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2話「個性的な顔が強過ぎる個性を作り出す」

お久しぶりです。

失踪していませんよ。

その面々の反応を見ても俺はあまり焦りはしなかった。

何故なら何となく予想していたから。


「…大丈夫か?」

「大丈夫じゃないですぅ…。」

「取り敢えず入部届けを受け取って欲しいんだが…。」


そう言うとまたもや狭川先輩は停止し、そしてオロオロし始めた。

恐らく「こんなイケメンさんが入部する訳ない!きっと部活を間違えたんだ!」みたいな事を考えているのだろう。


「あ、あの!部活を間違えていませんか!」


ほら、やっぱり。


「ここが文芸部では無いなら間違えているな。違うのか?」

「違わないです!」

「ならあっている。」

「あわわわ…。」


またオロオロし始めた狭川先輩に少し面倒くさくなってしまった俺は少し強引にいくことにした。


「入部届けを受け取ってくれるのかくれないのかはっきりしてくれないか。」

「え!その、受け取らせて頂きます!」

「なら良かった。」


そう言って俺はやっと入部届けを渡す事が出来た。

そのまま俺はまだ半分混乱状態の狭川先輩の横を通り抜け、菅原の元へ向かった。

まだ停止している菅原の足元に落ちていた本を拾い、持たせ直してから菅原に話しかける。


「菅原、またラノベを読んでるのか?」


俺に話しかけられた事によって再起動をはたした菅原は、困惑した様子で俺に問いかけた。


「なんで、この部活、に?」

「うーん、強いて言うなら菅原がいるからだな。」


嘘では無い。

実際この部活を選んだ理由の8割は菅原がいるからなのだから。


「あ、う…。」


照れる菅原は何度見ても飽きないな。


「あのー…。お2人はどういうご関係なのでしょうか?」


やっと状況を把握して、俺を追いかけて来た狭川先輩がそう問いかけてきた。


「まあ…友達だな。」


そう言うと菅原は少し悲しそうな顔をした。

いや、俺だって彼女です!なんて言ってみたいが、仮に言ったらお前確実に気絶するだろ。


「な…何故でしょうか?」


うん?

どういう意味だ?

あまりに前後の文章が繋がってなさ過ぎて質問の意図が分からないんだが。


「すまない、どういう意味だかよく分からないんだが。」

「いや、その、どうしてって言うか、そのぉ、」


もしかしてどうして菅原と友達なのかと聞きたいのか?

何故ブサイクと友達なのかと。

普通に腹が立つんだが。


「もしも何故菅原と友達をやっているのかなんて巫山戯た質問だったら許さんぞ。」


そう言うと狭川先輩は冷汗をダラダラと流し始めた。


「俺は菅原と友達になりたいと思ったから友達をやっているんだ。特別な理由なんてない普通の友達をな。次菅原を辱める様な事を言ったら許さないぞ。」


真剣な声色でそう言うと、狭川先輩も自分が相当失礼な事を言ったのに気が付いたのか申し訳なさそうな顔で謝ってきた。


「ごめんなさい。単純に気になっただけだったんです。菅原さんもごめんなさい。」

「いえ、大丈夫、です。」


部室内が変な空気になってしまった為、俺は話題を変える事にした。


「それで、自己紹介等はしないのか?狭川先輩以外声すら聞けていないんだが。」

「そ、そうですね。では私から。2年生で部長の狭川 朋恵です。」


次に立ち上がったのは部室に入ったときから綺麗な姿勢でティーカップに入った紅茶を飲んでいた女性だった。


「2年生の貴之原きのはら 智香ともかですわ。よろしくお願いしますわ。」


ですわ?

あまりのキャラの濃さに混乱した俺は思わず狭川先輩の方を見てしまった。


「その、智香さんはお家がお金持ちなんです。」

「それでこんな喋り方なのか?」

「いいえ、只の趣味ですわ。」


・・・・・・・・・?


「は?」

「趣味ですわ。」


じゃあお金持ちのくだりは要らなかっただろ。

釈然としないが恐らく何時までもこの話しを続けたとてすっきりしない事は確実なのでここは見逃す事にする。

次に立ち上がったのはこの部屋にいた最後の1人で、ずっと本を読んでいた大和撫子然とした女性だった。


「1年生の柳瀬やなせ 雪菜せつなよ。雌豚と呼んでちょうだい。」


…は?

俺はこの時前世を含めた長い人生の中で初めて思考が停止するという事態に陥っていた。

それは彼女の発言もあるし、彼女が持っていたほんのタイトルが「SMプレイ〜上級者編〜」だと気付いたからでもある。

やっとの事で再起動した俺がまずした事は、勢いよく狭川先輩の方を振り向く事だった。

やってしまったといった顔をしていた狭川先輩は、急に振り向いた俺の行動にビクッと肩を震わせた後言い訳でもする様に語り始めた。


「その、なんて言いますか…。柳瀬さんはその容姿のせいで男性の方はおろか女性の方からも蔑まれていたそうで…。開いてはいけない扉を開いてしまったといいますか…。」


その言葉を聞いた瞬間俺の中に微かにあった雌豚発言に対する嫌悪感がスーッと消えていった。

彼女が被害者だからだと分かったからじゃない。

かつて俺もその扉を開きかけた事があったからだ。

前世でまだ若かった頃の時の話だ。

俺は確かにいくらかマシな不細工ではあったが、しかし不細工は不細工。

口で直接言っては来ないものの、その侮蔑を含んだ目が自分に対する嫌悪感を口よりも雄弁に語っていた。

そんな目で見続けられた俺は、思春期も手伝ってかある日からその目に微かに興奮する様になっていった。

幸いと言うべきか俺は禁忌の扉の表層に触れただけで済んだが、もしかしたら彼女と同じ状況になっていたかもしれない。

そう考えれば嫌悪感などわくはずが無かった。


「分かった、雌豚。よろしく頼む。」


だからこう言った俺は悪くないと思う。

当然言った本人である柳瀬も含めた全員が驚いた表情でこちらを見て来た事は言うまでもないし、それを見た俺が早まったかと感じた事などは蛇足でしかない。


「あー、俺は1年の河依 昌だ。」


こんな状況で自己紹介に逃げた俺が情けなくなるが、対応としては正しかったと信じたい。

こうして俺の、いや、俺達5人の文芸部での何気ない日常は高らかに、とはいかずに始まりを告げたのだった。

空いた期間の割には短い?

これからもこんな感じだよ。

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