第8話
プロローグ1話の続きです。
森の中に濃厚な鉄錆の臭いが立ち込める。そして無音。
虫の声さえも今は鳴りを潜めていた。
先ほどまでは金属のぶつかり合う音が鳴り響いていて、絶え間ない剣閃と火花がそこかしこに見て取れていたが、少しづつその数を減らしてゆき、今現在。
辺りには9体の死体。そのどれもが首を真一文字に掻き切られ、辺りに血を撒き散らしていた。
鴉と呼ばれたアサシン、コルボは今にも倒れそうな満身創痍といった体で周りを見回しながら、正面の男に問いかける。
「はあ、はあ、はあ…後はお前一人だけだぞ、いい加減に退いてくれねえかな?」
相対するのはおそらくコルボを襲った暗殺者集団のリーダーだろう。
部下に先制攻撃をさせてコルボを負傷させ、動きが鈍った獲物を一番の実力者がトドメを刺す。
仕事の達成を最優先にした効率のいいやり方。犠牲を度外視した。
「まさかオレの部下が全員殺られるとは思わなかった、さすが鴉。 しかしここで退くというのはありえないのはお前も解っているだろうに」
もちろんコルボは理解していたが、この状況が彼に悪態をつかせたのだ。
「だいたいなんで今回オレの仕事がバレたんだ?仲間の密告でもない限り分かりっこないはずなんだが」
完璧ともいうべき下準備に情報収集。コルボは自分の仕事に自信を持っていた。
「他の可能性がないなら残った物が真実というだけだろう。悪人だけをを誅するそのやり方は敵を作りやすい。それが仲間の中であろうともだ」
コルボはその言葉を聞いて、いや聞く前から気づいていて認めたくなかった事実に身体の力を抜く。
(密告しやがった奴は誰だ?オレ達義賊団の仲は盤石だった…ということは最近入った…)
と、ここまで考えてかぶりを振る。
どちらにせよ自分がここで終わりだというのは動かせないだろう、目の前の男は強い。万全の状態のコルボな
ら勝てる相手だが、喋るのがやっとの身体では万に一つの勝機すらない。
裏切り者が判明した所でどうしようもないのだ、恨みを抱いて死ぬよりは仲間を信じきって死ぬ方が気持ちよ
く死ねるだろう。
そう考えたコルボは最後の口を開く。
「なあ、オレはこのまま何もしないでも死ぬだろう。だからと言ってはなんだが、そのまま見といてくれよ。色々考えたい、これまでお世話になった人達に感謝を捧げたい…」
そう言って目を閉じたコルボはゆっくりと後ろに倒れていく。
身体が倒れ始めて地面に横たわる僅かな時間、コルボは刹那の想いを馳せる。
走馬灯が流れていく。
孤児の自分を拾って育ててくれた修道院のみんな。ボロボロだけど自分だけの家を建てるのを手伝ってくれた村のみんな。生き方や、悪人の倒し方を教えてくれた義賊団の仲間。最近は父親のように慕っていた団長。
(ははっ、感謝しかねえや……みんな幸せになれればいいなぁ…)
(少しは世の中のをいい方に変えれたかなぁ…)
(もし生まれ変わって次の人生があったら、今度こそ幸せになりたいなぁ………)
倒れこんだコルボの首筋に手を当て、命が消えた事を確認したアサシンのリーダーは呟く。
「鴉。オレはお前を尊敬する。オレにはその気高き生き方はできなかった。安らかに眠れ」
音の消えた森の中でその呟きは祈りのように余韻をのこしていた。
次でプロローグは終わります。