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第9話

次にコルボが目を覚ましたのはボロボロの小屋の中だった。


どこか見覚えのある天井や壁、嗅ぎ慣れた臭い。


幼き頃過ごした、修道院の横にあるコルボが住んでいた小屋。


記憶と違う所は無いはずなのに、この場所は違う。昔住んでいた自宅ではないと感じる。


混乱するコルボがキョロキョロと辺りを見回すと、いつの間にか目の前に老人がいた。


「気がついたようじゃの。真っ白な空間というのも演出的には捨てがたいんじゃが、心が落ち着きやすいようにお主の昔の家を再現してみたんじゃが、どうかの?修道院でも良かったんじゃが人は再現できんでな、がらんとした修道院よりこっちの方がええじゃろ」


目の前の老人が何か話してるようだが、コルボのの頭の中にはまったく入ってこない。


(オレは死んだはずだが………身体に傷一つ付いてない。目の前の老人が治してくれたのか?)


とりあえず事情を把握しているだろう目の前の老人に問いかけた。


「あなたは誰ですか?それに此処は?」


「ん?わしは神じゃよ」


「……」


「お主の世界の神様じゃ。というか自分に様をつけるのは照れるのぅ」


老人が頬を染めて照れていた。


「お主死んだじゃろ?というか殺されたじゃろ。その後わしが魂を呼び寄せたんじゃよ。ここは現世とあの世の中間地点じゃ。汚れてない綺麗な魂なのに、なんかお主が不憫すぎてのう。次の人生で贔屓してやろうと思って呼んじゃった」


老人が舌を出していた。「テヘペロ」と聞こえてくるようだった。


「………」


「………」


言いたいことは山のようにあったコルボはだったが、まず聞かなければいけないことがある。


「オレは死んだんだな」


「そうじゃ。それは間違いない。こればっかりはどうにもならん」


「そうか………まあそれはいい。で、次の人生と言っていたが、どこかの人間の赤ん坊になって人生を始めるということでいいのか?


「まあそうじゃな。ただ次はお主の希望を叶えて転生さしてやろうと思っとる。お主いい奴なのに前回の人生ハードモードすぎじゃったし。何か希望はあるか?」


いまいち威厳が感じられない神にコルボは不安を覚えるが、言うだけなら問題もないだろうと思い直し希望を口にした。


「食うのに困らない、理不尽に晒されない、魔物等の脅威がなく安全、子供が安心して暮らすことができる。努力で平等に幸せになれる可能性のある人生………可能か?」


「んん〜、この世界では無理じゃな。この世界には神がわし一人しかおらんでな、手が回らんのじゃ。幸福の総量が増やせんから、どうしても不幸から逃れられん奴が出てくる。わしも頑張っとるんじゃよ、でも一人じゃし無理じゃって。わしも部下とか欲しいんじゃよ!だいたい神の位階まで上り詰める奴が一人もおらんのが問題なんじゃよ……」


ブツブツと愚痴り始めた神を無視したコルボは、言葉を被せて続きを話し始めた。


「この世界と言ったな、ということは別の世界というのもあるのか?」


「んっ?あ、ああ。あるぞい。というか無数にある。ちょっと待っておれ検索してみるでの」


そう言ってその場に胡座をかいて座った神は、空中から黒い石板のような物を取り出した。


正確に長方形に整えられたその石板らしき物を床に置くと、その端を起点に2枚に分かれた後、上部の面がぼんやりと光を発し始めた。


下部の面に手を乗せた神は、カチャカチャと多数あるボタンのような物を不規則に押し始め、最後にボタンの中でも大きい物を「ターンッ」と叩いた後コルボに向き直った。


「見つけたぞ。お主の希望に一番近いのは地球という世界じゃな。その世界には神が溢れとるでな、丁度ええじゃろ。ついでに迎えにきてもらおうかの」


コルボの返事も聞かぬままに事態は進行していく。


懐から先程の石板が縮小したようなものを取り出した神は、それを自分の頬に近づけ誰かと話し始めた。


「もしもし。わしじゃよわし、久しいの。元気じゃった? 今日はちと頼みがあっての。いやいや、そんな面倒くさい事じゃないぞ。こっちの世界からお主の世界に一人転生させて欲しいんじゃよ。うんうん、そうじゃ。めっちゃいい奴だぞい。うんうん、それで誰か迎えに来て欲しいんじゃよ。 やたっちとか相性いいじゃないかの。うんうん、それじゃ待っとるでの」


「ピッ」という音と共に話しを終えたらしい神が、次はコルボに向かって話し始めた。


「という訳で、お主は地球という世界に転生じゃ。もう少しで迎えも来るでの、ゆるりと待っておれ」


「何がという訳なのか分からんが、オレの為に骨を折ってくれた事は理解した。感謝する」


飄々とした雰囲気だがやはり神なのだろう、ただの人間であるコルボには想像もつかないような力を持ってい


る、その神に向かい深々と頭を下げた。


「なんじゃい突然照れるのう、ぬふふふふ。ええんじゃよお主はええ奴じゃし。わし気に入ったんじゃ。次の人生では幸せになるとええ。」


見た目普通の老人が頬を染めて照れていた。





しばらく神とこれまでの人生を振り返っていると、コルボと神の間の空間がぐにゃりと歪み真っ黒な楕円状の穴が出現し、その中から3本足の鴉が飛び出してきた。


「おう、早かったのうやたっち。わざわざすまんの。こやつが今回地球に転生させてやりたい人間じゃ」


やたっちと呼ばれた三本足の鴉はコルボの方へ向きを変え、じっとその瞳を見つめる。


そこでコルボが感じたのは自分の全て、精神的内面までも暴かれたような視線だった。


「おう。小僧、てめえなかなかいい色した魂持ってんじゃねえか。これだったらウチらの縄張りに迎えても問題ねえぞ。といっても人間としてだがな」


三本足のカラスというだけでも驚きなのに、ましてや話している姿にコルボは返事をすることを忘れそうになったが、なんとか言葉を返し始めた。


「あ、ああ。無理難題を聞いていただいたようで感謝する。名前はコルボという。貴方は違う世界の神なのか?」


「そうだぜ。正確には神の遣いと言った方が正しいかもしれんが。そこのジジイよりは力をもってる」


見たまんまカラスのはずなのだが、どうやったのかニヤリとした表情を浮かべコルボの世界の神に視線を向けた。


「何を言うんじゃ、やたっち。お主いうても鳥じゃろう、ヒトの神のワシの方が絶対偉いはずじゃ」


「何言ってんだジジイ!魂の一つも異世界に送れないくせによく言うぜ、耄碌したのか?」


「アホか!ワシは送ろうと思えば送れるんじゃ。ただまあ礼儀として、自分の管轄外の世界に勝手に送る訳にもいかんじゃろ。そのくらいも解らんから鳥頭って言われるんじゃ」


「なんだと、もういっぺん言ってみろジジイ!」


「なんじゃ鳥頭!」


呆気にとられるコルボをよそに喧嘩をし始めた二柱に、忘れようとしていた不安が顔を出す。


(大丈夫なのかこの二人に任せて………)


「あの……それでオレはいつ違う世界とやらに転生できるんだ?」


コルボからジト目を向けられた二柱は、ハッとした表情で我に帰りコルボに向き直った。


「お、おう。すまねえ待たせたな。この穴に飛び込めばすぐにでも転生できるぜ」


「ごほん!まあワシにできるのはここまでじゃ。次の人生では幸福になるんじゃぞ、達者でな」


「そうか、神様には世話になった。ただの人間にここまでして頂いて感謝の言葉もない。 鴉の神様には迎えに来ていただいてご足労をかけた。貴方達二人の事は忘れない」


本来であれば、この時のコルボの会話で二柱は自分のやるべき事に気づくべきだった。


「二人の事は忘れない」という重要な意味を持ったその言葉に。


しかし二柱がその事に気付いたのは、コルボが穴に飛び込んだ後しばらく経ってからだった。




「「あっ、記憶と能力消すの忘れてた……」」



二柱の呟きが創られたコルボの小屋に虚しくひびく。

これでプロローグ終わりです。


思った以上に時間かかってしまった。。。


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