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第6話

村を出てからだいたい半日ほど、脚力強化の魔法やスタミナ回復強化の魔法を使いながら走り続けていたコルボはすでに100キロもの距離を踏破していた。


流石にまだ追っ手などは来ないだろうし、そもそもシスターが庇ってくれているはずなのでコルボに追っ手など向かっていないかもしれない。


そう考え、小川が流れている場所を見つけ、そこにあった少し大きめ木の下で野営の準備を始めた。



携帯していた食料で腹を満たし、水の補充を済ませたコルボは身体を休めながらこれまでの事を振り返る。


自分の本当の親の事、修道院の皆の事、村での生活など。


そして今日あった出来事を思い出している時にふと気付く。自分が全くと言っていいほど後悔していない事に。


修道院に戻れないのは泣きそうなくらい悲しいし、実際走りながら泣いていたけれど。


(人を殺してしまったのに何とも思ってないや。シスターは悪い事だと言っていたけど、同じような事が起きたらたぶんまた同じことをすると思うし、したいと思う)


実際は悪人しか殺すことはできないのだが、それはコルボにとってなんの問題もない。


叱ってくれたシスターに対して少し申し訳ない気持ちになりつつも、好きな人達を助ける為なら殺人という罪を犯すことも厭わない決心を決めた。



(でも、修道院のシスター達にこれまで育ててもらった恩を返せないのは嫌だな。どうにかして恩返ししなきゃ、何かいい方法ないのかなー)







イロイロな事を考えている内に今日は流石に疲れていたのか、うとうととし始め。今日は寝ようと持っていた布に包まろうとした時、何か獣のような声を耳にする。


「っ!何か今聴こえた…よな?……魔物……?」


耳をすませていると、だんだんとその音が大きくなってきた。


「近づいてきてる?」


巨大な何かの足音と、咆哮。はっきりと音の正体が判った時にはコルボの前に、身の丈3メートルにもなろうかという熊の魔物が現れていた。


焚き火の火に照らされたその姿はまさしく「死」を届ける破壊の化身ともいうべき姿。


爪は30センチ以上もあり、その鋭さは指の先全部に刃物をつけているようで。むき出しになった牙はコルボの頭蓋骨など簡単に噛み砕いてしまうだろう。

腕や足の筋肉はコルボの胴回りをゆうに超える太さでその強さを表しているのだが。


何故か背中や手足にはいくつもの矢が刺さり、毛皮を赤く染めていた。


コルボは即座に纏っていた就寝用の布を取り払うと、熊の魔物を牽制するようにそばに置いてあったナイフを構え、さらに思考加速、身体強化の魔法を使い魔物への対処を考え始めた。


(なんで怪我してるのか知らないけど、動きが鈍い今なら逃げることができるはず…)


思考加速の魔法はコルボが目にしたり聴いたりした情報をより早く頭で処理することができ、体感的には周りがスローモーションのように感じる効果がある。


それだけでは自分の身体の動きもスローモーションになってしまうのだが、身体強化を併用する事である程度は動きが知覚についてくるようになり、攻撃を避けることに関しては達人のような動きが可能になる。


その上がった能力で魔物の筋肉の動き、視線に注視しながら、初動に対してすばやく動けるように腰を落とし待ち構えた。


しばらくコルボを観察していた魔物だったが、取るに足らない相手だと判断したのか。早く目の前の生き物を排除して先に進まなければ自分が危ないとでも言うかのように、焦りを表しながら腕を振りかぶる。


魔物の腕が僅かに引かれ、攻撃に移ると判断したコルボは後ろに下がることなく前に踏み出し、体制を低くしたまま、唸りを上げ迫ってくる腕を頭の先1センチ程の距離でかいくぐると。

腕の付け根、筋のある場所をナイフで切り裂きにいく。…が。


「くっ、刃が通らない!こんな安物のナイフじゃ……」


ピンポイントに筋のある場所にナイフを走らせるものの、魔物特有の分厚い毛皮に阻まれ切り裂くことは叶わなかった。


そして魔物の攻撃は当たらないが、コルボの攻撃も通らず時間は経過して、攻防は千日手のような様相を呈してくる。



魔法は自分の中にある魔力を使わず、自然にあるものを集め力にする。

ほぼ無限にある物を引っ張ってくるので枯渇する事はないが、情報を考えて処理するのはコルボ自身の脳であり、長時間の魔法の使用は普段の何倍も負担をかけてしまい、つまり脳がオーバーヒートの様な状態になってしまう。


そして徐々に戦いの天秤が魔物の方へ傾いていき、脳がブレーカーを落とすように魔法の効果が切れ、コルボはその場にうずくまってしまった。


(あ……やばい…)



好機と見た魔物が目の前の小さな邪魔者にたいしてトドメを刺すべく、大きく腕を振りかぶった。


身体は言うことを聞かず、絶体絶命の状態に思わず目をつぶってしまい、直後の死に身構えていたがいつまで経ってもそれは訪れず。



恐る恐る目を開いたコルボが目にしたものは、首から上を無くし血を吹き上げている魔物の姿だった。

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