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異世界転生(二千字)(異世界)

  1


 あたしは魔法少女のマハー。世界征服をたくらむ悪者と毎日激しい戦いを繰り広げている。


「マハー、そっちに行ったよ」


 今日も今日とて四人の仲間と共に森の中で大暴れ。あたしの得意技は水魔法。草むらから飛び出してきた悪霊バイクに必殺技をお見舞いしてあげちゃう。


渦巻爆裂水流ローリングエクスプロージョンストリーム!」


「ぐはぁー! ギュルルルウー!」


 悪霊バイクはマフラーから白い煙を上げてご昇天。当然よね。あたしの必殺技を食らって平気でいられるヤツなんて存在するはずがないんだから。


「本日はこれにて終了おー!」


 リーダーのミヒーが高らかに宣言。レベルはそこそこ上がったし、バイクが持っていたガスもそこそこあったので、あたしたち五人はそれなりに満足。ガスは交換所でゴールドに換金してもらえるから大事にしないとね。


「それにしても毎日毎日戦闘ばかり。こんな日々にもちょっと飽きてきたかなあ」


 一番若いムフーが口をとがらせている。それはまあ、あたしもそんな事を考える時もあるけど、この世界では当たり前の事だから仕方ないわよね。


「スリル一杯の冒険の日々。戦えば戦うほどレベルは上がり、ステータスは上がり、お金持ちになり、有名になる。楽しいじゃない」


 一番年長のメヘーはもう何年こんな暮らしを続けているんだろう。結構いい歳なのに、今でも初心者のあたしたちと一緒に行動しているんだから。レベルを上げて大魔法使いになるのは意外と大変なのかもね。


「あっ、あれ見て!」


 一番用心深いモホーが声を上げた。しまった、隠れモンスターだ。巨大なダン=プカーがこちらに突進して来る。


「みんな、逃げて!」


 リーダーに言われるまでもなくあたしたちは走り出した。でも駄目。こんな巨大で強力なダン=プカーは初めてだった。あたしたちは呆気なくひき殺されてしまった。


 2


 気が付いたら真っ白な場所に居た。あたしたちの世界に生き返りの方法はない。死んだらそれで終わり。とすれば、ここが死後の世界ってやつなのかしら。


「う~ん、ここどこ」


 他の四人も気が付いたようだ。どうやらあたしたちは五人仲良く死んでしまったらしい。


「ここは死んだ者が来る世界です」


 いきなり目の前に綺麗なお姉さんが現われた。初めて見る姿。誰だろう。


「私は女神です。あなたたちは生きている間、とても頑張りましたね。ご褒美に異世界に転生させてあげましょう。これからは今までとは全く別の世界で新しい毎日を送るのです」


 ああ、聞いた事があるわ。異世界転生、本当にあったんだ。


「さあ、それでは皆さん、新しい世界へ旅立つのです」


 女神が両手を上げた。リーダーのミヒーが慌てて質問する。


「ちょ、ちょっと待って。その異世界ってどんな所なの。それからあたしたちの職業は? 初期ステータスは? 持って行ける武器とか特殊能力とか、その世界に行く前に色々と決める事があるんじゃないの?」

「心配は無用です。あなたたちが行く異世界はとても平和なのでそんな細かい事柄を決める必要はないのです。ただ職業はこちらで勝手に決めさせていただきます。それでは新しい世界へレッツゴー!」


「きゃああああー!」


 こうしてあたしたち五人は異世界へ転生した。


 3


 女神様の言葉は本当だった。あたしたちが転生した日本という異世界はモンスターなんていない、戦闘など無縁の平和な世界だった。あたしの職業は市役所の水道課。元は水魔法の使い手だから水の事ならお任せよ。


「あ~、今日もちょろい一日だったわ」


 はっきり言って仕事なんかほとんどないのよ。毎日椅子に座って時が過ぎるのを待つだけ。定時になれば住民課のモホーや税務課のメヘー、いつの間にか助役になった元リーダーのミヒー、市議会議員のムフーと一緒に、食事をしたり映画を観たり自由きままなアフターファイブ。


「ねえねえ、福祉課の新人の男の子、どう思う」


 五人集まってする話と言えば男の話題。あたしたちもお年頃ですからね、そろそろ適当な男を見付けて家庭を作らなくちゃ。


「いいんじゃない。結婚しても尻に敷けそうな感じ」


 あたしたちの未来ははっきり見えている。適当な男と一緒になり、子供を作り、家庭を築き、定年まで共働き、孫に囲まれ、豊かな年金生活。何の心配もない。戦いも魔法も悪も善も、全く無縁の素晴らしい異世界。


「それにしてもこの異世界、最高ね。汗と汚れに塗れて戦っていた日々が、ホント馬鹿らしいって思えるわ」

「あたしこの前、本屋で立ち読みしたんだけど、戦いばかりの異世界に転生するラノベが結構人気みたいよ」

「馬鹿よねえ。何も知らないでそんな異世界に憧れるなんて。こうやって毎日呑気に過ごせるほうがよっぽど楽しいのにね」

「隣の芝生は青く見えるって言うじゃない。一度体験してみればいいのよ。この異世界の有難味がよく分かるはずだから」

「ホントよねえ。もしあたしがこの世界で死んで、元居た世界に生き返らせてあげるって言われたら、絶対拒否するわ。このまま死なせてくださいってね」


 あたしたちは顔を見合わせて頷き合う。そう、最後は必ずこの話題。


 異世界転生。


 あたしたちにとっては最高の異世界転生だった。


 あなたたちにとって最高かどうか、


 それは分からないけどね。


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