プロローグ 第1話
以前書いていたものをプロット段階から書き直しました。
楽しんでいただけたら幸いです。
※プロローグは重めなので読み飛ばしてもらってもかまいません(笑)雰囲気作りの為です。
一応、プロローグが終わったら後書きみたいなのを書くのでそこから読み始めていただいても大丈夫っす♪
真っ暗な森の中を、黒く、赤く、何もかもがあやふやな影が奔る。
森の中、獣道さえ見つけられない深い森。
今夜は今朝までの雨のせいか、青い、樹と草と土の混ざった「むわん」とした匂いが辺りを満たしていた。
雨雲は、自身を構成する水分を地面に落としてはいないが、未だに分厚く、月の光を遮っている。
そんな鬱蒼としてじっとりとした森の中を黒装束の男が走っていた。
いや、それは飛んでいたと表現する方が正しいのかもしれない。
漆黒の装束は、手足はもちろん顔まで覆い、その金色の瞳だけが夜の闇の中で微かに確認できる。
真っ黒の全身に爛々と光る二つの虹彩が、樹の上、地面を疾走するのを目にすれば、人によっては巨大な鴉の化け物が森の中を進んでいるように見えただろう。
ゆえに森の中を「飛んでいる」と表現する方が違和感を感じない。
しかし、その漆黒は赤い模様を身に纏い、その模様を地面と樹々に落としていく。
まるで疾走した足跡を残すように。その命の源。自らの血液で。
(くそっ!なんでばれた!ヘマなんかしてないってのに!)
内心で毒づきながら、この仕事を受けた経緯を振り返る。
アサシンとしての実力は高い方だと自分でもわかる。
魔法は得意ではないが、気配を消す、証拠を残さない立ち回り、人の命を一瞬で刈り取る暗殺技術、クライアントの見極め。
10年以上に渡り培ってきたそのスキルは、他の同業に負けない自負がある。
30日前に受けた依頼も同様に、クライアントの素性に、動機の整合性、暗殺対象の行動パターンや人物像、こと趣味に至るまで調べ尽くしたはずだった。
男が秘めた「殺すのは悪人のみ」という矜持に反しない、人間のクズとしか言いようのない人物だった。
小さな田舎の領主という身代に反して、その生活は王都の上流貴族のような羽振りで。
領民から奪う、弄ぶ、犯す。それが毎日当たり前のように繰り返される。
その被害者。蹂躙された領民達から集められた、銅貨だらけの依頼料を受け取り、準備し万全の体制で仕事に臨んだはずだった。
(ヤバイな、目が霞んできた。手足の感覚も重い。)
(止血している暇もないし、追跡を撒くのは不可能に近いか……)
(身体強化の魔法も、思考加速の魔法も処理の負荷が限界で使えない。アイテムの手持ちも無いとなると……)
男の頭の中に「詰み」という言葉が広がっていく。
(まあ、あのクソヤローを始末できたからいいか……もともとこの世に未練なんかないし。)
そして男の足が止まる。
一呼吸の時間の後、男を取り囲むように10人の武装した追っ手が取り囲み、10人の中でも一際存在感を消した男が口を開く。
「鴉ほどの名の知れたアサシンを数で包囲して始末するというのは、同業として恥だと理解しているが。こうでもしないと勝てんのでな、許せ」
「いいさ、こんな仕事をしてるんだ。最期はこんなもんだろ」
軽い口調で、鴉と呼ばれた男が応え、ニヤリと黒装束の中の口を歪めた後。
「でもな……あんた達の半分くらいは一緒について来てもらおうかね。地獄まで一人は心細いから、よっ!」
叫ぶと同時に、振り向きざま背後にいる気配の大きな男の方へ跳ぶ。
その一歩目に地面の泥と小石を蹴り上げ、背後の男の隙を作り視線を切る。
そしてそのまま懐に入り込むと、手刀を、その切っ先にあたる、揃えた指を喉仏に突き込むと同時に腕を引き戻し、吹き出てくる血を避け横に回り込む。
気道、食道、頚椎までもを瞬時に破壊された身体がゆっくりと前に倒れこむが、その身体の後ろに素早く回り込むと。それを盾にして飛び込んでくるナイフを防いだ。
一瞬の内に命が消え、その手からこぼれ落ちたショートソードを奪い取り、包囲した者たちのうち近い所にいた者たちの斬撃を斬り払う。
その間一刹那。
武器を手にした鴉を警戒して、距離をとった追っ手に向かいゆっくりと口を開く。
「さて、武器も手に入った事だ。悪あがきを始めさせてもらう」
次から鴉さんの過去話になります。