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押し合い(千字)(寓話)


「こうしてペンギンたちは待ちきれなくなると、互いに押し合って、誰かを海の中に落とそうとするのです。運悪く落ちたペンギンは、もし海中にアザラシがいなければ無事生還できるでしょう。そうして安全が確認されれば他のペンギンも海に飛び込むでしょう。もし、アザラシがいた時は……」


 ここで目が覚めた。昼寝していたのだ。

 変な夢を見たもんだ。きっと昨晩遅くまで見ていたテレビの影響だな。腕時計を見れば、昼休み終了の五分前。そろそろ教室に戻るとするか。


 教室の戸を開ける。あれ、俺の机がないぞ。変だな。訊いてみるか。

「おい、俺の机、知らないか」

「知らないよ、って言うか、君は誰だ。教室を間違えているんじゃないのか」


 そう言われて外に出る。確認する。いや、確かに俺の教室だ。しかしさっき声を掛けたのは誰だったろう。クラスメイトの名前をはっきりと思い出せない。

 仕方がないので帰宅することにした。学校から徒歩十五分の俺の家。あれ、家が無い。おかしいな。自分の家の場所を忘れるはずがないのに。近くの家で訊いてみるか。


「すみません、○○と言いますが、この辺にそんな名前の家ありませんか」

「ありませんよ。聞いたことも見たこともありません。どこか別の町内と勘違いしているのではないですか」


 おかしいな。確かにこの辺りだと思ったんだが。こうなったら役場で尋ねてみるか。

さっそく役場の住民課で訊いてみる。


「あの、この住所なんですが、どの辺になりますか」

「そんな番地はありませんね」

「えっと、それじゃ、このマイナンバーは」

「その番号は欠番ですね」

「欠番? 欠番ってどういう意味ですか」

「個人情報ですのでお教えできません」


 窓口の係りはそれっきり口を利いてくれなかった。仕方なく俺は外に出た。


 どこか高い場所に行きたかった。そこから俺の居場所を見つけたかったのだ。山の上の公園に向かった。

 

 俺はジャングルジムのてっぺんから、公園の下に広がる町を眺めた。俺の住んでいる町だ。そうだ、確かに俺はあの町に住んでいた。しかし、今、それが不思議と白々しく見える。どうしてだろう。


 何かが俺を押している。それは奇妙な力だった。俺はジャングルジムのてっぺんから飛び降りた。瞬間、俺の目に映ったのは沢山のペンギンだった。

 ペンギン……脂肪を溜め込んで、無言で押し合う、無数のペンギンたち……


 ああ、そうか。今、ようやく目が覚めたんだ。俺はペンギンだったんだ。観測隊の男たちからエサを貰い、仲良くなり、やがて人間に憧れ始めた俺。そしてその罰として崖から落とされたペンギン、それが俺だったんだ。

 落ちていく俺の体。下の海にアザラシがいることはわかっている。落ちた後は、間違いなく食われるだろう。


 でも、まあ、最後に人間になった夢が見られたんだ。悪くなかったさ。



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