日、宮代さんの提案で、皆さんと一緒に実験的な試みをスタートさせた訳ですが、今朝は新たな発表をしたいと思います。…では、宮代さんと琴坂さん、宜しくお願いします。」
もえは、予め先生にプロフィールにある亜美の父親のことは伏せるように伝えてあった。クラスの皆には最終的にバレれば良いくらいに思っていたからだ。それより、今回は亜美の名誉を守り、皆には参加を表明して欲しいと思っていた。亜美ともえは緊張の趣で前に出て、挨拶をした。もえは迅速に前列の生徒にプリントを後列まで行き届くよう手渡し始めた。皆は一枚ずつプリントを取って読み始めると、直ぐにざわざわという声が聞こえてきた。
亜美は焦りを感じながら、先ずは、皆の反応を見守っていると、段々とザワザワが大きくなってきた。もえはプリントを全て配り終えるとまた亜美の横に戻ってきた。亜美は口を開くと、
「…皆さん、先ずはお詫び申し上げます。実は、そこに写っているのは、私の父です。」と発表した。すると、クラスはええ〜!と黄色い声を上げ、一気に騒がしくなった。色んな声が聞こえてくる。先生は手を叩いて止めたが、中々止まらない。亜美はそのままの状態で待った。もえは亜美の顔を見ながら、目を輝かせていた。
「…はい、私の父はいつも家族より仕事…という典型的なビジネスマンですが、いつも私にはこう言ってきました。何事にも戸惑わないで、物事が正しいと自分のハートで感じたことは実行しろ…と。」亜美がそう言うと、クラスは一気に静まった。亜美は続けて、
「…なので、手前味噌な話と思いましたし、少々バカみたいだと恥じている自分もいますが、少なくとも、皆さんにとっては、この人の言っていることを聞いても損はない…と考えました。なので、今回父が勤める会社に皆で訪問して、その後、これからどのような企業からどんな人を呼びたいか、一緒に話し合うためにこのツアーを企画しました。」そこまで言い終えると、先生からも補足が加えられた。
「…宮代さん、素晴らしい発表を有り難うございました。先生からの補足ですか、実はまだこれ仮申請で、皆が参加してくれないと、先生、学校に正式なお願い書を宮代さんの会社宛に送ることができません。そこで、プリントの裏側に、参加したい人は名前、住所、電話番号を書いて明日の放課後までに先生にところに持ってきて下さい。是非、私たちだけのよい思い出作りに、そして皆の将来のためにこの企画を実現させましょう。」
そして、亜美はもえを見てから、2人でお辞儀をすると、クラスの拍手喝采を浴びた。




